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10日目 これは運命の出会い

 1月10日、火曜日…

 高校受験を10日後に控えた私はその日、学校に居た。

 平日である。当たり前である。


「えー、5、6限は自習にします。面接指導を希望する生徒は先生に言ってください。他の者は試験対策をするよーに」


 やる気のない平日の午後…あと2時間で帰宅という1日のロスタイム。担任もとい舎弟の御嶽原も既にやる気がない。


 そして私にもやる気がない。


 この桐屋蘭子、4月10日の地球滅亡を予知してしまった15歳。世界の終焉をこの目で見た私にとってもう学校生活なんて茶番でしかないわけで……


「…………蘭子」


 隣から腐敗臭…何事かと思えばその先には腐って溶けて水晶体が溢れだした目ん玉がふたつ。

 つまりそれくらい死んだ瞳をしているということです。

 そんな目が死んでる女子は美堂陽菜。私の友人の1人である。

 恐ろしいことに自習を真面目に受け取ったらしい陽菜はノートと参考書を抱えて私の傍らに立つ。私は声をかけてきた友人に対してその先の台詞を吐かせまいと狸寝入りモードに移行。


 防御体型、狸寝入りとは--

 面倒臭いことや関わりたくないことが我が身に降り注ぎかけた時外界との接触の一切を遮断する事で身の安全を確保する特殊体型。

 つまりデオキシスでいうディフェンスフォルムである。


「蘭子、受験勉強するよ。私達3人同じ志望校でしょ?」


 ……が、しかし。そんなディフェンスフォルムを打ち砕く声が死んだ魚の目の隣から降り注ぎ、私は急遽ノーマルフォルムへ移行した。


 阿部波圭あべなみけい--

 私と死んだ魚の目こと陽菜の友人…

 広いおでこを晒したセンター分けの黒髪ロング。そしてお稲荷さんを連想させる糸目っ!!そしてなんと言ってもその佇まい。現役横綱すらたじろがせるだろう…

 そしてデカい。15歳の発育では無い。身長のことでは無い。やはり脂肪の差か…


 この圭様、なんと在学中に購買のカレーパン100個食いを達成したという伝説をお持ちだ。高級焼肉3人前でダウンした私とはレヴェルが違うのだろう。


 この鉄火場でも頼もしさすら感じるだろう彼女に私は従順である。


「あ、はい……」


 なぜなら、阿部波圭という女は天使だからだ。


 この世界に我が弟、こーちゃん以外で天使という存在が居るのだとすればそれは、この阿部波圭以外にない。

 通称「オカン」--もはやオカンと呼ばれる為に生まれてきたかのようなその体け…雰囲気、包容力…これが圭の魅力。


「……ちなみに圭は普段私らとばかりつるむ訳じゃなくて基本的に幅広い人脈から色んな人達と仲良くしてるけど、付き合いの長い私には今日わざわざ私の元を訪れた訳が分かる」

「……蘭子、誰と話してるの?」

「陽菜、これはいつものやつよ。気にしなくて大丈夫」

「それは高校受験が危うい私に勉強を教えてあげようという親心だ…」

「…………蘭子偏差値22だもんね」

「大丈夫よ蘭子。20を下回らない限り希望はあるわ。私達と一緒の高校に行こう?」


 やはり天使……


「蘭子、勉強するわよ。筆箱出して」

「……うん」


 私達3人は私立も公立も志望校が同じなのだ。深い友情を感じざるを得ない。

 なのでこの友情に報いる為、私は参考書を取り出した。ちなみにこの参考書は圭が買ってくれた。


「蘭子、試験でポイントになる箇所をおさえて来たから、これを暗記して。蘭子のことだからどうせ参考書は落書き帳になってるでしょうから…」

「……圭ちゃん」

「圭……」


 私が参考書を開くまでもなく私の行動パターンを読んでかつ、ルーズリーフに試験のポイントを丁寧にまとめたものを差し出してくる圭は祝福のラッパを持った天使……


 あぁ……こーちゃんが私に抱く感情ってこんな感じなのかな……?


「オカン…オカンが居れば甲子園にも行ける気がする…」

「……蘭子、高校で野球部のマネージャーでもするの?」

「私は蘭子を甲子園には連れて行けないよ。さ、戯言はいいからシャーペンを持って。書くことで記憶を定着させる事が出来るわ」

「正確には甲子園常連校に入学出来る気がする……」

「私達の脂肪校、甲子園行ったことないわ」


 流石カレーパン100個の女……『志望校』が『脂肪校』になってる。しかしそんな事はどうでもいい。


「…そういえば圭ちゃん、蘭子が今年に入ってから地球滅亡の妄想に囚われてるの…圭ちゃんの力で目を覚まさせてあげて?」


 高確率で会話の頭に「…」が付く事で有名な陽菜。この言葉と言葉の間の絶妙な間と死んだ目こそが陽菜のミステリアスさを引き立たてているのだ。


 そして陽菜がオカンに地球滅亡の真実を告げる。妄想とは心外だけどオカン特製試験対策ルーズリーフの答えのとこを赤いシートで隠しつつノートにペン先をカリカリする私はオカンの反応を伺う。


「蘭子」


 オカンの瞳は何時でも優しい……流石オカン。その深慮深さは私の神秘の力すら暴いていく。


「地球は終わらないから心配しないでいいよ」


 オカンの包容力。その一言で私の中にあった「あぁ…もーすぐ人生終わんだなぁ」の感情が霧散していくのを感じる…


 おっと危ない!!オカンのオカンパワーに絆されるとこだった!!


「マジだって。私見たもん!予知夢!!」


 だから受験勉強とか無意味と、試験対策ルーズリーフを破り捨てかけたけど、オカンの優しさの詰まったこれだけは破れない。


「信じてよオカン……私達が会えるのもあと91日なんだよ?」

「大丈夫大丈夫」

「……終わるのは受験失敗した蘭子の人生だけだから」

「おい腐って機能しなくなった魚の目。なんで私が落ちる前提だ?」

「2人とも喧嘩しないよ」


 勉強しようとしきりに提案するオカンの暖かいお腹に顔を埋めると試験の不安も地球滅亡の絶望も嘘のように散っていく……


「はぁぁ……オカン……」

「コンプレックスのお腹の肉を堪能するのやめてもらっていい?」

「これがお母さんのお腹の中……子宮…還りたい……」

「還してあげようか?死にたくなかったら勉強しよう」


 オカン特製暗記シートで暗記系の科目(国、社)やってたんだけど時速64キロで飽きたので数学をする!


「暗記無理……縄文時代の事なんて私が知るわけないじゃん?馬鹿なの?そもそも偉そーにこの問題作ったやつは縄文時代の何を知ってんの?ブチハイエナのトップスピード、つまり時速64キロで飽きたわ」

「……時速で例えるならせめて1時間は集中してやろうよ」


 そう言う陽菜の参考書には出目金が描かれていた。

 こう見えて陽菜、頭は悪くない。これが頭脳系の余裕……?

 ちなみにどちらかと言うと私は体育会系。得意なスポーツは和傘で毬を転がすあれ。


「じゃあ蘭子、数学頑張ろうね」

「……無駄だよ圭ちゃん。蘭子は数字を見ると凶暴化するんだから」

「なんだよ三平方の定理って!!(怒)ピタゴラスの定理って書けよ!!(激怒)」

「がんばれ蘭子。蘭子が頭いい子って事、私は知ってるよ?」

「直角三角形において2辺の長さが分かっていれば残りの1辺の長さを計算することができるからなんだよ!!(怒)知ってどうすんのよ!?はぁ!!ねぇオカンっ!!」

「……大変、蘭子がバースト寸前…」

「a²+b²=c²ってなんだよ!!(大激怒)」


 膨れすぎた風船同然に爆発寸前の私を見て慌てて陽菜が話題を変えた。


「……ところで、2人は地球最後の日が明日だったら何する?私?家で布団になる」

「ごめんちょっと分からない。ピタゴラスより分からない」

「陽菜……勉強しようよ」


 陽菜は布団になるらしい。しかし、腐った魚の目が付いた布団で安眠できるだろうか…?いや臭くて無理。


「それは衛生上やめた方がいい」

「……え?」

「そうだな……私は牛丼をお腹が破裂するまで食べたい」


 オカンがこの話題に乗ってきた!私はこの期を逃さず勉強道具一式を隣の席の藤田君の方へぶん投げた。


「え?」


 困惑する藤田君。ウィンクしとく。


 ……もし地球最後の日が明日ならか…

 明日地球が終わるのにこんな所で勉強なんかしないし、てか地球最後の日は4月10日なんだけども……


「……うーん…元カレ殺す」

「待って、思考が狂気的。蘭子が浮気されて別れたのは知ってるけど、地球最後の日に殺人なんて…地球最後ならどうせ元カレも死ぬのに」


 冷静なオカンに私は殺気を込めた視線を返す。


「あいつは私というものがありながら他の女を選んだ。私より1秒だって長生きさせない。これは私が人生最後の日までに成し遂げる至上命題なの」

「……」「……」

「…なに?その目、死んでるよ?」

「…………いや、小林君もよく蘭子と付き合おうと思ったなって…」


 殺す。


 *******************


 放課後、私は天国に居た。

 天国とはメイド・イン・ヘブンで行くあの天国ではなく、DIOの遺したノートが無くても誰でも辿り着ける極楽である。


「おねぇちゃーーんっ!!」

「こーちゃぁぁぁんっ!!」


 幼稚園の事である。


 迎えに来た姉に対してフランダース位の勢いで抱きついてくるのが我が弟、康太ことこーちゃん。すなわち天国の神。要約するとプッチ神父です。


「…いつもお迎えの度に10年ぶりの再会くらいの勢いで抱きつくのね…」


 とは、天使に足下を囲まれた幼稚園の先生。足下にはどこかの家で産まれた天使達…

 あ……お姉ちゃん幼稚園の先生になろ。

 私こそが幼稚園という名の天国を統べるに相応しい……


「はぁ……はぁ……ひぃーーっ」

「え?……怖、鼻息荒。警察呼ぶよ?」

「おねぇちゃん、はなぢでてる」

「私がプッチ神父です」

「違うと思うけど……」

「いいえ先生。私は素数を数えられます」

「康太君?お姉ちゃん大丈夫?」



 こーちゃんを家に連れて帰る前に商店街で買い物をしなければならない。

 私はこーちゃんの手を繋いで至福の時を噛み締めていた…

 その時の私にはこーちゃんしか目に入ってなかった……


「おねぇちゃん!まじっくはんどかって!」


 マジックハンドだと?


 買い物をあらかた済ませ、帰路に着くこーちゃんが足を止めたのは商店街のおもちゃ屋の前だった。


 時代に忘れられたかのような……未だ昭和の空気の中にいるようなおもちゃ屋。

 純粋に経営大丈夫かな?って心配になる古い店構え。店頭に並べられた色とりどりの低年齢用のおもちゃの中にマジックハンドがあった。


「こーちゃん?今日はおもちゃは買わないよ?お姉ちゃん、お遣い用のお金しか貰ってないんだから。お小遣いもないの」

「やだ」

「やだと言われても……うちが貧乏でごめん--」



 その時、私の目の中に一際目を惹く黒鉄の輝きが……


 それは堂々とショーウィンドウの中に鎮座してた。

 他の低年齢用…せいぜいが10歳前後用だろう。そんなおもちゃを退けと言わんばかりに押しのけてそいつはセンターを飾っていた。


「……コ、コルト、M1911A1……っ!!」


 それは合衆国が誇る至高の軍用拳銃…通称『ガバメント』と呼ばれるオートマチックピストル……

 の、おもちゃである。


 明らかに他と違うその威容……


「お、おじさんっ!もしかしてこれは…ガ、ガスガンというやつでは……っ!?」

「おや蘭子ちゃん。ん?あぁ、あのケースの中の?そうだけど?」


 ガスガンとは、トイガンの中でもガスを使ってBB弾を撃ち出す仕様のものを指す。その多くは18歳以上用の玩具として販売されている…

 ガスガンの魅力--

 それはやはり10歳以上用のエアガンとは違うリアリティ、重厚感(持ったことないから知らないけど)、破壊力。そしてガスブローバックだろう。

 ブローバックってのはオートマチックピストルの、撃つ度にスライドが後ろにガシャガシャ下がるあれである。詳しくはジョン・ウィックでも観てくれ。


 桐屋蘭子。別にトイガンに興味があった訳ではなかった。こんなものはいい歳こいて童心が忘れられない男子のおもちゃだと思ってた……

 でも……


「かっこいい……」

「おねぇちゃん?」


 童心を忘れられなくて何が悪い?

 人というのはロマンを求める生き物…見ろ、この圧倒的機能美……


 てか、これがあれば元カレを殺せるのではないか?


 ガスガンが缶コーヒーをぶち抜いてる動画を観た事がある……

 浮気野郎の頭なんて缶コーヒーより柔らかいに違いないからガバメントで撃てば即死。


 ほ、欲しい……


 桐屋蘭子15歳。唐突にトイガンに憧れる。気分はミラ・ジョヴォヴィッチ。


「……お、オヤジっ!これいくら!?」

「18,000円」


 ……………………いち…?


「オ、オヤジ……それ定価?ぼったくりじゃない?」

「メーカー小売価格だよ」


 高すぎる…毎月1,500円の小遣いの私がどうやってそんな大金を……っ!そんな貯金できるならガバメントよりピエール・ガンバッテルマン買うわ!!


 ……いや待て蘭子。

 18,000円ならお母さんを騙…いやねだれば出ないことも……ないか?


「…おねぇちゃん?またかおのほりがふかくなってる」

「あのね蘭子ちゃん……これ「オヤジ」


 何かを言いかけるオヤジを制止して私はニヒルに笑った。

 私は決めた。

 この相棒と一緒に元カレを殺すっ!!


「それ、取り置きしといて。近いうちに必ず手に入れるから…」

「蘭子ちゃん……」

「必ず手に入れるからーーーっ!!」

「おじさん、ばいばい」


 一流の武器商人ことオヤジは夕日の中に消えていく私とこーちゃんをずっと見送ってた。

 その背中が見えなくなるまで……


「……これ、対象年齢18歳以上だから、中学生は買えないんだよ…」


 地球滅亡まであと90日……

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