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第78話「ええライバルが、出来たのう」

アスヒラクフーズ本社。

アマリエは、マサヒロを見つめていた。


「なあ、マサヒロ。おぬし……ポーションに物語を込めるって、どう思う?」


「……僕、社長が泣きながら笑ってたの、忘れられないんですよ。

“ワシの失敗も価値になるんじゃ!”って。……僕はそれが、答えかなって」


その言葉に、ヴォルフガングがふっと目を伏せた。


黒猫である彼女は今、誰よりも近くで“アマリエの夢”を支えている。

けれど、マサヒロの何気ない一言に、心が微かに震える。




アマリエはそっと目を閉じた。


(ワシ、マサヒロに褒められると……心がポカポカするのじゃ……もしかしてワシ……ワシ……!)


「はうぅっ! でも勘違いかもしれんのじゃああ!」


ジタバタして壁に頭をぶつける。


「はうっ!!」


「……何してるんですか社長?」


(うぬぅ! 恋の味は……ポーションよりも苦いのじゃな……!)


そんなやりとりの裏で、UGC戦略はさらなる広がりを見せていた──。




全国経済紙の特集記事が出たのは、ちょうどUGC戦略が最高潮に達した頃だった。


【ポーション業界に変革の風、アスヒラクフーズ“物語で売る戦略”】

【価格ではない感情で勝負。元魔王アマリエ社長が描く“飲み物の再定義”】


記事にはアマリエのインタビューも載っており──


『ワシは、ポーションが好きじゃ! 飲み方に正解も不正解もないんじゃ!

おぬしらの飲み方が、そのまま“伝説”になるのじゃ!』──とあった。


読者の反響は大きく、記事は翌日にはオンラインで拡散され、

「ポーション=物語」という新たな認識が市場全体に芽吹き始めた。


マサヒロが苦笑しながら言う。


「社長、すごいっスね……“飲む伝説”とか“喉越しで泣ける”とか、

意味わかんないキャッチコピーが広まってます」


「ワシの言葉が、民の心に刺さったのじゃな……! ワシ、喉越しで泣く準備、できておるぞ!」


「それって飲みすぎてむせるやつです」


一方で、ヴォルフガングは静かに広がるブランド再評価の波を分析していた。


「価格ではなく“意味”で選ばれる商品……これは、短期ではなく中長期での支持ニャ。

……想像以上に、好感触ニャ」


そこへ、一通のメールが届く。

送り主は──マリエルだった。


『さすがだなアマリエ社長。認めよう。貴殿の戦略は、我らの想定を超えていた。

だが、次は感情だけでは勝てぬ』


その最後に、こう結ばれていた。


『次は、“体験”で勝負しよう。元・魔王よ、物語の続きを見せてみよ』


アマリエはメールを閉じて、にやりと笑う。


「……ようやく、ええライバルができたのう」


「社長、いよいよ“第二ラウンド”の始まりですね」


ヴォルフガングの尻尾がひとつ揺れた。

物語はまだ、始まったばかりだ──。


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