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第62話「品質回帰」

ポーションが、まずい。


そんな言葉が再びネットの海に漂い始めたのは、ある秋晴れの朝だった。

以前ポーションの品質がバラバラで落ち着かなかった状況がなかなか改善に至っていない。


「おい、聞いたか?アスヒラクの新店舗、味がマズイってよ」

「接客もなってないって。客が来ても店員がずっとスマホいじってたって話」


魔王アマリエは、朝のオフィスで机に伏せていた。

チラシの裏に「ポーション愛してます」と100回書いた跡が残る。

彼女なりの悔恨の儀式である。


「ガンちゃん……ワシ、どうしたらええんじゃろか……」


琥珀色の目をした黒猫――ヴォルフガングは、窓辺で陽を浴びながら言った。


『“考えてなかった”だけニャ。拡大のリスクを』


「リスク……? えっ、それって何じゃ? リスの親戚か?」


テレパシーの電波がピリッと鋭くなる。


『真面目に聞くニャ!!』


アマリエは額にしわを寄せ、ようやく重い腰を上げた。

駄菓子菓子事業をはじめ、フランチャイズの急拡大は成功だった。

売上も上がり、認知度も上がった。


――だが、それと引き換えに、“味”と“誠実さ”がバラついている。


「味は……ワシらが最初に決めたじゃろ。じゃけえ、ずっと美味しいと思ってたんじゃが……」


『同じレシピでも、同じ味にはならないニャ。作る人も、測る分量も違うニャ。だから、仕組みで補うニャ』


その一言で、アマリエは軽くパニックになった。


「え、えっ!? 仕組み? 補う? じゃあワシ、もっと働かなきゃいかんのじゃ!?」


『違うニャ。“人が動かなくても回る仕組み”を、作るニャ。たとえば……POSとかニャ』


「ぽす? それは……まさか、魔法の呪文!?」


「……ニャー!!」


猫のしっぽがバシバシと床を叩いた。

こうして、“品質回帰プロジェクト”が本格発動した。


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