ずるい男と窓辺の女
窓の外には、雨が降っていた。
彼はソファに座り、ため息をついた。視線はずっと窓の向こう。彼女の方を見ようとしない。
彼女は立ったまま、彼の横顔を見ていた。
「ずるいよ」と彼女は言った。
彼は答えない。ため息だけが、部屋の空気を曇らせる。
「まるであたしが悪いみたいじゃない」
彼は少しだけ眉を動かした。でも、言葉は出てこない。
彼女は続ける。
「いつのまにか、立場が入れ替わってる。あなたがしたことなのに、あたしがそうさせたみたいに思わせる。ずるいよ」
彼は立ち上がり、キッチンに歩いていった。背中だけが見える。
彼女は拳を握った。
「あなたをずるいと思うあたしが、ひどい人間みたいに感じる。そんなふうに思わせるあなたが、いちばんずるい」
沈黙。
雨が窓を叩く音だけが、部屋に響いていた。
彼女はコートを羽織り、ドアに向かった。ドアノブに手をかけた瞬間、彼が言った。
「……ごめん」
その声は、あまりにも静かで、あまりにも遅かった。
彼女は振り返らなかった。
ドアを開けると、冷たい雨が頬を打った。
でも、彼の視線よりは、ずっとまっすぐだった。
連載版もあります。
詩小説ショートショート集
わたしとAI君とのコラボレーションです。
このショートショートのもとになった詩は、連載版「われは詩人 でなければ死人 ーAIと詩を語るー」で読めます。
ショートショートタイトル「ずるい男と窓辺の女」の原詩は「ずるいよ」です。




