第54話「フランチャイズ急拡大! 駄菓子菓子」
人類社会におけるTV出演から一夜明けて、アスヒラクフーズはまさに“熱狂”の渦中にいた。
「ワシ、天下取っちゃうかもじゃー!!!」
魔王アマリエは墓地の仮設事務所で踊り狂っていた。
ポーション入りのコップを頭に乗せながら、意味不明な歌を歌っている。
「ポンポンポーション、明日もにっこり~!」
PC端末の画面には、フランチャイズ加盟希望者からの問い合わせが一日で一万件を突破したという通知。
ヴォルフガングがホワイトボードにささっと書いた。
【現在申込件数 10,892件。対応不能。急ぎ選別体制を】
「すごいのうガンちゃん!ワシ、もうすぐ“社長魔王”どころか、“世界征服美少女魔王”になるかもしれん!」
『おバカちゃん過ぎるニャ……』
ヴォルフガングはしっぽで顔を覆った。
その日、オンライン説明会が始まった。
「やあやあそこの加盟希望者たちよ!元気か!?ワシが魔王アマリエじゃ!」
画面越しの相手たちは凍りついたような表情だった。
ヴォルフガングがホワイトボードに「やり直し!」と書き、それをアマリエだけに見えるよう
必死に掲げる。
アマリエは咳払いをして、やや真面目な顔になる。
「えーっとじゃな、我が社の理念は“明日を切り開く”ことにある!ポーションはただの飲み物じゃない!魂の儀式じゃ!」
加盟希望者の一部が目を見開いた。
「ポーションの味が舌に残るのは当然じゃが、心にも残らねば意味がない!我らが売ってるのは味ではない、“感情”じゃ!!!」
「……ちょっと、感動した」「確かに熱い」「でも何言ってるか分からん」という声が
チャット欄に流れる。
説明会の後半、アマリエは突如手を叩いた。
「そうじゃっ!新業態を思いついたぞ!その名も――『駄菓子菓子』じゃ!!」
どよめく会場。
「見た目は駄菓子、味はポーション!価格は小銭で買えるようにして、子供でも魔力回復じゃっ!あ、魔力はもうないのじゃった……つまり、気分じゃ!!」
マサヒロが口を開いた。
「安すぎませんか? 利益取れないのでは……」
アマリエはドヤ顔で叫んだ。
「利益より笑顔じゃああああああ!!!」
数週間後。全国にアスヒラクFC店舗が爆発的に増えていた。
特に“駄菓子菓子”業態は子どもに大人気。
SNSでは「#アマリエせんせい」「#ポーションの駄菓子屋さん」がトレンド入り。
魔王は天にも昇る気持ちで叫んだ。
「ワシが世界を変えるんじゃ!みんながポーションで笑って、幸せになって……戦争も、差別も、全部溶けてなくなるんじゃああああ!!!」
その横で、ヴォルフガングがホワイトボードに書く。
【店舗オペレーション未整備、品質統一に懸念】
「ん?どーしたガンちゃん?今は祝福のときじゃぞ?」
「ニャー……」
ヴォルフガングはため息をつきながらも、しっぽをぴしっと立てた。
一方、マサヒロは新店舗の実地巡回に出ていた。
ある地方都市のフランチャイズ店舗に入った彼は、愕然とする。
「これ……ポーションの味、なんか違う」
店員に聞くと「本社からのマニュアルが分かりにくくて自己流にしてます」との回答。
さらに別の店では、賞味期限が切れたポーションを提供していた。
マサヒロの胸に不安がよぎる。
墓地本部に戻ると、ヴォルフガングがすでに報告資料をまとめていた。
ホワイトボードには一言――
【品質が揺らいでる】
アマリエは椅子の上で胡座をかいてポーションを飲みながら、ようやく真顔になる。
「……夢が大きくなると、影もでっかくなるんじゃな」
ヴォルフガングが静かにうなずく。
『理念がブレたら、魂が抜けるニャ』
マサヒロは小さく拳を握りしめ、言った。
「社長、僕……次の巡回では“味”を軸に全店見直します」
アマリエは微笑んだ。
「うむ。頼んだぞ、我が“舌の右腕”よ」
謎の称号に戸惑いながらも、マサヒロは頷いた。