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第35話「お、おぬし……ワシの初めてを!?」

彼は、ウォーウルフ族末裔の魔族。

全身に鍛え上げられた筋肉をまとい、ボロボロのコートを羽織っていた。


「……久しいですな、我が王よ」


その一言に、アマリエの目が点になった。


「んん? おぬし……えーっと……どこの誰じゃったかの?」


「…………第三軍団長、ファンガードでありますッ!!」


ドガーンッ!と地面に土下座する勢いで、ファンガードは拳を叩きつけた。


「ふぬぅ!?フ、ファンちゃんか!? 生きとったんかーーーっ!!」


「光栄です! 王が吾輩のことを覚えていてくださっただけで!」


「いや、実はさっきまで忘れて――ゴホンッ! ところで、どうしたんじゃ? わざわざこんな墓地まで」


「……屋台の噂、耳に入ってました。魔王様が……ポーションを、売っておられると……」


「そうじゃ! すごいぞ! この前なんぞ、10本、いや、100本売れた! ……って、何本だったかの?」


「吾輩も……いただいてよろしいでしょうか」


「もちろんじゃ! 今日のは“希望の味”じゃぞ!」


ファンガードは震える手で一口飲み――

涙を流した。


「う……美味い……! これは……魔王軍が失った、あの希望の味だ……!」


「……?」


「我らは敗れた。でも、王は戦いを終えても……皆のために、立ち上がっていたんですね……!」


「ふむふむ、そうじゃ! 明日 を 開く  からのぅ!そういうことで良い!!」


マサヒロは感心していた。


(すげぇ……魔王って、天然なのに人の心を動かすんだ)


「この味を……我が村にも広めたい! フランチャイズさせてくださいっ!!」


「なぬっ!? あ、あれじゃな……ワシの分身になって増える秘術……!」


『それは違うニャ』


ヴォルフガングがテレパシーで説明を始めた。


『フランチャイズとは、ブランドやノウハウを他者に貸し出して協力店舗を増やす仕組みニャ。契約が基本で、権利と義務が発生するニャ。というか、何度も説明してるニャ……いい加減覚えて下さいニャ』


「やはり、難しいのぅ……。でも、ワシの名前が村々に広がると思えば、素敵なことじゃな!」


『理解がズレてるけど、まぁ前進ニャ』


ファンガードは、再び土下座した。


「王よ……我が村の民のために、ぜひこの一号店を、吾輩の手でやらせてください!!」


「ぬおおおっ!? い、いちごうてん!? ナンバーワン!? ま、まさか、おぬし、ワシの初めて……を……!?」


顔を真っ赤にしてバタバタするアマリエ。


『いや、あのね、そーいうことじゃないニャ!!フランチャイズとして店を出したいってことニャ!!!』


アマリエは目を潤ませ、拳を握りしめた。


「そ、そうか……ならば任命じゃーーーっ!! おぬし、アスヒラク フランチャイズ一号店オーナーに、選ばれし者じゃーーっ!!!」


「ははぁーーーっっ!!」


ヴォルフガングが筆談で静かに補足した。


【契約の話は、まだこれから】


その文面を見せると、アマリエとファンガードは見事に揃って

「えっ!?」と叫んだのだった。

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