第56話「内部崩壊?裏切りの魔族」
アスヒラクフーズ本部、会議室。
朝日がまだ昇り切らぬ時間、マサヒロは重い足取りで会議室(仮説事務所を増床)に入った。
手には分厚い封筒とタブレット端末。
「……社長、これ……調査報告の途中経過です」
アマリエは朝から元気にポーションをがぶ飲みしていたが、マサヒロの沈んだ表情に「うぇっ」と変な声を出して手を止めた。
「マサヒロ、なんかお通夜みたいな顔しとるのぅ。もしかして、ポーションの賞味期限が切れてたとか?」
「……そんな生ぬるい話じゃないです」
ヴォルフガングがホワイトボードにピョンと飛び乗り、ペンを咥えて文字を書き始めた。
【事態は深刻。これは“理念”を揺るがす不祥事の可能性がある】
「にゃっ!? ど、どゆこと!?」
マサヒロは資料を広げた。
あるフランチャイズ店舗で提供されていた新商品ポーションに、食品衛生法違反の可能性がある成分が含まれていたのだ。
「外見やラベルは正規品と同じでしたが、成分を調べたら、人体に影響がある未知の添加物が検出されました。
しかも……SNSで“元気が出すぎて笑いが止まらない”とか、“常にテンションがハイで眠れない”って報告も……」
「それは……元気でよいのでは?魔王のポーションは世界一ぃぃぃ!!!」
とアマリエが目を輝かせたが、すかさずヴォルフガングが
『続きを聞きなさい』と筆談でツッコむ。
さらにヴォルフガングの調査で、闇サイト上に“アスヒラク正規ルート”を偽った完全非合法のポーションが販売されている疑いが浮上。
『こちらは完全に違法ニャ。依存性が高く、健康を害する可能性があるニャ』
アマリエはようやく深刻さに気づき、顔を青くした。
「……ワシのポーションが、悪用されておるのか……?」
マサヒロが静かにうなずく。
「販売の出所を辿ると、どうやら……スラーリンさんの関与が疑われます。ただし、現時点では確たる証拠はありません」
「…………え?」
スラーリン。
かつて魔王軍の古参幹部だった彼は、アスヒラクフーズのフランチャイズ加盟店5店舗目として支えてきた存在の一人だ。
外見はどろどろとした青いスライム。意思はあり、変形して物を掴んだりすることも可能だが、感情の起伏はあまり表に出さない。
社長室に呼び出されたスラーリンは、のそのそと現れた。
「おう、アマリエちゃん。今日はどんな面白い相談かね?」
「スラたん……ワシ、ちょっと気になることがあってのぅ……」
ヴォルフガングがホワイトボードに
【現在、一部のFC店舗およびネット上で、違法成分を含むポーションが流通している】
と記す。
スラーリンの体がぴくりと揺れたが、すぐに平静を装った。
「ふうん……それで?」
「このポーションの出所、スラたんが関与しておるという噂が……」
「へぇ、俺が? 噂ってのは怖いねぇ」
「否定……するのかの?」
「もちろん。そんな違法まがいのもの、俺が売る理由あるか? 何の証拠もないんだろ?」
ヴォルフガングが目を細めるが、スラーリンは平然としていた。
「俺の担当エリアで何が起きてるかは調べてみるよ。もちろん協力はするさ、上司命令だしな」
マサヒロは黙っていたが、心の中では疑念がくすぶっていた。
その夜、ヴォルフガングとマサヒロは調査体制を整える。
【今後の調査方針
1.FC店舗への聞き取り調査(成分の入手経路)
2.通販ルートのアカウント追跡と流通トレース
3.闇サイトに使われたドメインと取引情報の追跡
4.内部告発者のリストアップと聞き取り】
「まるで刑事ドラマみたいだな……」とマサヒロが呟くと、
ヴォルフガングは小さく喉を鳴らし、メモを差し出す。
【私たちの会社は“信じる価値”を、守らないといけない】
アマリエはその間も「なにか手伝うことはあるかの!? ワシ、証拠集めに向いてそうじゃぞ!」と的外れなことを言っていた。
「社長は、じっとしていてください!」とマサヒロとヴォルフガング(テレパシーで)が同時に返したのだった。