第49話「ガンちゃん、気絶」
その夜、ヴォルフガングが全体会議を開いた。
テントの中央に地図と書類を広げ、マサヒロの肩の上でバランスをとりながら、ホワイトボードにペンで書き込む。
【本日より、“魂の理念”に共鳴する者だけを集めた、志共感型フランチャイズ展開へ移行します】
「ほぉ〜〜〜っ!」
【第一に、各地に“物語型拠点”を設け、地域と共鳴するブランドづくりを推進。
第二に、UGC(ユーザー生成コンテンツ)を活用し、拡散力を最大化。第三に――】
「ガンちゃんすごい! ワシ、全部わからんけどすごい!」
【つまり、“魂を核としたブランド力”を確立し、“資本に頼らぬ成長モデル”を構築します】
「うおおおおおおお! 魂の波状攻撃じゃあああ!!」
そのとき。
バッ。
「ガンちゃん……すごいよ……!」
突然立ち上がったマサヒロが、肩に乗っていたガンちゃんをそっと両腕で持ち上げた。
「にゃっ!? にゃにゃにゃにゃ!??」
「未来と希望があって……こんな作戦、聞いたことない……!」
『ま、待つニャ……! 何をする気ニャ……!?』
そのままぎゅううううっと、マサヒロがヴォルフガングを抱きしめた。
「ありがとう……俺、この会社を信じていいって、改めて思った!!」
「………………っっっ!!」
ヴォルフガングの視界が揺れた。 温かくて、大きくて、優しい何かが胸の奥に流れ込んでくる。
(……頭が真っ白……なのに……心が……満ちて……
冷静で……いなきゃ………………)
体温と鼓動に包まれ、ヴォルフガングのしっぽが高く跳ね上がった。
(ふにぁぁぁ……!!)
そして――ぱたり。
真っ赤になって、気絶。
身体からは大量の湯気が噴き出している。
「が、ガンちゃん!? 抱きしめダメージか!? なにかの病気!?」
マサヒロは完全に混乱していた。
「やばいやばいやばい……締め付け強すぎた??猫の神経逆なでしちゃった!? なに!? 怒ってる!? それとも魂が!? 魂が抜けた!?」
もちろん、マサヒロにはヴォルフガングの言葉はすべて「ニャー」としか聞こえていない。
ただただひたすら焦るしかなかった。
次の日。
「全国展開、魂フェーズ、始動じゃーーーっ!!」
アマリエの叫びとともに、フランチャイズオーナーたちが墓地屋台を飛び出す。
「魂のフランチャイズじゃ! 魂の支店じゃ! 魂POPアップ戦略じゃああああ!!」
ホワイトボードにヴォルフガングが書く。
【社長、そろそろ“魂”の連呼をやめるべきです】
その隣で、マサヒロはヴォルフガングの横顔を見つめながら、まだ昨日の出来事を引きずっていた。
(お、怒ってるよな……どうしよ……)
ヴォルフガングはマサヒロの肩の上で、頬を赤く染めながら、小さく筆談した。
【もう急な抱きしめは禁止です】
「え? ……あ、あの、その、 ごめん……」
その後、そっとメモを出した。
【抱きしめる時の心得
・まず目を5秒以上見つめること
・頬を撫でたあと、優しく胸に抱き寄せること
・抱き寄せたまま頭をゆっくり撫でるもよし】
「あ、あの……何これ?」
ヴォルフガングはプイと目を背けた。