第39話「フランチャイズ説明会、炎上寸前!?」
午前十時、町外れの古びた集会所――。
「ふむ……この空気、まるで戦場前夜じゃのう」
屋台ではなく、今日は特別なイベントがある。
そう、初のフランチャイズ説明会である。
集会所には、各地から集まった数十名の参加者が列を成していた。
魔族の青年、農村の夫婦、商売人風の中年人類まで
――雑多な顔ぶれだ。
壇上に立つのは、当然この人物。
「皆の者ーっ! よくぞ来たっ! ワシが伝説の魔王にして、現在はポーション屋さんの社長、アマリエ様じゃーーっ!!」
この日のために購入したセットアップスーツを着て、キラッキラのポーズを決めるアマリエ。
……静寂。
会場は、ぽかんとした空気に包まれていた。
「……え、魔王……?」
「ちょっ、マジで? 魔王って、あの?」
「え、冗談だろ?」
どよめきが走る。怪訝な目、呆れた顔、冷たい視線がアマリエに突き刺さる。
「な、なんじゃ、皆? この反応……ワシ、ちゃんと正装しておるぞ? なんと今日のスーツは特製の……」
『はいはい、アマリエ社長落ち着いてくださいニャ』
横にいたヴォルフガングがテレパシーでピシャリと制止する。
アマリエはふてくされたように頬を膨らませた。
「むぅ……なんじゃ、みな最初から疑いの目を……フランチャイズ説明会とは、もっと感動的に始まるものじゃろうに」
『幻想ですニャ。現実の説明会は基本“警戒と不信”から始まるニャ』
「えぇ〜!? じゃあ何じゃ、あの『涙の開業物語』とか『夢は叶う! 独立のススメ』とか……」
『広告用の演出ですニャ』
「がーーーん!!」
ヴォルフガングは前足でホワイトボードを押し出し、筆を口にくわえる。
カリカリカリ……
【本日のアジェンダ】
1.アスヒラクフーズとは
2.フランチャイズとは何か
3.加盟の条件と支援制度
4.質疑応答
「な、なんか本格的じゃのう……おぬし、本当に優秀な猫じゃな……」
『当然ニャ。社長の参謀ニャ』
アマリエがよし、と気合いを入れ直し、壇上でポーズを決める。
「では! 我らが夢と希望のポーションビジネス、その真髄を……語るぞーーーっ!!」
しかし――
「うさんくせぇ……」
「ポーション屋のフランチャイズって何だよ……」
「魔王ってのも嘘くさいな」
会場の空気は冷え切っていた。
アマリエのキラキラプレゼンは滑り、
ヴォルフガングの筆談解説も「猫が説明って何だよ」と失笑され、
マサヒロが必死に間をつないでも、反応は芳しくなかった。
「これは……まさかの……」
『炎上前夜ニャ……』