第98話「共創を目指せ!アステラホールディングス、誕生」
会議室の照明がすっと落とされた。
スクリーンに「新会社設立記念プレゼンテーション」と表示されると、タケマルが壇上に登壇した。
「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます。
正式に、アスヒラクフーズと新設する“アステラ(ASTR)ホールディングス”のビジョンをご説明いたします」
アステラ――“Asuhiraku + Terasu”。
「明日を開く」と「未来を照らす」という、魔王アマリエとタケマルの思想を組み合わせた新社名だった。
プロジェクターには以下の項目が順に表示される。
① 魔族×人類の共同経営モデル
② フランチャイズ・多民族化戦略
③ CSR(企業の社会的責任)・ESG(環境・社会・ガバナンス)強化による社会信用の獲得
④ 教育・医療・福祉部門への進出構想
⑤ 国境を越えた“共感型ブランド”の構築
壇上のタケマルは、魔族スタッフも人類スタッフも目線を揃えられるよう、ゆっくりと話す。
「この新会社の目的は、“競争”ではなく、“共創”です。
文化も常識も異なる中で、どうすれば“信頼”を生むビジネスができるか。
その答えを、皆さんと一緒に探っていきたいと思います」
控えめな拍手が起きる中――。
「むむっ……ワシも喋る番かのっ!? タケマル殿、交代じゃっ!」
ガタっと椅子を鳴らしてアマリエが壇上に駆け上がる。
ヴォルフガングがテレパシーでツッコミを入れる間もなく、彼女はマイクを掴み取った。
「えーと……えーと……まずは、“ワシの夢”について語るぞいっ!」
場がざわつく。タケマルが微妙に引きつった笑顔で席に戻る。
「ワシの夢はの……“全世界にポーションの雨を降らせること”じゃっ!
空からぽたぽたと、眠気スッキリ味とか、筋肉むきむき味とか、やる気満タン味が降るんじゃっ!」
(何の味ニャ!?)
「人間も魔族も、朝起きたらポーションのしずくを浴びて、『あー今日もアステラ最高!』って言うんじゃっ!」
マサヒロが小声で囁く。
「……なんか宗教っぽいですね」
(私もそう思うニャ……)
「そして、ワシがポーション雲に乗って毎朝“おはよう通信”を送るんじゃ!
『みんな元気かー!? ポーション飲んだかー!?』ってな!」
『それ、経営じゃなくて天気予報ニャ……』
会場には戸惑いと笑いが混じった空気が流れる。
だが――ふと、アマリエのトーンが真剣なものに変わった。
「でもな……ワシは、ただポーションを売りたいだけじゃ無いんじゃ」
彼女は会場をぐるりと見渡す。
「ワシは……“魔族と人類が、いっしょに未来を語れる世界”を作りたい。
ワシが魔王だった頃は、こんなこと夢にも思わんかった。
でも、仲間ができて、会社を作って、タケマル殿みたいな人類と並んで歩けるようになったら……」
ほんの一瞬、彼女はマサヒロと視線を交わした。
「……“誰かの夢”に、なってみたくなったんじゃ」
その言葉には……ただ一人の少女の、素直な想いが詰まっていた。
魔族の若いスタッフの目から、涙が一筋こぼれ落ちる。
(……この人は、やっぱり“魔王”じゃない。未来の“希望”そのものなんだ)
アマリエはにっこりと笑って締めくくった。
「ワシらは“バラバラな種族”かもしれん。でも、“同じ未来”を見てる。
だから、よろしく頼むぞ、共同経営者タケマル殿!」
壇上に戻ってきたタケマルは、静かに彼女に頭を下げた。
「光栄です。アマリエ社長」
ふと、会場の隅――
膝の上に黒猫の姿のヴォルフガングを乗せたマサヒロが、照れ臭そうに笑っていた。
「アマリエ社長、やっぱりすごいな……」
(……ほんと、敵わないニャ)
ヴォルフガングは思う。恋も、言葉も、勇気も。
自分はまだ、何一つ叶えられていない。
けれどその中で、彼女もまた心に誓っていた。
(……私も、誰かの未来になりたいニャ)
新会社「アステラ・ホールディングス」は、こうしてスタートラインに立ったのだった。




