14日目 たのもうって言ってんじゃん
「おはよう蘭子…」
「おはようお母さん…早速だけど喪服出して」
「喪服?」
「喪中だから…」
1月14日、土曜日。
受験を目前にした女子中学生に休みはない。が、この日だけはこの桐屋蘭子、行かなければならない所がある。
「へぶしゅっ!!ふぇぶしゅっ!!」
喪服は無いと言われて黒のワンピース(半袖)を母上からお借りした蘭子、早朝の電車で忘ヶ崎へ向かう…
木曜から降ったり止んだりしてる雪が今日も続いていた。
はっきり言って寒かった。
--こーちゃんこと康太(究極の弟にして大天使ミカエルの生まれ変わり)との土曜日を返上してまで向かわなければならない場所とは…
「へぶしゅっ!!へぇぇぶしゅっ!!あのババァ…へべぇぇしゅっ!!!!」
「おいっ!さっきから飛沫が飛んでんぞ!?」
ホームで電車を待つ土曜日にも関わらずスーツ姿のサラリーマンもとい我々の未来の姿にキレ散らかされながらも今や遅しと鉄の方舟を待つのは私が令和のノアだから。
遡ること9日前…
地球滅亡を予知した私桐屋蘭子はこーちゃんの未来を救う事も諦め忘ヶ崎の街をムーンウォークしてた……
………………嘘です。ムーンウォークはしてません。
その時私は出会った……
……そう!あの私をインキチ呼ばわりする易者のババァにっ!!
私が予知夢にて地球滅亡を予知した令和のノアだと信じずなんか小馬鹿にした感じ醸してたあの梅干しの擬人化!
あのババァに一泡吹かす為私は今日、新たなる予知を手に電車を待っていた…
次来る時までに予知夢を見てきて当たったら私の事を信じる……インキチババァは私にそうイキがった。
ので、私はババァから予知夢を授けてくれる時空のおじさんの呼び出し方を教わり(半ば事故)実践。
そこで時空のおじさんから新しい予知夢を授かったのだっ!!
--までが前回までのあらすじ。
『五番乗り場に列車が到着します』
「へっくしょいっ!!やっとか!!寒いってんの!!」
「おい、いい加減にしろよお前!さっきからくしゃみする時だけこっち向くな!!」
…整理しよう。
私がババァをひれ伏させる為の3つの予知夢を…
「くしょん!!」
「聞いてんのか!?」
その1、もうすぐ忘ヶ崎の街に路畑カンパルノがやって来る。そしてそこで私は運命の出会いをする。
その2、易者のババァは今日喪中。
その3、今日バナナで電車がひっくり返る(多分)
「……である!」
「なんだ!?なにがだ!?」
まだ薄暗いホームに目を光らせた電車が四角い顔を突撃させんと突っ込んでくる。私はその様子を眺めつつ3つの予知夢を頭の中で復唱した。
……これであのババァを土下座させられるぞ。むふふふ……
「たかちゃん、お外でバナナ食べたらダメって言ったでしょ?」
「あうー」
……バナナ?
その時私は、今まさにホームにスライディングを決めようとしている電車を待つ親子の会話を耳にした。
その親子は電車の鼻先よりまだ先の位置、ホームの先頭側に立つ親子…
母親らしき人が連れてる坊やに何故かバナナの捕食を注意してる。しかし私同様鼻水が止まらない坊やはバナナ中毒を患っているらしく口からバナナを離さない。
「あうーーーっ」
「もう!バナナの皮がゴミになるじゃない。こっちに寄越しなさい」
どうしてもバナナが辞められない坊やはみるみるうちにバナナを消費し、目の前に迫る電車の鼻先を目前にバナナを皮だけにしてしまった。
それに対して生ゴミが増えてしまった事に対して不満を呈する母親…
……電車、バナナ…?
その時この桐屋蘭子の脳裏にあの日の予知夢がフラッシュバックする。
回転する電車内の光景……
バナナの皮というワード……
「ま…まさ…くしゅ!!」
「いい加減にしろよ?」
なんかいい感じのところに飛沫防止の背広があったんでハクション零式で鼻水を飛ばしてから重なり合うピースと目の前の光景を照らし合わせる…
その時、少年は目の前を通過しようとする電車の鼻先へ向けてバナナの皮をあろうことか捨てようとしていた。
……そう、線路に向かって!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
その時、私の体は考えるより早く飛び出していた。
それこそまさにボルサリーノの『八咫鏡』並に…
「うぎゃああああっ!?」
私の体当たりに吹き飛ばされる飛沫防止リーマン(ちり紙代用万年平社員)を犠牲に私は飛び出した。
今まさに線路へ解き放たれようとしていたバナナの皮へと……
超スライディングをキメた私は今まさに電車の車輪が通過しようとする路線へ落ちかけるバナナの皮をキャッチ!
それによって救われた命の数は計り知れない…
そして犠牲となった黒ワンピースの面積も計り知れない……
「痛ぁぁ!?擦りむいた!!」
「なんなんださっきからお前!?ふざけんな!!」
*******************
時空のおじさんの見せる予知夢…
それは確定された未来ではない。
それはこーちゃんが天ぷら油で火傷しそうになった未来を回避出来た事が証明してる。つまり行動次第である程度未来は変えられるんだ。
ので
私がバナナの皮をキャッチした事で乗員乗客(何人かは知らんけど)の尊い命が救われた……
はず……
「…………救われた、のか?」
この時蘭子の脳裏に浮かぶ疑問は目の前の揺れる電車の吊革と重なる夢の光景…
「……予知夢で見る光景は私の視点での光景……こーちゃんが火傷しかけた時、今まで見せられた光景の構図的に私はそう考えてる」
「?」
別に隣の学生服の男に語りかけてる訳ではないけど続ける。
「なぜなら、今まで見てきた光景の中に私本人は映ってなかったし、人の視点から眺めてる光景っぽいから。こーちゃんが火傷しかけた時の光景も、リアルとそのまま重なってた」
「……はぁ?」
「となるとだ。電車事故の予知夢で見た光景は車内が激しくひっくり返る光景と脱線した電車だった…」
「え?事故?」
「あのバナナ坊やが事故の原因なら、脱線する電車は私が乗り込む前の電車ってことになる…だったら私はまだ乗ってないのに、どうして車内の事故の光景が夢で出てきたのかな?」
「……さぁ?」
答えの出ない学生服の男を見つめて私は続ける。ちなみにこいつが誰かは知らない。
「つまりはさっきのアレは事故の原因ではなく、事故はこの後起こる可能性があるって事ね…」
「え……?」
不安に表情を曇らせる学生服の男…学生服の男ではあるけど虹村億泰の兄ではないことは確かである。
そして電車は何事もなく目的地へ…
『忘ヶ崎〜、忘ヶ崎〜』
*******************
ババァは忘ヶ崎の占いの館で易者をしてるって言ってた…
現代人の体の一部、スマホのマップアプリで検索してそれらしきお店を補足。しんしんと降り注ぐ雪の中、なんでこんなに寒い中梅干しババァに会いに行くんだっけ?って疑問に思いつつ……
「へぶしゅっ!!」
桐屋蘭子、占いの館へ降り立つ……
--占いの館『万華鏡』
なんか胡散臭い婆さんが住んでそうな、胡散臭い一軒家ってカンジ。表札代わりに貼り付けられた看板を確認しつつ、蘭子、扉の前に立つ。
「たのもーーーっ!!」
桐屋蘭子にインターホンの概念は無い。そしてインターホンが当たり前のように付いてるあたりやはり自宅兼お店みたい。道理で胡散臭い家のはずだ…
寒いんだよ早く開けろ。
「たーーーのーーーもーーーっ!!」
ガチャガチャガチャッ!!
「たぁぁぁのぉぉぉもぉぉぉっ!!!!」
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャッ!!ドカッ!!ドゴッ!!
「痛っ…!くしゅん!ちっ…たぁぁぁぁぁぁぁぁのぉぉぉぉぉもぉぉぉぉぉっ!!」
「やめてくださいドアが壊れるでしょう」
家宅捜索に来た大阪府警を入れたくないヤクザなみに開けてくれなかった玄関がようやく開いた。
そこから顔を出したのは黒髪おかっぱの小学校高学年くらいの女の子だ。
「どなたですか?」
「はよ開けんかぁいっ!!ゴラァっ!!」
「開けました。大声出さないでください」
「開けんかいコラァ!!」ドンッ!!
「叩かないでください警察呼びますよ?」
……こうして私はあのババァと再会を果たす事になる…
しかし、何の為に?なんだっけ?
「この度はごしゅーしょーさまです」
「なんで知ってるんだい?」
実に9日振りに対面したババァは変わらず干からびた顔を私に向けている。落窪んで影の落ちた瞳の奥にはあの日の輝きはない。
「来るのが遅いっ!…孫や、お茶を淹れてくれんかね?」
「うん。ババァ」
「ババァ?」
「…ババァこれ、少ないけど…香典」
私はそっとガラス製のテーブルの上に『こうでん』って書いた茶封筒を滑らせる。地味にガラスに手垢を付ける私をババァがなんとも言えない顔で見てた。
「…ほんとに少ないの」
封筒から転がる3円を見つめるババァと故人を偲ぶ姿勢を露わにする私との間にキンキンに冷えた麦茶が割って入る。確実に嫌がらせである。
「ところでババァ…どなたがくたばりもうした?」
「変な日本語使うな…おぬし、なんで喪中だと知っておったんじゃ?あと、ババァ?」
「時空のおじさんが言ってた」
そう言うとババァの目がカッと見開いた。
「…おぬし、呼び出せたのか?本当におぬし、あのヨ--」
「ババァ、誰が冥土に旅立ったの?」
「……さっきからババァ呼びが気になるんじゃが……」
「こっちは真冬に半袖で寒いんよ。てか、よくも私の弟にサバト教えたね?殺すよ?」
「サバト教えとらんわい…そうじゃな。折角だしおぬしも線香をあげていってくれ。のぅ孫」
「うんババァ」
閃光をあげる?ハサウェイ?
やはり予想通りというか予想を通り越して自宅兼お店だった家の奥…そこに置かれた厳かな仏壇の前にババァが座わ…いや膝が折れてケツから落ちた。
……問題は仏壇に飾られた写真。
「もちもちです」
「も、もちもち?」
そこにはモチモチの木の少年みたいななんとも言えない顔をした犬の写真が……
「ババァがずっと私より可愛がってた犬です。この前、天に召されたんです」
「さぁ嬢ちゃん。もちもちに線香を……」
「香典返せ」
--さて!!
居間に戻された私達は再び一切手をつけられてない麦茶を挟んで向かい合う。
この桐屋蘭子、本物の令和のノアであることを思い知らせて目の前のババァを平伏させる為に来たんだ。
「ひれ伏せ、ババァ」
「さっきからなんなんじゃおぬしは…まぁええ。約束通り予知夢は見てきたんじゃな?」
「だから見てきたって言ってるじゃんババァ」
「聞かせてもらおうか?」
「よかろうなのだ……まずババァが喪中」
「その件ですけどお客さん、破壊した仏壇弁償してくださいね?」
「孫よ落ち着け……こやつが本物の『Agの鍵』なら仏壇など100個買える程の金脈…」
「もちもちの遺影叩き割られてなに笑ってんだババァ」
孫とババァは仲が悪いらしい。しかしこの際後にしてもらおうか?
ところで『Agの鍵』ってなんだ?
「まだあるよババァ」
「ほぅ……」
「もうすぐこの街に…あの路畑カンパルノがやって来るっ!!」
とっておきの予言を前にババァは「?」みたいな顔。孫はシラケた顔。
「……驚いて声も出ないようだね」
「誰じゃミチバタかんぱるのって…」
「来月でしょう?マルイウォークで…」
なんだその顔は。孫よ。
「何故知ってる?」
「去年から知ってますけど。それが予言?」
「なんじゃ……孫如きでも予知できる内容など、大したことないわい」
え?孫、未来予知できるんですか?
「……さてはおぬし、喪中の事も、この『万華鏡』の公式Xを確認しおったな?」
「こ、公式X……?」
「ババァ、SNSで『喪中なう』って投稿してたもんね……」
なんの為の、誰の為の公式X?
「いやそんな…フォロワー3人も居ないだろうアカウント知らない…知る方が難しい…」
「5人じゃ…やはりおぬし、未来は見えておらんな…つまり『Agの鍵』という話も嘘か…」
はぁっと大きなため息を零し勝手に項垂れるババァだけど、私自分が『Agの鍵』だなんて1回も自称したことないです。
てか、なんスか?『Agの鍵』って……
「期待はずれじゃ…何しに来た図々しい」
「いや急に態度悪!?」
「態度で言えばあなたの方がヤバいですよお客さん」
「……まだあるよ。とっておきのが!!」
そう!おじさんから賜った3つ目の予知夢っ!!
「今日!バナナの皮で電車が脱線するっ!!」
「どこの?」「いつ?」
「…………知らん。多分、私の乗る電車…」
「「バナナの皮で電車が脱線する訳ねぇだろ?」」
……寒空の下雪に肌を刺されながら遥々出向いてこの扱い…
この桐屋蘭子、地球滅亡を予知した令和のノアのはずなんだけど……?
「二度と来るでない。このペテン師が」
地球滅亡とクソババァの人生終了まであと86日…




