第90話「魔族教育支援基金、正式決定!」
そして、その夜。
アスヒラクフーズの全社会議が開かれた。
「えーっと……みんな! 聞いてくれい! ワシ、ちょっとすごいこと思いついたのじゃ!」
「ま、また何かとんでもない案か……?」
「それがじゃな! ワシらの利益の一部を――寄付することを正式に決定したのじゃ!」
一瞬、社員たちの間に沈黙が流れた。
だが、続くアマリエの言葉に、その空気が揺らいだ。
「ワシら魔族も、人類と戦争してた時は苦しかった。
……あ、いや、ワシは昔から城の中でゴロゴロしとったがの!」
「ゴロゴロ……??」
「でもな! 魔族の子どもたちは、違う! 夢を持っても、学ぶ場所がない……
子どもたちに明るい未来をあげたいのじゃ!」
真剣なまなざしを向けるアマリエ。
その隣で、ヴォルフガングはただ一言、心の中で呟いた。
『……ようやくここまで来ましたニャ……ありがとう、社長』
こうして、「魔族教育支援基金」は、アマリエの名前で設立されることとなった――。
設立発表の翌日、社内の空気はどこか張り詰めていた。
普段は笑顔で接するスタッフたちの表情にも、まだその大きすぎる発表に対する戸惑いが色濃く残っていた。
――しかし、それはただの困惑ではなかった。
「社長……昨日の会見、見ました」
そう言って、一人の若い社員がアマリエの元に駆け寄ってきた。
彼は厨房で見習いとして働いていた青年で、無口なタイプだと思われていたが、その日は違った。
「俺……実は、魔族の戦災孤児なんです。親は戦争でいなくなって。昨日、テレビで“魔族教育支援基金”って言葉を聞いたとき、胸が熱くなりました」
涙をこらえながらそう語る青年の姿に、アマリエの方こそ驚かされた。
「そ、そうなのか! ええと、じゃな、たぶん、その……うん!
ワシ、えらいことを言ったのじゃな!」
青年の目をまっすぐに見られず、アマリエは視線を泳がせながら照れ笑いを浮かべた。
その姿を、ヴォルフガングは静かに見守っていた。
彼女だけが知っていた。あの基金の発案は、アマリエのものではない。
――母、ヴァルハラの遺した言葉。
「残された魔族の子たちに光を」
その一節が、今も胸の奥で燃えていた。
誰にも語らぬまま、ヴォルフガングはそっと窓辺に歩み寄った。
雲間から差し込む光が、彼女の黒い毛並みに静かに降り注いでいた。




