第46話「社長のそういうところ、好きですよ」
――早朝、墓地の空は薄曇り。まるで、魔王の心模様を映しているかのようだった。
「……今日は、決断の日じゃな」
屋台の裏。魔王アマリエは、ちゃぶ台の上に置かれた契約書をじっと見つめていた。
その表情は、いつものような緩さも、バカっぽさもない。……少なくとも、表面上は。
「……ああもうっ! やっぱり無理じゃ! ワシ、社長でありたいのじゃーーーっ!」
ちゃぶ台の上でのたうち回るアマリエ。ヴォルフガングがしっぽで紙を押さえながら言う。
『契約書がぐしゃぐしゃになりますニャ……落ち着いてくださいニャ』
「落ち着けぬ! 落ち着けぬのじゃああああ!!!」
そこへマサヒロがやってきた。
「……また暴れてるんですか、社長」
「ううっ……マサヒロぉ……今日、ワシ、社長かもしれんけど社長じゃなくなるかもしれんのじゃ……」
「何言ってるかわかんないです……」
「ワシにもわからんのじゃ……」
アマリエは大きなため息をついて、ちゃぶ台にうつぶせになった。
「でもな、マサヒロ。ワシ、気づいたのじゃ。会社ってのは、ポーション売って金を稼ぐだけじゃない。……夢を守る器なんじゃって」
マサヒロは、その横顔をじっと見た。
(……この人、やっぱりすごいな)
自分の理念を守るために戦おうとしている。
(顔は……うーん、正直あんまりタイプじゃないんだけど……)
「……僕、社長のそういうところ、好きですよ」
「へ?」
「え?」
「ニャ?」
二人と一匹、同時に首を傾げた。
ヴォルフガングはしっぽをピクリと動かし、マサヒロの顔をじっと見たあと、そっと顔をそむけた。
(……惚れてますニャ……間違いなく惚れてますニャ……)
そして、頬をぷくっと膨らませながら、心の中でぼそりと呟いた。
(……もしかして……出資受ける方向にアドバイスした方がいいのかニャ……?)
しっぽが床をぺしぺしと叩いていた。
その可愛らしさに気づく者は、まだ誰もいなかった。