第85話「アスヒラクフーズの、新たなる武器」
──数日後、CRMシステムのオーナー向け説明会。
全国のフランチャイズオーナーたちと中継でつながっている。
壇上にはアマリエ、ヴォルフガング、そしてマサヒロ。
「皆の者〜〜! ごきげんようなのじゃああああ!」
アマリエは壇上でくるっと一回転し、チュール付きフリルのスカートをはためかせた。
「今日の議題は……CRM! 略して……“超・リスペクト・魔王”システムなのじゃ!」
【ちがいます】
すかさずヴォルフガングがホワイトボードでツッコむ。
そして続きを書き込んだ。
【このシステムは、皆の店に訪れたお客さま一人ひとりの記録を管理し、
“感動”を最大化するための道具です。
購買履歴、好きな味、来店頻度、どんな話をしたか……すべて記録され、
次回来店時の接客に生かせます】
「つまり、“次に来たときに、おぬしの好きなやつ、もう用意してあるぞ!”って感じじゃな!?」
【その通りです。ようやく話が噛み合いました】
モニターの向こうでざわめいていたオーナーたちが、少しずつ真剣な表情になる。
「お客の名前を覚えてもらえた」
「この前話した趣味の話を覚えてくれてた」
「“あの時の味、忘れません”って言われた」
──CRMには、そんな“積み重ねた関係性”を活かす力がある。
マサヒロが口を開く。
「これまでも、みなさんの情熱や誠意でお店は支えられてきました。
でもこれからは、それに“システム”を掛け合わせて、誰でも同じように感動を届けられる時代にしたいんです」
「つまり、“マサヒロ式+魔王式=最強”じゃな!」
「……なんか聞こえがやばいですが、そう……なんですかね?」
笑いが起きる中、オーナーたちは少しずつ頷き始めていた。
ヴォルフガングが最後に一言だけ、ホワイトボードに付け加える。
【誰かの“特別な一杯”を、誰でも作れるようにする。それがこのCRMの、本当の意味です】
オーナーたちが静まり、そして一斉に拍手が湧き起こった。
──アスヒラクフーズの新たな武器が、静かに動き出した。




