9日目 もうすぐ路端カンパルノがやって来る!
「じゃあいってきます……」
「おねぇちゃんいってらっしゃい」「蘭子、来週の日曜はテレビが届くから空けておくのよ」
「ぺっ!」
挨拶代わりの唾を吐きかけ出かける朝。1月9日、月曜日。
この世界には私しか知らない真実がある…
それはこの世界は4月10日には終わるという事……
そう、あと92日後、この地球に超巨大隕石が激突する。そして世界は塵と化す……オーマイガー。
ただひとりこの世界の終焉を知らされた女子中学生、桐屋蘭子。愛する弟こーちゃんと人のハワイを奪い取った憎き母と共に、残りの人生を生きていく。
さて、今日は月曜日である。しかし、学校は休みである。なぜなら今日は成人の日、祝日だから。
そんな日に朝っぱらからどこへ出かけようと言うのか?
友達と約束があるんだ。
ここら辺の学生が遊びに出かけるといえばそう、忘ヶ崎まで出てくるしかない。
昨日降り続けた雪は朝までに跡形もなく消え失せていて、地味に湿ったアスファルトはひんやりした空気の中快晴の空を反射してた。
これだけ天気が良ければ新成人も気分がいいだろうなぁ……
電車にガタゴト揺られていたならば成人式にでも向かうんだろう晴れ着姿の女の人達の賑わいが耳に入ってくる。
「……いいなぁ…私はあれを着れないんだもんなぁ…」
なんだかこうして美しい晴れ姿を見せつけられると自分がひどくツイてないように感じる。
……ダメよ蘭子。考えても仕方ない事に関しては考えない。それが私でしょ?
例え成人を迎えられなくても、ハワイに行けなくても、それはもう仕方ない事じゃん?SAMじゃん?それはTRFのダンサー。
さて、そんなやるせない気持ちに締め付けられていた時……
「ねぇ聞いた?2月の4と5でマルイウィークに路端カンパルノが来るんだってよ?」「知ってる」
新成人達の会話を小耳に挟んだ時、誰もが知ってるその有名人の名前に私の記憶は過去へ飛ぶ……
……あ、そう言えば予知夢で時空さんが言ってたな…
地味に予知を的中させていく。やはり私は本物だ……
……そういえばあの易者のばあちゃんの所行かなきゃな…
「それ去年から告知されてんじゃん」「え?まぢ?」
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予知夢といえばバナナの皮で電車が大事故になる予知夢も見たっけ?
まぁとりあえず今日の電車は安全運行で目的地まで私を運んでくれた。
駅の改札をハードル走の要領で飛び超えれば--
「ちょっとちょっと!」
駅員が止めに来る。
「なにか?」
「なにかじゃないよ!改札飛び越える奴初めて見たよ!そういうシステムじゃないから!?」
「ごめんなさい、定期券も財布も家なんです」
「どうやって乗ってきたの!?」
「こう……飛び越えて……」
「お金払ってないじゃん!!」
「ちょっとこっち来て」と駅員が私の腕を捕まえる。そのままどこかへ引きづって行こうとする駅員の腕力に身の危険を感じた私には声を張り上げることしか出来ない。
「いやっ!やめてっ!!離してっ!!」
「何あの子?」「関わるな…」「今の改札飛び越え、Xにあげようぜ?」
が、しかし誰も助けてくれない。
ああ……いたいけな少女に手を差し伸べる事のできる人はこの街にはいないの?
「うっ…くっ!」
「いや被害者ヅラするな!君無賃乗車だから!親御さん呼んで--」
「まちゅね」
ちょうどそろそろかなって思ったんです。
涙の軌跡を残す私の後を追いその場に颯爽と現れたのはどうにもクセのある喋り口調の少女だった。
その女は例えるならば液晶画面の向こう側に閉じ込められ3次元には決して出てこれない別の次元の世界の住人に匹敵する容姿をしていた。
もっとちゃんと例えるならその女は身長が180センチくらいありそうで、しかも深〇恭子がメガネをかけたみたいなデキるいい女感が満載で丸の内とかに出勤してそうなムカつく顔をしている。あと、頭に髪の毛で作った団子がくっ付いてる。
「お金払ゆからそのバカ許ちゅてあげへ」
絵に描いたようなデキる女感……
しかし奴の滑舌は絶望的なまでに破壊されていた。
「え?ごめん?なんて?ニホンゴシャベレマスカ?」
「だみゃれ」
沖雅。中学生を超越した芸能人並のルックスと身長と引替えに滑舌と名前の文字数を失ったこの人こそ、今日の私の待ち合わせ相手なのである。
「……お嬢さんこの子の知り合い?いやでも、そういう問題じゃ…」
「おはにぇはらありましゅ」
「は?なんて?」
「ほにょ子はにゃひて」
「なんて?」
……結局解放されたのは昼過ぎだった。駅員ってのは暇らしい。
土下座してこの前拾ったヤクザの代紋のバッジ見せたら解放してくれた。
さて、私とは違う中学に通う同い歳の滑舌モンスター……交渉に入ったのがこいつであるばっかりに意思疎通がインポッシブルになったせいで長引いた感がある。
「蘭子」
「蘭子だけど?」
「財布も持たないで出かけりゅなんてバカにゃのか?」
「登場早々で悪いんだけど何言ってるのか全然伝わってこないからそのキャラ付け辞めない?」
「アニャウンサー志望のわたしゃのかちゅぜつをバカにするにゃ。で、財布は?」
「今日は雅と会うから金要らないかなぁって……あ、遅れたけどあけましておめでとう」
「……」
雅のお父さんは飲食チェーンの経営で大成功を収めているので、沖家はノリでキャビアとか食べちゃう一家だ。
つまりこの親のスネかじりのスネをかじる事で私の財布を守ることができるのである。
「腹減った!ご飯だ!!ゴチになります!!」
「……りゃんこを友だちゃとおみょうのやめていい?今日はしゅけんたいさきゅのべんきゃの日にゃ」
「試験対策の勉強ね?オーライオーライ。飯食いながらやろ?あれがいい。焼肉。個室のやつ」
「やきにゅく食いながりゃべんきゃできるか」
もはや何を喋ってるのか分からない…
……そういえばこの2 人にも話しておかなければならない。
お前達一族の栄華にも終わりがくる事を…そう、あと少しでこの世界は終わるという事実を--
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お金持ちもとい無限ATMを引き連れてやってきたのはハンバーガーショップ…やるせない昼食になりそうだ。信じられないことにこのヤロウ、本気で受験対策の勉強会を開催するつもりだ。建前ではなく!
「トリュプルチキンビャービャーみっつにゃ」
「気でも触れたか……」
「おみゃに言われたくにゃ」
「お客様……もう一度よろしいでしょうか?」
ケンタッキーフライドチキンとてんこ盛りハンバーガーの正しい食べ方だけは未だに分からない……15年も生きてきたのに…JCとしては切実な問題なのだ……
窓際席を陣取ったJC2人。雅の滑舌を聞いていたエセインフルエンサーが「なんか喋ってよ」とスマホを向けてくるのを横目に私は本題を切り出すことにした……
友にこそ言えないこともある。同じように友だからこそ話しておかなければならないこともあるだろう……
「雅、実は……」
「なにゃ?顔のほりゃがふかきゅなってりゃ」
「滑舌は百歩譲ってとして語尾の「にゃ」とか「りゃ」とかは確信犯でしょ。可愛いと思ってるの?それ」
「喧嘩売ってりゅにゃ?」
……言える?友達に。「お前らもうすぐ死ぬからな?」って…でも、言わなきゃっ!
人生が残り少ないことを自覚させ一瞬一瞬を本気で生きてもらいたい…!そうすれば、ファストフードじゃなくて焼肉への道が開けるはずだからっ!!
「--今年の4月10日に、地球が滅亡するんだよ…」
「……」
「超巨大隕石が降ってくるの……あと92日で私達、皆宇宙の塵と化すんだ…」
「……へぇ。しゃっしゃと参考書出しゃ」
「なんでそんな事言えるのかって言うとね!私実は……予知夢、見れるんだよね…」
「分かっりゃ分かっりゃ」
あんまりにも真剣味が足りない雅の態度に流石の蘭子もブチ切れた。テーブルをバンッ!!って叩いたらその音に隣の席の赤ちゃんが……
「ひうっ!?…えぇぇぇぇぇんっ!!」
「あっ…ゴメンナサイ……」
お母様に謝りつつ赤ちゃんを何とか泣き止ませた頃、何も聞かなかった的な態度でさっさと勉強を初めてしまっている雅に私は再び厳しい視線を向けた。
「ねぇ、ホントなんだって……なんでも無条件に信じ合うのが私達友達の在り方だと思うんだけど?」
「りゃんこ、今日の勉強会は偏差値22のおみゃの為に開いりゃみたいなものにゃ?分かりゃないとこりょ見てやりゅかりゃ参考書出へ」
「もうすぐ地球が吹き飛ぶのにどうして受験勉強が必要なんですか?」
「なにゃ?新興宗教にでもハマっきゃ?どきょの宗教の終末論?地球が吹きゃ飛ぼうが明日は変わりゃずやってくりゃから受験勉強するにゃ」
「え?……ごめん何言ってるのかよく分からないんだけど何?死にたいの?七死星点?」
「りゃんこ、一日に何回あたしゃの滑舌バカにすりゃ気が済むにゃ。」
「あと92日で地球が無くなっちゃうのになんでそんなに呑気な反応してられるの?いいの?その赤ちゃん言葉のまま人生を終幕させても?末代までの恥だよ?」
「地球の前にゃおみゃを終わりゃせてやるりゃ?」
転龍呼吸法により力を極限まで高めだした私を前に「‰#&!÷=⇐$&☆≒×?」ってツッコミが返ってきた。油断してたから解読不可だ。
「私はもう諦めたから……」
「なりゃわたしゃも諦めりゅわ。受験勉強は諦めないけどりゃ」
「さっさと始めりゃ」と何を始めるのか知らんけど私を急かす雅に私は疑惑の瞳をじぃーーっと向けていた。
「…………ホントに信じてないでしょ?」
「いい加減にしりょや?おみゃの志望校は名前書いたら受かりゅポン校かみょしらんけりょ、あたしゃが行くのや偏差値60越えのエリート校りょ」
「…え?偏差値って50が最高値……」
「50が平均値りゃ」
「…………ガーン…」
「分かっりゃ勉強するりゃ」
「雅……言いにくいんだけどさ…高校入試は赤ちゃん受けられないよ?」
「誰の事言ってるりゃ?」
そんな事より今回頼んだこのトリプルチキンハンバーガーだけど、なんとバンズの間に鶏もも肉が3つも挟まってるもんだから食べ辛くてしょうがねぇんだ。両手で保持するのすらベリーハード。
「私は預言者になったの。世界そのものと繋がってるの」
「じゃあなんりゃ預言してみりゃ。ほしたりゃ信じりゃ」
…………ほぅ。
全くどいつもこいつも、この蘭子を舐め腐るのも大概にしてほしいものだね?
私、世界から選ばれてんですけど?知らんけど!
「……予言しよう。君はハンバーガーを綺麗に食べれない…あっ」
言ってる傍からチキンが1個床にダイブした…私のやつが……
「あっ!」
しかしそれは奴とて同じこと…
分厚い鶏肉が3つも挟まっておいて澄ました面して食うなど不可能…
雅も噛み付いたその瞬間に鶏肉に逃げられていた。
ある者は噛んだ瞬間反対側から鶏肉がポロリ……
「うぇっほんっ!?げほっ!?ごはっ!!」
そしてある者はキャベツ(なんか辛いソース付)が気道に侵入してゴホゴホ…
「りゃんこ、大丈夫?てか、そんりゃ誰でも予見できゃそうりゃ予知じゃにゃくてもっとあるりゃろ?」
「はぁ……はぁ……だからそれこそが地球滅亡なんだよ……はぁ……」
「……りゃんこ?口うるしゃかみょしれりゃいけりょ、こりゃりゃんこの為にゃ言ってりゅんだにゃ?勉強しゃ?」
「くっ!馬鹿にしやがって……っ!!ならば!2月にこの街に路端カンパルノが来る事を予言しようっ!!ふはははははっ!!驚いたか!?あのっ!路端カンパルノだぞ!!」
「知ってりゃ。去年かりゃ告知されてるりゃ」
「……じゃあ、近いうちに大規模な電車の脱線事故が起きると思うよ」
「不謹慎」
…………そんな事よりだよ。
路端カンパルノって誰だよ…
………………てか財布持ってきてねーけど帰りどうしよ☆
人生終了まであと91日……




