第69話「ライバル会社、あらわる!!」
――朝の市場通り。
「うわっ、すっごい人だかりじゃのう……!? 今日って、祭りの日じゃなかったような?」
墓地横のアスヒラク本店で開店準備をしていた魔王アマリエは、
湯気の立つ大鍋の前でポーションをかき混ぜながら、遠くにできた長蛇の列を見て目を丸くした。
『……おかしいニャ。昨日まで、あの場所は工事中……』
マサヒロの肩に乗ったヴォルフガングが、琥珀色の瞳を細めた。
そう、そこにあったのは――
『MUSCLE FOODS ポーション専門店』と記された、赤と黒の超近未来的な店舗。
ピカピカのガラス張り、光る電子サイン、そしてずらりと並んだ制服姿の従業員たちが笑顔で客を迎えている。
「……え、なにあれ、かっこいい! 映えてるじゃん!」
「しかも1本98円!? アスヒラクの半額以下だぞ!」
「タピオカポーションだってよ!」
「元勇者の仲間が社長の会社、マッスル食品の店舗らしいよ~。映像CMが超かっこいいんだって!」
通行人の声が風に乗って届く。
「ええええ!? な、なんで!? ワシらのポーション……魂の一杯が、タピオカに負けとるうう!?」
アマリエ、鍋のフタを落としながら絶叫。
その午後――。
『アスヒラクの真向かいに堂々と出店するとは……宣戦布告ニャ』
ヴォルフガングが尻尾を揺らしながら、マッスル食品の店舗を見上げた。
アマリエは、店の窓越しに見える豪華な内装に目を丸くしていた。
椅子はふかふか、BGMはおしゃれ、店員の制服はまるでアイドルの衣装。
「う、うぬぬ……あの店、オシャレすぎるじゃろぉぉ! それに、なに!? ポーションにホイップ!? もはやデザートじゃ!」
一方、マサヒロは人波の中から現れたその人影を見て、思わず足を止めた。
黒いジャケットに身を包み、筋肉の鎧をまとったような体つきの女性が、静かに近づいてくる。
「……まさか、マリエル社長さん?」
「はじめまして、マサヒロさんですかな?お噂はかねがね」
彼女の微笑みは、戦士ではなく経営者のものだった。
だが、どこかにかつて剣を振るった者だけが持つ鋭い気迫があった。