第81話「これが!!魔王スマイルなのじゃ!」
──翌日、アスヒラクフーズ本社・会議室。
「というわけで、今日から魔王式実践講座を開始するぞ!」
アマリエは、ホワイトボードの前に立って大きく胸を張った。
会議室には全国から集まったフランチャイズオーナーたちがずらりと並ぶ。
中には初出店の若者もいれば、元騎士団長のような厳めしい中年もいる。
「講師はこのワシ、魔王アマリエじゃ! よろしくなのじゃ〜☆」
教室の空気が微妙に凍った。
『☆はいらんニャ……』
講義の冒頭、アマリエは力説する。
「この魔王式はの、ただの接客術ではない! ワシの800年の知見、忠誠、誇り、
そしてサービス精神が詰まっておるのじゃ!」
『800年のうち、接客してたのたぶん1か月くらいじゃニャいかニャ……』
とヴォルフガングが冷静に突っ込んだその時。
「ではまず、“魔王スマイル”から教えるぞ!」
アマリエが見せたのは、両手を腰に当て、片足を斜め45度に突き出し
目を閉じて“にぃっ”と笑う独特すぎるポーズ。
「……怖ッ!」
「なんか、威圧感すごい……」
『むしろ戦闘態勢ニャ……』
「ええい、失礼な! これはワシが魔族時代、城下町で子供たちに向けて披露して大人気だった型じゃ!」
『それ、村人が恐怖で固まってただけニャ……』
「つぎ! おもてなしの呪文! 『いらっしゃいませ』は『サバト・リベレーション!』に言い換えるのじゃ!」
「なんか儀式っぽい!」
「怖い!」
『宗教じみてるニャ……』
マサヒロがすかさずフォローに入る。
「えっと……皆さん、これは“仮”の提案なので、気にせず笑ってくださいね!」
「仮!? ワシの本気なのに……!」
会場が和やかな笑いに包まれる中、マサヒロが小さくため息をつく。
(ほんとこの人は……ズレてるけど……なんか、放っておけないんだよな)
一方で、ヴォルフガングは別の意味でため息をついた。
(……また、マサヒロの優しさが……アマリエ社長を好きにさせる……)
その小さなしっぽが、切なげに揺れていた。




