第47話「会社は、魂の器なのじゃ」
数時間後。黒塗りのリムジンが、再び墓地にやってきた。
ウォルター・グレイは、契約書を携え静かに歩を進める。
「さて、アマリエ社長。ご決断は?」
アマリエは、すっと立ち上がった。
「……ワシは、断るのじゃ」
ウォルターの目が細くなる。
「ほほう、理由を聞いても?」
「ワシ、社長じゃ。社長ってのは、会社の“魂”を守る者なのじゃ。ワシの魂は……このポーションに宿っておる!」
そう言ってアマリエは、自作のポーション瓶を高く掲げた。
「誰かの計算じゃなくて、ワシの“好き”で作ったもの。それを売って、誰かの元気になる姿を見る……それがワシの幸せじゃ!
金がなくても、魂があれば前に進める! それがアスヒラクフーズなのじゃ!」
ヴォルフガングが補足するように静かにメモを見せた。
【アスヒラクフーズは、魂を運ぶ会社です。“志”で動いています】
沈黙ののち、ウォルターは小さく笑った。
「……その決断、軽くないと信じていいのですね?」
「当たり前じゃ! ワシ、ちょっと前までポーションの作り方もわからんかったが、いまは魂で作っておるのじゃ!」
「……よろしい。あなたの未来を見守りましょう」
ウォルターは契約書をしまい、静かにリムジンへと戻っていった。
その背中に向かって、アマリエは叫んだ。
「いつか後悔させたるからのーっ!!!」
『台無しですニャ……』
リムジンの中。
「良いのですか?ウォルターさん」
秘書が尋ねる。ウィンドウを見つめるウォルターは、静かに笑みを浮かべた。
「……似ているのだ、あの社長。昔の私に。……覚えているかな?
我々も最初は、ボロボロのガレージでパソコン1台からスタートしたのだ」
秘書は笑う。
「そうでしたね……」
「見守ろうじゃないか。社名の通り、明日を開けるかどうかを」
ウォルターが去ったあと、マサヒロはぽつりと言った。
「すごいな、アマリエ社長……」
「む? なんじゃ?」
「めっちゃ怖かったでしょう? でも、ブレなかった。……かっこよかったです」
「ふふん! ワシ、社長じゃからな!」
アマリエは胸を張って、得意げに笑った。
マサヒロは、心の中でそっと呟いた。
(……やっぱり好きだ、この人。顔は……まあ、ちょっとタイプじゃないけど……
でも、この人の心は…………きっと誰より、強くて優しい)
その一方で、ヴォルフガングはちゃぶ台の影でしっぽをぴこぴこと動かしていた。
(……ああああ、マサヒロ、完全に恋してるニャ………ハァ………)
ぷくーっと頬を膨らませるヴォルフガング。
それを見ていたアマリエが言った。
「ガンちゃん、ハラへっとるんか?」
『違いますニャ!!!』
その夜、アマリエは屋台の上で空を見上げていた。
「会社って、魂の器……なんじゃな。ワシ、自分の器に、やっと魂を注げた気がするのじゃ」
そして、にぱっと笑った。
「全国制覇……やってやるのじゃああああ!!」