第67話「アスヒラク・スタンダード、完成!」
墓地の脇に作られた特設会場。
壇上に、ひとりの少女……アマリエが立っていた。
見た目は18歳、実年齢800歳越えの老年魔族(人間でいうと80歳超え)。
あどけなく、背丈も小さい。
だが――その背中には、確かな覚悟があった。
「えーっと……そ、その……今日は、みんなに、大切なお知らせがあるんじゃ!」
魔王アマリエ。
アスヒラクフーズ株式会社 代表取締役社長。
そして、元・魔王。
社員たちは最初こそざわついたが、次第に彼女の声に静かに耳を傾け始めた。
「えっとのう……まず、ワシ……ちゃんと謝りたいことがあるんじゃ!」
突然、深く、深く頭を下げた。
「最近、いろいろバタバタしてしもうて、現場のこと、あんまり見れてなかったんじゃ!
SNSの動画とか、かわいいポスターとか、魔王ダンスとかばっかりで、ほんにすまんかった!!」
会場に、空気の波紋が走った。
アマリエは顔を上げ、ぐすっ……と鼻をすすりながら続けた。
「ワシ……ポーションのこと、もっと大事にしなきゃいけなかったんじゃ……。
だってのう! ワシらのポーションって、飲む人の人生にちょっとだけ、しみこむやつじゃろ!?」
後ろで控えていたヴォルフガングが、スライドを切り替えた。
そこには、社員たちから集めた“好きなところ”のメッセージが、ひとつひとつ映し出される。
「店長がいつも笑ってくれるから、出勤が楽しみです」
「ここで働くと、なんか自分が役に立ってる気がする」
「魔王の涙を見て、初めて社長ってすごいと思った」
アマリエの手が震えた。
それでも、彼女はしっかりと胸に紙を当てて、読んだ。
「これが……アスヒラク・スタンダード、なんじゃ……!」
【第一条:
私たちは、ポーション1本に、“誰かの明日”を込めて作ります。
第二条:
私たちは、働く仲間を“家族”だと考えます。笑顔は伝染する魔法です。
第三条:
私たちは、クレームも“愛のうち”だと捉えます。痛みを学び、強くなります。
第四条:
私たちは、どんな時も“人の心”に向き合います。心がこもらないポーションに、未来はありません。】
「これが、ワシらの約束じゃ!
これから新しく入る仲間にも、ワシらの思いが、ちゃんと伝わるように……そう願って作ったんじゃ!!」
声が、震えていた。
涙がぽろぽろと、頬を伝っていた。
「みんなのこと……ワシ、本当に誇りに思っとる!!」
その瞬間。
誰かが、拍手をした。
ひとり、またひとり――
墓地が、やさしい拍手に包まれた。
「ワシは、おバカじゃ。すぐ泣くし、よく転ぶ。文字もよく間違えるし、論理的なことはガンちゃん任せじゃ。
でもな、それでも……ワシなりの愛を、この会社に注いできたつもりなんじゃ!」
拍手は、やがて歓声へと変わった。
「社長、最高ー!」
「うちのポーション、もっと売りたくなった!」
「“誰かの明日”って、いい言葉だね!」
壇上のアマリエは、鼻水をズビズビすすりながら、満面の笑みを浮かべていた。
「……な、なんか、成功しとる!? ワシ、いま、ちゃんと社長っぽいことできたんじゃろか……!?」
『できましたニャ。奇跡的に、ちゃんと伝わったニャ』
「やったあああああああ!! ワシ、超すごい!! ダンスで締めるぞおおお!!」
『やめてくださいニャ!!!』