第50話「TV出演!魔王社長、話題の人(魔族)に」
それは、ある晴れた朝だった。
墓地の片隅、仮設事務所の一角で、アスヒラクフーズの一日が始まろうとしていた。
魔王アマリエはというと――
「見よ!今日のワシは、“モーニング・パトロール”と称して、墓地内の転倒石チェックをしておったのじゃ!安心安全、墓地から元気!それがワシの社是っ!!」
満面の笑みで自作のパトロールカードを掲げていた。
マサヒロは、事務所の隅でコーヒーを片手に苦笑している。
「社長、いつの間に“社是”なんて作ったんですか……」
「今じゃ!ピコーンと思いついたのじゃ!」
『せめて“会議”って言って欲しいニャ……』
と、ヴォルフガングがマサヒロの肩の上からテレパシーで嘆いた。
そして、そんなドタバタの最中――
アマリエのスマホが、不気味な着信音を鳴らした。
それを確認するやいなや。
「ふんぎゃあああああああああああああああっっ!!」
事務所が揺れるほどの大絶叫が響いた。
「テレビじゃ!テレビ出演の依頼じゃああああっっっ!!!」
魔王は、目を見開き、全力で宙にジャンプ。
「ついに!ついに!ワシが全国に向けて喋る日が来たのじゃ!!
よいか皆の者!魔王アマリエ、ついにテレビデビューじゃあああっっ!!」
そのまま頭を打ち、床でのたうち回る。
「いったぁあああっ……テレビの神よ、試練までくれるとは、さすがじゃ……!」
『試練じゃなくて、自爆ニャ』
ヴォルフガングはマサヒロの肩から降り、ホワイトボードに震える字でこう書いた。
【騒ぎすぎ。あと、頭冷やしなさい】
だが、そんな冷静な空気も吹き飛ばす勢いで、アマリエはスマホを振りかざす。
「見よ!これは本物じゃ!正式な人類放送局『ヒューマンエコノミー・TV』の看板番組『情熱経営者たち』からの出演オファー!ワシが、ついに“話題の経営者”になったのじゃああああっ!!」
マサヒロはスマホを受け取り、メールを読み上げた。
「えっと……確かに。これは本物ですね……。『人類と魔族を超えて活躍する、異色の経営者に迫る特集』……って書いてありますよ」
『異色どころじゃないニャ。異世界レベルニャ』
しかしアマリエは止まらない。
「出演して、ポーションを飲み干す姿を披露して、歌って踊って、ついでにワシの“魂の焼きそば”も宣伝して――」
「えっ、ポーションじゃなく……焼きそばも売るんですか?」
「まだじゃが、今思いついた!よし、今日からメニューに加えるぞ!!」
『何もかもが行き当たりばったりニャ……』
数日後、収録当日。
アマリエは、真紅のマントにミニスカメイド服、ウサ耳カチューシャに眼帯という
謎ファッションで登場。
「テレビといえばコレじゃろ!魔界では“テレビ衣装=メイド服と眼帯”が定番じゃ!」
「聞いたことありませんよ、そんなの……」
『大ウソニャ。自分が着たいだけニャ……』
局内に入ると、彼女の奇抜さにスタッフも騒然。
だが、控室に案内されると、アマリエは急に真面目な顔になる。
「ふむ……これはまさしく、ワシの“経営理念”を世に問う大舞台じゃな……」
マサヒロとヴォルフガングが思わず目を合わせた。
アマリエが真面目な時……それは“何か大事故”の前触れである。
案の定――
「インパクトこそ全て!ワシが現れた瞬間、視聴者の心に焼き付ける方法を考えたのじゃ!」
「……嫌な予感しかしないです」
「それは……“メイド服からバニーガールに大変身”じゃっ!!」
『………やめろニャ』