第80話「オーナーズマニュアル、再編成せよ」
──アスヒラクフーズ本社、会議室。
会社が大きくなるにつれ、オーナーズマニュアルの再編成を迫られていた。
そして……
「ふふふ……ついに完成したのじゃ!」
アマリエが両手で抱えるのは、異様に分厚い黒革の本。
その表紙には金の刻印でこう書かれていた。
《魔王式 絶対支配フランチャイズ運営術 ~家臣化と忠誠のすゝめ~》
『……タイトルの時点で大問題ニャ』
ヴォルフガングがテレパシーでぼそりと呟いた。
だが、アマリエはその声などどこ吹く風で、得意満面にページを開く。
「見よ、この第一章。“開業の儀式と魔王の血判状”! これで新規オーナーの忠誠心はMAXじゃ!」
『血判は違法ですニャ……』
「続いて第二章、“礼節の三原則:土下座、忠誠、感涙”!」
『だからそれは、契約じゃなくて服従ニャ!!』
テーブルに並べられたマニュアル試案を見て、マサヒロが困ったように苦笑した。
「社長……これって、オーナーさんに渡すんですよね?」
「うむ! 彼らはワシの配下、家臣、臣下、下僕なのじゃ!」
「いろんな意味でアウトです」
マサヒロのツッコミに、ヴォルフガングもうなずき、メモを机に置く。
【これはマニュアルというより、宗教儀典書です】
アマリエはむすっと頬をふくらませた。
「むぅ、二人して反抗期じゃな……よい、ならば修正する!
“魔王の愛と誓い”と題して、ハート型にページをくり抜いて……!」
『ますます怪しいですニャ!!』
その後も“接客時の呪文例”や“ポーションを捧げる際の舞”など、
摩訶不思議な内容が次々と飛び出してくる。
「……ワシのこの熱意を……誰かに伝えたい……!」
「伝わっています。悪い意味で」
マサヒロは笑いながらも、そっとアマリエのマニュアルに目を通した。
(けど……この人、根はまっすぐなんだよな)
たとえ内容がズレていても、アマリエの“届けたい”という情熱だけは誰よりも強かった。
「じゃあ……僕も、ちょっと手伝ってみようかな」
「おおっ!? マサヒロ、ついにワシの側近になるのか!」
「違います。ただの手伝いです」
「くぅ……じゃがその照れた言い方、まるで告白みたいじゃな……!」
「いや、まるでじゃなくて完全に違いますから」
この日、アスヒラクフーズ本社では──
“魔王式マニュアル(問題版)”の大改訂会議が幕を開けたのだった。




