第44話「魂の選択」
その後、ウォルターたちは屋台裏の控えテントでプレゼンを始めた。
「我々は、御社に1億円の資本投下を考えています。店舗拡大、人員採用、物流網整備、全て加速できます」
「い、いちおくえん……!? それって……ポーション、何本分!?」
『約50万本分ですニャ。原価で計算してですけど』
「ワシら……金持ちに……なれるんじゃな!!」
『落ち着いてくださいニャアアアアア!!』
ヴォルフガングのしっぽがピクリと跳ねた。
「ただし」と、ウォルターは言う。
「出資条件として、資本比率の過半数――51%を取得させていただきたい」
「カーハンスー……? なんじゃそれ?異国の料理か? おいしいのか?」
『つまり、アスヒラクフーズの“経営権”を譲ってもらうということですニャ。支配権ですニャ』
「……へ?」
「さらに、取締役2名をこちらから派遣。意思決定権も“こちらが担う”形になります」
アマリエの顔が固まる。
「え、ワシ……社長じゃなくなる……の?」
「名誉職として残しておくことを考えております。広報大使、イメージキャラのような役職など――」
「ち、ちょ、ちょっと待ってくれい! ワシは社長で、踊って叫んで、仲間と未来を目指す存在じゃぞ!」
『……“踊って叫ぶ社長”って何ですかニャ……』
その夜、アマリエは頭を抱えて悩んでいた。
「ぐぬぬ……お金があれば、もっと早く全国制覇できるのにのう……でも……なんか変じゃ」
墓の上で寝転びながら、空を見つめる魔王。
「ワシ……お金持ちになるために起業したんじゃなかった気がするのじゃ……」
ヴォルフガングが静かに隣に座った。
『アマリエ社長……この出資話は、甘く見えて毒がありますニャ』
「毒……?」
「これは“買収”に等しい行為ですニャ。経営者の魂を渡せば、理想も未来も、相手に塗り替えられますニャ」
「ワシの夢が……金持ちのおじいちゃんの夢になる……?」
『その通りですニャ』
魔王の目が、じわりと潤んだ。
「ワシ……社長じゃなくなったら……ただの魔王じゃ……!」
『もともと魔王ですニャ!!』
次の日。
再び墓地にウォルターが現れた。
「いかがですか、アマリエ社長。我々と共に未来を開きましょう」
アマリエは、ううーと唸りながら一歩引いた。
「ワ、ワシ……まだ決められぬ……ちょっとだけ……ちょっとだけ考えたいのじゃ……!」
「もちろん良いですよ。ただし期限は三日間。経営判断には冷静さが求められますので」
リムジンが去ったあと、魔王はうずくまって叫んだ。
「ううううっ! ガンちゃん、ワシ、どうしたらええのじゃああああああ!!」
『だから言ったでしょうニャ……これは魂の選択ですニャ』
「ワシの魂って、どこにあるのじゃ……!? 肝臓の横!? それとも胃袋の上!?」
『心の中にありますニャ!!!』