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第60話「全国お掃除ツアーじゃ!」

「全国お掃除ツアーじゃあああああ!!!」


朝の社内朝礼で、魔王アマリエがモップを天に掲げて叫んだ瞬間、アスヒラクフーズ本社に緊張と困惑が走った。

社員たちの表情は凍りつき、まるで冬の湖面のようにピクリとも動かない。


「……えっ?」


「お、お掃除……ツアー?」


「ツアーって……どこ行くの?」


ザワつく社員たちをよそに、アマリエは晴れやかな顔でくるくると回りながら踊るように続けた。

彼女の動きは、まるで自分の中に降臨した“掃除の神”を信じ切っているかのようだった。


「ワシは決めたんじゃ!全国の店舗を巡り、ピカピカにすることで企業理念を再確認するのじゃ!『拭いて繋ぐ心のバトン』作戦、発動じゃーーーっ!!」


「……だ、誰か止めて……」


マサヒロが額に手を当てて苦笑する。

隣で黒猫のヴォルフガングが静かにホワイトボードを取り出し、口でペンを咥えながら器用に書き始めた。その動きは洗練されており、筆致は明快で無駄がない。


【掃除活動を通じ、理念の再浸透と店舗士気向上を狙う意図。マーケティング戦略およびブランド再生施策の一環である】


社員たちは頷く。


「うん、ヴォルフガングさんの説明の方が分かりやすい……」


ヴォルフガングは何も言わず、しっぽをピンと立てて誇らしげに一回ふる。




こうして始まった「アマリエ社長  全国お掃除ツアー」。

初日の目的地は、最近クレームが多発していたフランチャイズ第13号店。

そこはかつて優良店舗として知られていたが、急激なフランチャイズ拡大の波に呑まれ

現場の管理が行き届かなくなっていた。


店内は散らかり放題だった。

床には拭き残しの油が光り、レジ前のカウンターにはホコリが積もり、棚の一部は傾きかけている。

接客もぞんざいで、レジ前には客の怒号が飛び交っていた。


「ワシの聖なるモップの出番じゃな……」


アマリエは床にひざをつき、真剣な顔でモップを握った。

その姿勢は、まるで戦場に赴く戦士のような気迫に満ちていた。


「よぉし……まずはこの油汚れじゃ!」


(ガシャッ)


「……あっ、モップの先、取れたのぉ」


「……」


「ふぎゃあああ!ワシのモップがあああああ!」


モップの柄を頭にぶつけて泣き崩れるアマリエをよそに、ヴォルフガングがスルスルとカバンから工具を出し、即座に修理を施す。

その動きには熟練の手際があり、音も立てずに器用にモップを直していく。


『これでいけるニャ。次、トイレ掃除』


「はっ、トイレ!トイレは魔族の心の鏡……ワシの出番じゃな!」


張り切ってトイレに向かったアマリエがすぐに戻ってきた。


「……えっと、なんじゃ、これは」


「どうしたんですか?」


「男子トイレの個室の中に『魔王降臨』って落書きされとる……ワシ、降臨しとらんのに……」


店舗の責任者が顔を真っ青にしながら、客がいたずらで書いた可能性があると弁解するが

アマリエはなぜか妙に感動していた。


「……そ、そうか……ワシはもう、伝説の存在……店の神様として祀られとるんじゃな……」


「いや、それたぶん違いますよ社長」


マサヒロが全力でツッコんだ。


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