都市伝説『田中一郎』
ストーカーを題材とした都市伝説系ホラーです。
自分への敵意の有無に関係無く……己の不愉快にした人間をストーキングする憎悪型ストーカーに狙われた男の話です。
【都市伝説『田中一郎』】
ストーカーという犯罪者が存在している。彼等の心理には幾つかの分類が存在しており、主に「拒絶型」「憎悪型」「親密希求型」「無資格型」「略奪型」の5つに分けられる。
上記の内の『憎悪型』は恋愛感情の類は無関係で気に入らない人間をストーキングする傾向のあるストーカーを指す。
「『田中一郎』?誰だ?」
「あぁ、確かに何処にでもいそうな名前だけど……この場合はこの街で生まれた都市伝説の怪人の事だよ」
T県とS県の県境にある地方都市『明智市』にあるファミレスで二人の男子高校生が話している。一方の口から上記の話題が出たのでもう一方の高校生が聞き返したのである。
「今から15年前に流行った噂でさぁ…何でも市内の公立小学校で『田中一郎』って小学5年生の男子児童が体操服を盗まれたんだよ」
「はぁ!?野郎の体操服なんて盗んでどうするんだよ?」
「静かに聞けよ……それから、同じ小学校に通っている男子児童が放課後に学校から家に帰っていたら人気の無い橋の上にお面で顔を隠した体操服姿の少年が立っていたんだよ」
「お面と体操服か……もしかして?」
「あぁ…体操服は『田中一郎』の物だったんだよ……そして、その体操服姿の少年は男子児童に襲いかかったんだ!!」
「襲いかかった?」
「あぁ……何でも『田中一郎』の体操服を着用した少年は小学生レベルだと思うけど、空手の達人で襲われた男子児童はボコボコにされたらしい……」
「何つーか…シュールな光景だな……お面を被った体操服姿の通り魔なんて(笑)」
聞き手だった逆立った金髪の男子高校生『鈴村義武』は児童向け漫画の様な光景に少し苦笑している。話している眼鏡を掛けた男子高校生『杉田秀則』も笑い話として話したのであろう……あまり深刻そうな表情はしていない。
「いや……通り魔じゃねぇよ」
「えっ?」
「ストーカーなんだよ……そいつは」
「ストーカー?」
「あぁ…その襲われた男子児童が特に仲が良い友達二人と歩いていたらまたお面と『田中一郎』の体操服を着用した少年がまた現れたんだよ」
「それで……また襲いかかったのか?」
「その通り……今度は3人だったけど、『田中一郎』はAと友達二人を叩きのめしたんだ」
「そいつは結果すげぇな……3人相手だなんて」
義武は流石に感心している……心得の無い相手とは言え、一人で複数の相手をボコボコに出来るなんてリアルじゃ滅多にいないだろう。
「それから……『田中一郎』のAへの凄まじいストーキングが始まったんだよ」
「どんな?」
「下校中に待ち伏せしてボコボコにするのは当たり前……夜中に自宅のガラス窓に投石や朝には近所のゴミ捨て場にあるゴミが投げ込まれている……自家用車のタイヤがパンクされていたり、バットで車体が滅多打ちにされていたらしい」
「小学生だよな……そこまでするか?まぁ、都市伝説って奴だろうけど」
「いや……実はよ……調べたらそれらしい事件が実際に在ったんだよ」
秀則は当時のネット記事から男子児童が同じ年頃の少年から悪質なストーカー行為を受けていたという話を調べていたのである。
「そして、Aへの悪質な嫌がらせに大人達も動く事になった頃……『田中一郎』がAが学校にいる時、校内に出没したんだよ」
「それで……どうなった?」
「『田中一郎』がAに馬乗りになって殴っている時に複数の教師達が奴を取り押さえようとした瞬間だった……消えたんだよ!」
「消えた?」
「あぁ……盗まれていた『田中一郎』の体操服を残して着ていた少年の身体が消えたんだ……ほら、漫画の分身が解除された感じで!!」
「あぁ……それで都市伝説になったのか?」
義武は納得した様子で肯くとアイスコーヒーをグイッと飲んだのであった。どうやら、Aは性質の幽霊の類にストーカー行為をされていたみたいである。
「でもよ……何で『田中一郎』の体操服を盗んだんだよ?それに……Aもそんな悪霊みてぇのに目を付けられる様なガキだったのか?」
義武の脳裏にはニュースを見ていると良く見るイジメに関するニュースを思い浮かんでいた。こういった話の落ちは大抵……イジメで自殺した少年の霊というのがベターである。
「その辺りは投稿者も分からなかったみたいだな……ただ、この出来事を目撃していたクラスメイト達からAは敬遠される様になったらしいぜ?“悪霊憑き”って感じでよ……」
「そりゃあな……そんなのにガチで狙われている奴にはよっぽどの奴しか近寄らないだろ……」
「それで……学校に居辛くなったAはこの街の外へ転校していったらしい、それ以来、『田中一郎』は出没しなくなったんだと」
「街から追い出した事に満足したのか……Aを追いかけていったのかは不明って事か」
義武の言葉を最後に二人は『田中一郎』の話題を終えると次の話題へと移ったのであった。
【悪霊憑き】
「うん?」
今から15年前……明智市内の公立小学校に通う男子児童『仙臺史郎』は下校中に通学路にある大きな橋に差し掛かった時だった。橋の中央に体操服姿で大柄な身体をした少年が立っているのが見えた。
「体操服?」
川内は少年の姿を見て、ホームルームでクラスメイトの『田中一郎』の体操服が盗まれた事を担任に告げられた時の事を思い出していた。
どうやら、担任教師はイジメの類を疑っているらしい。仙臺史郎はお調子者で馬鹿な部類に入る生徒だったが……流石に其処まで悪質な事をしないので流していた。そんな事を考えていると体操服姿の少年は彼に向かって凄まじい勢いで走って来たのである!!
「なっ、何だ!?」
仙臺史郎が呆然としていると体操服姿の少年は漫画の主人公の様に跳躍すると彼の顔面に飛び蹴りを喰らわしたのである!!
「ごふっ!!」
彼は奴の凄まじいパワーで吹き飛ばされるとアスファルトへ大の字に倒れた。橋の上が騒ぎに気付いた通行人や歩行者が携帯カメラを向けながら見ている。体操服の少年はそんな状況などお構い無しに倒れている仙臺史郎の顔面を何度も蹴り始めたのである。
「ぐはっ!うげっ!!がはっ!!!」
仙臺史郎は鼻と口から血を噴き出して苦しんでいる……そして、蹴られている彼が痛みに耐えながら体操服姿の少年を見ると顔をお面で隠しており、体操服には『田中一郎』と名前が入れてあるのが見えた。
「……」
仙臺史郎を蹴っている少年は足を止めると彼の胸倉を摑んだ。そして、今度は彼の顔面に強烈なパンチを繰り出したのである!!
「ぶっ!!」
彼の顔面は殴られて凄い形相になっている。殴られた衝撃で近くのアスファルトに顔から叩きつけられた!!体操服の少年『田中一郎』は凄まじい握力で仙臺史郎の胸倉を摑んでいる為か、奴の服がギシギシと悲鳴を上げている……どうやら、あの不気味なお面は誰かの物を盗んで使用しているらしい。
「な……何を?」
苦しそうに顔を上げた小学生の顔は鼻や口から血を流している。血だらけになった彼は恐怖でガタガタと震えていた。
だが、体操服姿の少年は仙臺史郎の様子に全く動じずに彼の身体を両手で天高く持ち上げたのである!!
「うわぁ!?」
例え……子供でもランドセルを背負った小学5年生の身体である同世代の少年では持ち上げられる方が少ないだろう。
「……♪」
体操服姿の少年はお面を被っているので表情は分からなかったが……明らかに仙臺史郎を痛め付けるのを楽しんでいるのが当の被害者には解ってしまった。
「なっ…何を?」
『田中一郎』の体操を着用した少年は仙臺史郎の身体を持ち上げた状態で橋の上から下にある川を覗き込んでいる。比較的、浅瀬で緩やかな流れなので死にはしないだろう。
「……♪」
体操服姿の少年は両手に掲げている小学生の身体を橋の上から川へと放り投げる!!
「うわぁぁぁ!?」
仙臺史郎の身体は川の中へと激しい水しぶきを上げながら落ちていく。流れが緩やかなので直ぐに浮かんで来たのだが……体操服姿の少年は橋の上から無様な小学生の様子を見てからその場を悠々とした様子で立ち去ったのであった。
「あっ…あぁ…!」
生まれて初めて受けた本気の暴力の衝撃で全身が痛んでいる仙臺史郎は水面に浮かびながら動く事が出来なかったという。
「なるほど……じゃあ、その少年は田中一郎君の体操服を着ていたんだね?」
「はい…」
「彼を暴行する目的で盗んだという事か……それとも、通り魔か?」
「目撃者が言うには身長150cm位の少年だったらしい……明らかに子供の仕業みたいだな」
「念の為に聞くけど……心当たりは無いかい?」
「ありません……」
市内にある明智市立病院の一室で川から救助された小学生が二人の警察官に質問をされている。彼は顔面を殴られた事で数ヶ所に怪我を負っており、橋の上から川に放り投げられた事で全身を強く打っていた。
「しかし……小柄な大人ならともかくも子供なら世も末ですね」
「まったくだな」
警察官達はそう呟くと去って行ったのであった。病室には体操服姿の少年から味合わされた暴力に怯えている男子児童が残っていた。
それから一ヶ月後……傷が治った事で退院した彼は学校に復帰しており、仲が良い男子児童二人と帰っていた時だった。
「おい、田中の体操服を盗んだ奴にボコボコにされたって本当か?」
「あぁ……少なくとも学校で使っている体操服だった」
「お前、何かしたのか?」
「何もしてねぇよっ!!」
3人がそんな会話をしながら通学路を歩いていた。用心の為、橋の上は通らない事にしている。仙臺史郎にとっては遠回りになってしまうが……あの橋を前にすると恐怖で身体全体が竦んでしまうのである。だが、“悪魔”は逃がしてくれなかったのである。
「おい……あれ?」
「えっ……まさか」
「嘘だろ?」
3人の前にお面を被り、『田中一郎』の体操服を着用した少年が立っていた。悠然とした様子で腕組みをしており、強者の貫禄を醸し出している。
「……」
少年は凄まじい速さで3人へと突進したのであった。そして、奴等の眼前に接近すると跳躍して仙臺史郎の顔面にジャンプ回し蹴りを叩き込んだのである!!
「ぐはっ!!」
仙臺史郎は奴の蹴りを顔面に喰らって吹き飛ぶとアスファルトへ大の字に倒れたのである。
「なっ、何なんだよ!?」
「おい……逃げんぞ!」
3人の内2人は怯えながら逃走しようとしたが……体操服姿の少年は一人の股間に素早く蹴りを叩き込んだ。
「ぎゃっ!?」
悶絶した方を放置して素早くもう一人を捕まえると力任せに投げ飛ばした。
「ぎゃん!!」
それから……倒れた相手の顔面にサッカーボールキックを叩き込んだ!!
「ぐはっ!!」
体操服姿の少年に顔面を蹴られ続けた仙臺史郎の友達は鼻と口から血を噴き出すとアスファルトへ大の字に倒れた。
「あっ……あぁ……!」
恐怖で身体が竦んで動けない男子小学生の眼前にはお面を被った少年が佇んでいる。
「……♪」
体操服の少年は不気味な笑い声を上げるとゆっくりと仙臺史郎に近付いたのである。
そして、彼の頭を鷲掴みにしたかと思うと道路に男子小学生の顔面を叩き付けたのであった!!
「ごはっ!!」
彼の顔面はアスファルトに叩き付けられた事で血だらけになっている。
「……♪」
お面の少年は仙臺史郎の頭を離すと股間を抑えて呻いている方の奴の友達ヘと近寄ると腹部を凄まじい勢いで蹴り始める!!
「うげっ!!」
蹴られた方の小学生は腹を抑えて苦しんでいる……容赦が無い。そして、『田中一郎』の体操服を盗んだ少年は何発も蹴っていると何かを思い付いたのか止めたのである。それから……体操服姿の少年は3人を放置してその場を立ち去ったのであった。
その後…怪我をしている3人を発見した通行人が救急車を呼んだ事で仙臺史郎達は病院へと搬送されたのであった。
それ以降……二人の男子児童は彼とは行動を共にはしなくなった。彼等以外にも他の児童達は近寄らなくなり、仙臺史郎は怪我が治っても教室の席でジッと座っている事が多くなった。
「何か……可哀想だな」
「ほっとけよ!あいつは他人がああいう目に遭ったら心配するよりも茶化す様な奴だから俺らも心配する事なんてねぇよ!!」
「黒田……そうだよな!」
上記の様な会話をしているのは大柄な男子児童『黒田重昌』とその友達である。黒田は空手と柔道を嗜むスポーツマンであり、まっすぐな心根を持っている反面で仙臺史郎の様な人間に批判的な性質を有していたのである。なので、悪い意味でお調子者な彼を快く思っていなかったのだ。
「何だ!?これは!!」
ある日の朝、仙臺史郎の父親が庭先に出たら自家用車が誰かに鈍器で殴られたかの様に破壊されていたのである。ガラス窓は割れ、車体はボコボコにされている。
「これは…子供?」
仙臺家の主人が監視カメラを確認するとお面を被った体操服姿の少年がバットで自家用車を破壊しているのが撮影されていた。
「まさか……史郎を襲っている?」
仙臺史郎の父親は幾ら子供でも度の過ぎた行動力に恐怖を感じていた。同級生?の体操服を盗み、お面で隠して息子に悪質な嫌がらせを繰り返している少年の執念深さに寒気がしている。
「お前、本当に心当たりが無いのか?」
「知らないよ……何で!俺が!?」
「貴方、落ち着いて」
「虐めならともかく……こんなに執念深い嫌がらせを一人でする子供なんて滅多にいないぞ……絶対に何かしらの理由がある筈だ」
「……そうね」
「違う……俺は何もしていない…」
仙臺史郎は両親の疑念に満ちた視線を送られながらボコボコにされた顔で涙ぐむのであった。
そして……『田中一郎』の体操服が盗まれてから数日後、怪我がある程度は治った仙臺史郎は教室にいた。彼は自分の席で一人で座っており、周囲には誰もいない。生徒達は謎の少年を恐れているのだ。仙臺史郎は勉強も運動も人並みな普通の少年であったが、お調子者で人に対する配慮に欠けた一面があり、大人しい生徒達の反感を買う事が多いタイプであった。そして、仲が良かった生徒達も似たようなタイプであり、彼等も以前の“仲間”からは距離を取っている。
「仙臺を狙っている奴……『田中一郎』って呼ばれているらしいぜ?」
「……いい迷惑だよ」
そして、体操服を盗まれた当の『田中一郎』も妙な事に巻き込まれた被害者として仙臺史郎を白い目で見ている。ちなみに田中少年は大人しい性格の真面目な少年なので彼とは元々馬が合わないのである。
「どうせ……調子に乗って誰かを怒らせたんだろ?」
「あぁ、有り得るなぁ…馬鹿だからな♪」
「うん…人がミスをした時とか平気で笑うよね」
「人の好きな物とか馬鹿にするし、はっきり言ってウザいよね~!」
「何の取り柄も無い癖にな……」
彼はクラスメイト達の視線と陰口に身を縮こませている。そんな状態で放課後となり、仙臺史郎が帰る前にトイレにでも行こうと立ち上がった瞬間だった。
「おい……あれ!」
「あっ……俺の体操服!!」
お面と体操服姿の少年が教室の後ろ側のドアから入って来たのである。『田中一郎』と表記された体操服に当の本人も自分の物と認めている。少年は蛇に睨まれた蛙みたいに呆然と立っている仙臺史郎の懐に素早い動きで入った。そして、彼の腹に強烈なパンチを繰り出したのである!!
「がっ……!?」
仙臺史郎はお面を被った体操服姿の少年から腹部を殴られると身体をくの字に折って床に倒れたのであった。
「なっ、何なんだ!?」
「おい……仙臺!!大丈夫か!?」
クラスメイト達は突然の暴力行為に驚き、『田中一郎』の体操服を着た少年は動じずに 男子小学生の胸倉を摑むと彼の顔面を連続で殴り始めたのであった。
「がっ!がはっ!!」
仙臺史郎は奴の連続パンチを顔面に喰らい続けた事で血だらけになる。暫くは殴られ続けていたのだが……突然、殴られた拳が止まった。それに恐怖した彼が前を見ると体操服姿の少年から不気味なお面越しに殺意を感じたのだ。
「ごっ、ごめんなさぃ……」
お調子者は泣きながら震える声で謝罪をした!! だが……『田中一郎』の体操服を着た少年はそれを無視して彼の身体を両手で持ち上げると窓の方へと向いていた。
「おい……まさか?」
「マジかよ……ここ4階だぞ!?」
「やっ…止めろ!誰かぁ!助けてぇ!!」
仙臺史郎が叫んだ瞬間だった!教室に騒動を聞き付けた男性教師数人が飛び込んで来たのである!!
「なっ…何をしているんだ!?」
「止めなさい!!」
「……」
体操服姿の少年は咄嗟に窓へと向かって仙臺史郎の身体を放り投げるも距離が遠かったので彼の身体は教室の床に落ちた。そして、男性教師達が体操服姿の少年の身体を捕まえた瞬間だった!!
「なっ…!」
「えっ……消えた?」
「なっ…何だよ?あれっ!?」
「あぁ……マジかよ!?」
体操服姿の少年の身体が……『田中一郎』の体操服を残して消えたのである。まるで最初から何も無かったかの様にヒラヒラと落ちる体操服を見ながら呆然としている教師達と児童達であった。
「あれって……幽霊か?」
「マジ!?モノホンの幽霊を見たのか!?」
「おい!誰か、写真とか撮ってないか!?」
「俺の体操服!?」
「おっ、落ち着きなさい!!」
騒然としている教室の中で仙臺史郎だけが呆然としていたという……何が何だか解らなかった。全身に走っている痛みに耐えながら自分を放置して騒いでいるクラスメイト達と教師達を見ていた。
翌日、学校中が『田中一郎』の体操服を盗んだ幽霊の事で持ち切りであった。
何せ……目撃者が無数にいるのである。幽霊が実在して男子児童をボコボコにしたなんて漫画の世界であり、子供達は実際に見た超常現象に夢中であった。噂は校外にも届いており、地元の中高生を始めとした近隣住民も見物に来るほどだった。
その反面では、
「おい……あいつだろ?“悪霊”に狙われている奴って……」
「あぁ、何でも“悪霊”が現れる度にボコボコにされているらしいぜ……一緒にいた友達もやられたって話だ」
「うわぁ……近寄りたくねぇ♪」
「絶対に何かしたよな?」
「そうじゃなきゃ祟られないだろ?……違うクラスで良かったぜ」
「この学校じゃなくて……あいつが呪われてんだろうな?」
「……」
「あの……本気で言っていますか?」
「教職にある者が警察の方々相手にこんなアニメや漫画みたいな嘘を吐く訳無いでしょう!?本当の事ですよ!!」
「私達だって自分で見た光景が信じられないんです!!」
「……どうします?」
「本当の話なら……私達の手には負えないな」
それから……児童達は仙臺史郎を遠巻きにするだけで滅多に近寄らなくなった。そして、教師達も“本物の幽霊”?という正体不明の相手に狙われている彼には距離を取る様になってしまった。
広くて浅い繋がりしか無く、人望の無い仙臺史郎には誰も困った時に助けてくれる“親友”がいなかったのである。
「ぷっ♪」
「転校?」
「あぁ……お前も学校に居辛いだろ?親父の家がある街の学校へ転校するのはどうだ?」
「そうよ……この街から離れたら現れなくなるかも知れないわ」
「……うん」
仙臺史郎は両親の言葉を聞きながら学校の皆達からの奇異な者や厄介者を見る眼を思い出していた。彼は馬鹿だったが……今回の事で身に染みていた。自分が彼等と同じ側の人間だというのを……自分の事しか考えていない馬鹿は困った時に誰にも助けて貰えない事を思い知ってしまったのである。
それから……“悪霊憑き”は静岡県浜松市の父方の祖父に預けられる事となった。その後、両親も浜松市で仕事を見付けた事で転職と同時に移住している。
仙臺史郎が明智市を去ってから……“悪霊”が現れたという話は聞かなくなり、彼が引っ越した浜松市にも現れなかった。
だが、『田中一郎』の体操服を盗んだ“悪霊”はSNSを中心に様々な人達に伝播された事で都市伝説となり、奴が盗んだ体操服は物好きなオカルトマニアが大金を払って田中少年から買い取ったという。
【真相】
冒頭で明智市に住んでいる男子高校生達が都市伝説の事を話していた頃……彼等が話していた『少年A』である男性『仙臺史郎』は仕事の出張で故郷である明智市へと来ていた。
「久しぶりだな…」
仙臺史郎は中肉中背といった体型でビジネススーツを着用したサラリーマンといった姿をしている。彼は15年振りの明智駅前に降り立つと自分の記憶と周囲の光景をすり合わせながら宿泊施設へと向かったのであった。
その足取りに重い物は無い……お面と体操服を着用した悪霊は彼にとっては既に過去の話なのだろう。
「⚫⚫⚫社の仙臺です」
「⚫⚫⚫社の黒田です」
翌日、取引先へと訪問した仙臺史郎は応接室に通されると担当者である男性と名刺を交換している。身長180cmほどでガッチリとした身体をした男性であり、名刺には『黒田重昌』と表記されている。
それから、二人が仕事の話を終えると担当者が話しかけて来た。
「すみません……少しいいですか?」
「はい、なんでしょう?」
「仕事とは関係無いのですが……」
「?」
「貴方……明智第二小学校にいた仙臺史郎さんですか?15年前に6年1組にいた……」
「えっ……そうですが?」
仙臺史郎は少しドキッとしたが……過去の事と割り切り、“どうせ…今回限りの関係”という気持ちから肯いたのであった。
「そうですか!私も同じ6年1組にいたのですが……」
「!?あっ……空手をしていた黒田っ…君ですか!?」
「そうです!懐かしいなぁ…元気だったか?」
「あぁっ……」
仙臺史郎はいい意味でも悪い意味でも黒田の事をあまり覚えてはいなかった。空手と柔道をしているスポーツマンで大柄な身体から少し怖い印象を持っていたので彼は自分から近寄らなかったのである。
だけど、“悪霊”のせいで皆から遠巻きにされていた時に他のクラスメイトと一緒に近付いては来なかったと思う。
「この間……同窓会が有ったんだが」
「いや……あの時は仕事でな」
仙臺史郎には同窓会の葉書は来ておらず……今、知ったのである。だけど…黒田は知らないみたいであり、その時の話をしている。
「それで……あの大人しい華村が結婚していたな……高校時代にいい出会いが在ったみたいでな…立ち直って良かったと思ったよ」
「華村?」
「うん?華村だよ……華村香住!覚えてるだろ?」
黒田は少し非難が入り混じった眼差しで仙臺史郎を見下ろしている。それに少しビクッとした彼だったが…意味が解らずに答えを返した。
「いや……覚えていない。何か有ったか?」
「ふ~ん……まぁ、やっちまった方はこんなモンか……」
「えっ……」
「何でもねぇよ……仙臺君からしたらそんなモンなんだな~?」
黒田は呆れたという表情を浮かべている。白い目で自分を見ている同級生に男性は沈黙している。
「……」
「俺も仕事があるから話はこれで」
「あぁ…」
黒田が話を終えると仙臺史郎は応接室から出ようとした。その時……黒田の小さな呟き声が聞こえて来た。
「そんなんだから、あんな目に遭うんだよ♪」
「!?」
その声は非常に冷たい……まるで悪魔が嘲笑っているみたいであった。その声を聞いた仙臺史郎は少し不快な気分になったが……振り向かずに取引先を後にしたのであった。
仕事の用事を終えた男性サラリーマンは宿泊しているホテルの近くにある飲食店で食事を終えた後、彼は周囲をブラブラと歩き始めた。
こんな機会が無いと故郷には帰って来ないので軽い気持ちで知っている場所を巡っている。
そして……それが命取りになると知らずに……
「此処は……この橋だったな」
仙臺史郎は『田中一郎』の体操服を盗んだ“悪霊”に襲われた橋の上へと来ていた。誰もいない……お面を被った体操服姿の“悪霊”なんていない。
「もういないよな?」
その時であった……橋の向こうから誰かが現れたのである。それはお面を被り、ジャージ姿でガッチリとした身体をした人影であった。背中には“タナカ・イチロー”という文字が刺繍されている(彼には見えない)。
「まっ…まさか!?」
恐怖に顔を強張らせた仙臺史郎は咄嗟に逃げようとするも喧嘩さえした事が無い彼は身体が金縛りに掛かった様に動けない。
「……」
身長180cm前後のムキムキマッチョになった『田中一郎』は棒立ちになっている“悪霊憑き”に全速力で走り出した!!
「あっ……あぁ…だっ、誰か!?」
ジャージ姿の大男は助走をしてから跳躍すると仙臺史郎の顔面に強烈な飛び蹴りを叩き込んだ!体重90kgはある大男の蹴りを喰らった男は勢い良く吹き飛んだ!!
「うぎゃぁ!!」
仙臺史郎は橋の欄干に頭をぶつけて血を流している。その血は『田中一郎』のジャージを汚した……だが、何故か、すぐに汚れが消えてしまう。
そして、『田中一郎』は倒れた“悪霊憑き”の胸倉を摑むと彼の顔面に強烈なパンチを連続で叩き込んだのであった!!
「あぎゃっ!!」
『田中一郎』は仙臺史郎の顔面が血だらけになるまで殴り続けており、体重が乗った拳で連続で殴られた事で鼻骨は粉砕され、歯が何個も折れている。
「……」
ジャージ姿の大男は拳を止めると顔面を粉砕されているお調子者の両足を摑むと勢い良く振り回した!
「うぎゃ…」
殴り続けられた事で呻く事しか出来ない仙臺史郎を『田中一郎』は勢い良く橋の欄干に叩き込んだのであった!!
「うがぁっ!…ぐがぁ!!がぁ!!!」
凄まじい悲鳴を上げる男を振り回しているジャージ姿の大男はそのまま橋の反対側へと投げ捨てるのであった。そして、ボロボロになった“悪霊憑き”に止めを刺す為、『田中一郎』が彼に近寄ると最後の力を振り絞る様に“悪霊憑き”がジャージ姿の大男に口を開いて来た。
「なっ…何で…こんな事を……する…んだ…?」
ストーキング対象がヤケクソ気味に発した言葉に『田中一郎』は少し考えると口を開いた。
「楽しいからだよ♪」
「なっ…何だと!」
相手…正体不明の人間かどうかも判らない存在からの返事に仙臺史郎は仰天している…聞き覚えのある声だが、気付いていない。そんな彼を他所に『田中一郎』は言葉を続ける。
「お前なら解ると思うがよぉ……目の前でどんなに酷い目に遭わせても、自分で傷付けても“心が痛まない奴”っているよなぁ?」
「……」
「俺にとって……それが“仙臺史郎という人間”だ」
「なっ…何だと!こんな事の何が楽しいんだよ!!」
仙臺史郎の涙ながらの叫び声に男は全く動じずに言葉を続ける。ジャージ姿の大男にとって…“仙臺史郎”という人間は何を言っても薄っぺらく感じてしまうみたいである。
「俺が何を楽しいのか……な~んて!俺の勝手だろ♪」
「なっ……!?」
絶句している彼に『田中一郎』は続ける。何処となく…強い圧力を籠めて言い放った。
「俺がお前の“楽しい”や“面白い”ってのが理解出来なかった様になぁ?」
「?それ、どっ…いう…意味?」
ジャージ姿の大男は意味深な言葉を発した後、仙臺史郎の頭を摑むと持ち上げた。そして、勢い良くアスファルト舗装された橋に叩き付けた!!何度も!何度も!!
「うがっ!がっ!!うがぁっ!!!」
何度も顔面をアスファルトに叩き付けられて……仙臺史郎は意識が朦朧としている。しかし、“悪霊”はまだ許さない。
そんな彼に対して『田中一郎』は手を放す事無く言葉を告げる。
「誰もお前なんかがいなくなっても構わないんだろ?」
「!?」
「お前の周囲によぉ……お前の事を本当に必要にしている奴っているのか?あの頃と違ってよぉ?」
『田中一郎』の一言に……仙臺史郎の脳裏に小学校の頃の記憶が蘇った。それは……眼前の“悪霊”に狙われる様になってから誰も近寄らなくなった時のクラスメイト達の白い目であった。
そして……昼間に黒田が言っていた『華村香住』という女子児童を思い出した。確か、クラスメイトの大人しい少女で仙臺史郎に生まれて初めてラブレターを出してくれた相手であった。
でも、彼は華村には興味が無かった上に馬鹿であった……人の心の事が考えられない……他人の粗や失敗を茶化して笑いに変えるタイプのお調子者だった。だから、取り巻き達と一緒にラブレターの文章をネタに皆の前で華村の事を笑い者にした……彼女が泣いていても見ているクラスメイト達の何人かが不快そうな表情をしていても楽しいとしか感じ無かったのであった。
「……(だから……皆に嫌われていたのか……誰も助けてくれなかったのか……)」
あの時…………自分は誰かの“傷付けても構わない奴”になってしまったのであった。仙臺史郎は転校した後も自分から他人を積極的に助けたり、何かの為に頑張ったりはしなかった。虐めの類も積極的に参加した事は無かったが……傍観してしまった事はある。
仙臺史郎が今までの人生を思い返していると……ジャージ姿の大男は彼の身体を持ち上げると両手で天高く掲げたのであった。
そして、14年前みたいに橋の上から川へと投げ込もうとする。今回は以前と違い……前日に大量の雨が降っていたので川が増水しており、流れも速くなっている。ボコボコにされた事で虫の息となっている彼が投げ込まれたら……タダでは済まないだろう。
「……やっ…めっ…!」
それが仙臺史郎……己の失敗から“悪魔”に目を着けられてしまった哀れな男の最期の言葉となってしまった。
「じゃあな♪楽しかったぜ♪」
『田中一郎』は馬鹿を嘲笑いながら橋の下から“傷付けても心が痛まない弱者”を川に投げ落としたのであった♪
「ふぅ……帰るか!」
川に流されて行った“馬鹿”を橋の上から見送った『田中一郎』はお面を被っているが……晴れやかな雰囲気でその場を後にしようとした。
「おい!手を上げろ!!」
「そのお面を外して…こっちに来い!!」
現場から立ち去ろうとした『田中一郎』に二人の警察官が叫んでいた。制服姿であり、近くの派出所に待機している地域課の職員だろう。
そして、彼等の背後には通報したと思われる男子高校生らしき三人組がいる。
「……」
『田中一郎』は警察官達の呼び掛けに答えずに踵を返すとそのまま消えていったのであった。
「なぁっ!?」
「きっ…消えたぁ!?」
目を見開いている警察官達の背後にいた男子高校生達も仰天している。
「まっ…マジかぁ!?」
「お面…消える…まさか!本物の『田中一郎』かぁ!!」
「えぇっ!?“幽霊”って年を取るのぉ!?」
「知らねぇよ!でも…マジで見ちまったぁ!!」
「お前ら!動画は撮ってるか!?」
「撮ってないよー!!」
警察官達も男子高校生達もあまりのインパクトに動転しており、思考が混乱してしまい、川に人が投げ込まれたのも忘れて阿鼻叫喚の事態になってしまった。
そして、後日に一人の成人男性が溺死体として発見されたというニュースが報道されたのであった。
この事件はSNSでは都市伝説『田中一郎』の後日談として件の男子高校生達が書き込んだのであった。
「ふぅ……油断しないでお面を外さないで良かったぜ」
市内のアパートの一室で分身を解除させた異能力者『黒田重昌』がホッと息を吐いている。黒田本人は基本的にこの部屋にいたが、最後に仙臺史郎と話した時だけは分身と入れ替わっていたのである。そして、分身に奴を川に投げ込ませた後……能力を解除したという事である♪
「……スッキリしたぜ♪今日は快眠出来そうだ♪」
黒田はご機嫌で冷蔵庫から缶チューハイを取り出すとグイッと飲み干したのであった♪
「あの時は服装までは具現化出来なかったからな……『田中一郎』には悪い事をしたぜ♪」
“まぁ……田中の奥さんは華村さんだからOKだな”と付け加えながら小学生の頃、初恋の相手を傷付けている仙臺史郎を憎々しげに見ている『田中一郎』の顔を思い出しながら“良い事をしたなー”と満足気な顔で晩酌を続けるのであった♪
主人公『黒田重昌』の能力のモデルは漫画『呪術廻戦』に登場したモブ悪役の術式です。分身を創り出し、分身の間を自在に本体が入れ代わる事が出来るという感じの能力です。




