第43話「人類投資家からの出資オファー」
――朝。
墓地に差し込む柔らかな陽光の下、今日も屋台は元気に営業中だった。
「いらっしゃいませじゃーっ! 本日も元気にポーション発動! 魔王の気合いが詰まった一本ですぞ!」
元気よく飛び跳ねながら、屋台の上に乗って叫ぶ魔王。
だがその隣で、黒猫ヴォルフガングがしっぽでカンカンと天板を叩く。
『アマリエ社長、跳ねすぎですニャ。看板が揺れて崩れそうですニャ。屋台はダンスステージではありませんニャ』
「んむむ……すまぬガンちゃん。でもワシ、踊らずにはいられんかったのじゃ! なぜなら今日は――」
アマリエはくるりと一回転し、唐突に叫んだ。
「――“経営者ランキング、注目株No.1”に選ばれたからじゃーーーっ!」
その声は見事に墓石で反響した。
「おぉぉぉぉぉぉぉ……」
『うるさいですニャ……!』
経済新聞には、見出しが躍っていた。
『魔王、企業界を揺らす:墓地発スタートアップ「アスヒラクフーズ」が話題に!』
「まさか人類の情報誌にワシが載るとはのぉ。ワシ、なんだか生きてるって感じじゃ!」
『アマリエ社長はもともと死にかけてましたニャ……社会的に』
「うむ、墓場から蘇った企業とはよく言ったものじゃ! ワハハハハ!」
ヴォルフガングはその笑いに微かに苦笑しつつ、しっぽを器用に使って新聞をめくった。
『ですが…浮かれすぎには注意が必要ですニャ。報道が過熱すれば、良くも悪くも“目をつけられる”可能性があるのですニャ』
「目をつけられる? ほほう、人気者ということか。やはりワシ、アイドルになれるかもしれんな?」
『アイドルじゃなくて経営者ですニャ!!』
そんな朝。事件は起きた。
『アマリエ社長にご挨拶したい、という者が来ておりますニャ』
ヴォルフガングが急ぎ足で戻ってきた。
『墓地の門の外に……リムジンが5台ですニャ』
「リムジン……!? あれじゃな! お金持ちの乗り物!」
『正確には“高級輸送車両”ですニャ。迎え入れていいかは、アマリエ社長の判断に任せますニャ』
「迎えよう! お客は神じゃ! ワシ、全員にポーション出す所存!」
『その判断、ちょっと軽すぎますニャ……!』
リムジンから降り立ったのは、黒いスーツの男女と、中央に立つ一人の老人だった。
白髪を後ろに撫でつけ、杖をつきながら堂々と歩く。
「ようやくお会いできました、アマリエ社長。私はウォルター・グレイ。セルヴァ投資機構の代表です」
「わぉ! 人間じゃ! おじいちゃんじゃ! 資本家ってやつか!」
『……失礼の塊ですニャ』
老人は微笑を浮かべたまま、穏やかな口調で話を続ける。
「私どもは“次なる時代の経済成長”をテーマに、急成長企業へ出資しております。
御社『アスヒラクフーズ』のビジョンと熱意、大変興味深く拝見しました」
「ほほう! ワシの熱意が伝わったのか! ワシの魔王魂、感じたか!?」
「ええ。あなたの“混沌のまま突き進む姿勢”……まるで初期の人類文明を見るようです」
「褒められとるのか!? それとも石器時代扱いなのか!?」
『そこは前向きに受け止めておきましょうニャ……』