第53話「ズルいよ……」
その夜。
アスヒラクフーズ本部――例の墓地の小屋では、テレビ録画の再生会が行われていた。
「うおおおお!ワシ、映っとるっ!!!」
アマリエは画面に映る自分の姿に、テーブルの上でくるくる踊る。
『落ち着くニャ……』
ヴォルフガングはホワイトボードに【10回目ですよ!】と書いて、ややうんざりした様子。
マサヒロは、椅子に座りながら静かに画面を見ていた。
アマリエの騒がしさとは対照的に、彼の目には真剣な光が宿っていた。
アマリエが画面の中で真顔になり、語りだす。
『ワシはな、皆がポーションを飲んで、「明日もがんばるか」って顔をするのを見るのが、一番好きなんじゃ』
その言葉に、マサヒロの胸がきゅっと締め付けられる。
「……本気なんだな、この人」
ふと、マサヒロの肩の上のヴォルフガングがしっぽで彼の頬をトントンと突き、
自筆のメモを出す。
【惚れ直しましたか?】
マサヒロはふっと笑って、小さく頷く。
「……ええ。見た目は……うん、やっぱりタイプじゃないんだけど、あはは」
その言葉に、ヴォルフガングの耳がぴくっと動いた。
「でも、なんか……本当に、守りたくなる」
ヴォルフガングは静かにホワイトボードに向かい、ひとことペンで――
【ズルいよ】
だが、すぐに消して誰にも見せなかった。
(はぁぁ……やっぱりあの時出資を受けるように言ってたら……
マサヒロ、少し冷めてたかもしれんニャ……)
小さな後悔と少しの嫉妬が、黒猫の胸をチクチクと突いた。
そして翌朝。
アスヒラクフーズ公式サイトには、サーバーが落ちかけるほどのアクセスが殺到していた。
「うおおおお!なんじゃこれはあああああっ!!!」
アマリエはカタカタ震えるノート型パソコンの画面を見て絶叫する。
「問い合わせメッセージがっ、ががががが、9999件っ!!!」
ヴォルフガングは冷静にホワイトボードに書く。
【サーバー増強、急務】
マサヒロは苦笑しながらも、内心では震えていた。
(本当に……世の中、変わるかもしれない)
その時、アマリエがふと空を見上げた。
「ワシの言葉……届いたんかのぅ」
ヴォルフガングが無言でしっぽを伸ばし、アマリエの背中をぽんぽんと叩く。
マサヒロは、何も言わずその姿を見つめ、心の中で静かに呟いた。
(届いてますよ。社長……あなたの魂は、確かに世界に)