第82話「ワシのこと、ガチのマジで好きなのか?」
──夕刻、本社隣墓地の中庭。
アマリエは芝生の上にうずくまりながら、分厚いマニュアルの改訂版を抱えていた。
「うう……“魔王スマイル”も、『サバト・リベレーション』も、全部ボツとは……!」
横ではマサヒロが慰めるように微笑んでいた。
「でも、社長がオーナーさんを思って考えたのは伝わってましたよ。
笑ってたけど、あれは愛嬌って意味ですから」
「むむむ……じゃが……ワシ、本気だったのに……」
「それは、ちゃんと分かってますよ。だからこそ、ちゃんと伝わる形にしましょう。ね?」
アマリエは目をぱちくりとさせて、マサヒロをじっと見つめた。
「……マサヒロ。お主、もしかしてワシのこと、ガチのマジで好きなのか?」
「えっ!?」
「ニャっ!?」
二重に驚いたのは、マサヒロ本人と──
中庭の木陰からふと姿を現した黒猫・ヴォルフガングだった。
「な、なにを……急に……!」
「いやいや、そうじゃろ!? この優しさは、普通の上司や部下にはしないやつじゃろ!?」
「ち、違いますよ! 僕はただ、社長の頑張りが報われてほしくて……」
その言葉に、アマリエはほんのり赤くなる。
「ふ、ふむ……あの、その、つまり、好意とは違う……のか……」
「いや、えっと、その……」
──ごにょごにょする二人を、木陰から見つめるヴォルフガング。
(はぁ。……やっぱり、こうなるニャ)
その表情は、いつもの冷静さを失い、ほんの少しだけ揺れていた。
(私は……どこまで、この“関係”を見守れるんだろうニャ……)
そのとき、アマリエが突然立ち上がった。
「よし! わかったぞマサヒロ! ワシ、もっともっとちゃんとしたマニュアルを作るぞ!」
「えっ?」
「今度は“ポーション屋の魂”を伝える、感動系マニュアルじゃ!
ワシらのポリシーを物語にして伝えるのじゃ!」
「はい、それめっちゃ良いと思います!」
「名づけて──ストーリーブランディングの書じゃ!」
こうして、魔王式は一歩ずつ“まとも”に、そして“胸を打つ”ものへと変わっていくのだった。




