第84話「CRMシステム、導入!」
──アスヒラクフーズ本社・社長室。
「CRMじゃとっ!?」
アマリエは声をひっくり返しながら、両手を頭の上でぐるぐる回していた。
「それは……新しいポーションの名前か!?
それとも……禁じられた古代の“ちょめちょめ魔法”なのか!?」
『まったく違いますニャ』
テーブルの上でぺたりと座るヴォルフガングが、あきれたようにテレパシーで返す。
『CRMは“顧客関係管理”の略ですニャ。Customer Relationship Management。
つまり、“お客様との絆”をシステムで可視化・強化する仕組みですニャ』
「むむ……つまり、その、ワシとマサヒロの絆も、CRMで……?」
『……それは無理ですニャ』
「なんと!」
『むしろ、私とアマリエ社長の方がCRM向きかもしれませんニャ。
日々の暴走記録や、支離滅裂なアイデア履歴、ポーションの誤発注メモ──』
「やめい!」
そこへ、マサヒロが書類を抱えて入ってきた。
「お疲れさまです! ガンちゃんの“CRMシステム”、デモ版動きましたよ!」
「おおっっ!ワシも触ってみたいのじゃ!」
「今は“社員登録”だけの機能ですけど、ポーション購入履歴や、お客さんの感想を登録すれば──」
「つまり、リピーターさんの“感動の記録”も残せるということじゃな!」
「そうです!」
『その通りニャ、マサヒロ……』
ヴォルフガングが小さく呟く。その声は、もちろん彼に届かない。
「CRM……すごいのう……すごいけど……」
アマリエは腕を組んでうーんとうなった。
「……もっと“ワシらしさ”を加えたいのじゃ!」
『……嫌な予感しかしませんニャ』
「CRMの中に、“ポーション一言日記”を追加するのじゃ!」
「それ、誰が書くんですか?」
「オーナー全員にじゃ!」
『絶対に無理ですニャ!』
──かくして、アスヒラクフーズのCRM導入は、
混乱と笑いに満ちた第一歩を踏み出したのだった。




