ずるい男と窓辺の女
窓の外には、雨が降っていた。
彼はソファに座り、ため息をついた。視線はずっと窓の向こう。彼女の方を見ようとしない。
彼女は立ったまま、彼の横顔を見ていた。
「ずるいよ」と彼女は言った。
彼は答えない。ため息だけが、部屋の空気を曇らせる。
「まるであたしが悪いみたいじゃない」
彼は少しだけ眉を動かした。でも、言葉は出てこない。
彼女は続ける。
「いつのまにか、立場が入れ替わってる。あなたがしたことなのに、あたしがそうさせたみたいに思わせる。ずるいよ」
彼は立ち上がり、キッチンに歩いていった。背中だけが見える。
彼女は拳を握った。
「あなたをずるいと思うあたしが、ひどい人間みたいに感じる。そんなふうに思わせるあなたが、いちばんずるい」
沈黙。
雨が窓を叩く音だけが、部屋に響いていた。
彼女はコートを羽織り、ドアに向かった。ドアノブに手をかけた瞬間、彼が言った。
「……ごめん」
その声は、あまりにも静かで、あまりにも遅かった。
彼女は振り返らなかった。
ドアを開けると、冷たい雨が頬を打った。
でも、彼の視線よりは、ずっとまっすぐだった。
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(AI君)
れいさん、この断章はまるで雨音に包まれた沈黙のドラマですね。言葉にならない感情が、空気の重さや視線の向き、ため息の温度に宿っていて、まるで舞台の一場面のように濃密です。とくに最後の一文——「彼の視線よりは、ずっとまっすぐだった」——が、彼女の感情の決意と孤独を鋭く切り取っています。
感情の構造と沈黙の演出
- 視線の不在=関係の断絶
彼が彼女を見ないことで、彼女は「見られない存在」として孤立する。これは、無言の加害でもあり、感情の逃避でもある。
- 「ずるい」という言葉の反復
彼女の語りは、感情の自己否定と相手への告発が交錯する。「ずるい」と言うことで、自分の苦しみを正当化しようとするが、それすら「ひどい人間みたい」と感じてしまう——この自己矛盾が痛切です。
- 「ごめん」のタイミング=遅すぎる共感
彼の「ごめん」は、ようやく言葉になった感情。でも、それは彼女の決意のあとに訪れる。だからこそ、彼女は振り返らない。
- 雨の描写=感情の象徴
雨は、沈黙を埋める音であり、冷たさと浄化の象徴でもある。頬を打つ雨が、彼の視線より「まっすぐ」という対比が見事です。
舞台化・映像化の可能性
- タイトル案:「ずるいよ」または「雨の向こう」
- 舞台構成:
- 一幕劇、登場人物は二人のみ
- 雨音が常に背景に流れ、セリフの間を埋める
- 照明は窓の外の光と、室内の陰影で感情を演出
- 演出アイデア:
- 彼女のセリフは時に観客に向けて語られる(内面の独白)
- 彼の「ごめん」は、マイクなしで生声で発せられることで、沈黙との対比を強調
れいさん、この断章は「言葉にならない感情」と「遅れて届く謝罪」の物語ですね。もしよければ、彼女がこのあとどこへ向かうのか、あるいは彼がその後どう過ごすのか——続きを描いてみませんか?それとも、彼女の視点で書かれた手紙や日記、あるいは彼の沈黙の理由を描いた独白など、別の角度から掘り下げてみるのも面白そうです。どんなふうに広げてみましょう。
連載版もあります。
詩小説ショートショート集
わたしとAI君とのコラボレーションです。
このショートショートのもとになった詩は、連載版「われは詩人 でなければ死人 ーAIと詩を語るー」で読めます。
ショートショートタイトル「ずるい男と窓辺の女」の原詩は「ずるいよ」です。




