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第32話「種族を超えた恋の予感?」

数時間後。

アマリエ、ヴォルフガング、マサヒロは市街地のオフィス街に到着した。


「おぉぉおお! ガラス張りの建物じゃ! 中に人がぎっしり……まるで袋詰めのモヤシのようじゃ!」


『比喩がズレてるニャ』


やって来たのは、猫好きで評判の弁理士、山名やまな先生の事務所だった。

部屋に通されると、スーツ姿の初老の男性がにこやかに迎え入れた。


「アスヒラクフーズの皆さんですね。お噂はネットで拝見しています。今日は猫ちゃんも一緒で?」


「ガンちゃんは、ただの猫じゃないのじゃ! 魔王軍筆頭補佐官……じゃが、今はワシの参謀じゃ!」


山名弁理士はヴォルフガングににっこり笑いかけた。


「はは、なるほど。ではカワイイ猫ちゃん、何かご意見がございますかな?」


ヴォルフガングは魔王以外とはテレパシーが通じない。

仕方なく、隣に置いてあったメモ帳を前足で引き寄せ、口にペンを咥えて文字を書き始めた。


【類似商標により、ブランドイメージの毀損が懸念される。商標登録の可否と差止請求の可能性を検討されたし】


「えっ??は?? おぉ……この猫ちゃん、文字を書いてる!?」


山名弁理士が驚愕し椅子から転げ落ちそうになる。横で見ていたマサヒロも思わず声をあげた。


「え、ガンちゃんって……字、書けるんですか……!?」


「む……マサヒロ、知らなんだのか。ガンちゃんは万能じゃぞ。天才猫じゃ」


「すげぇ……なんていうか……プロフェッショナルだ」


マサヒロは感心したようにヴォルフガングを優しく撫でた。


「ニャ……っ!?」


ヴォルフガングの心臓が、ぴくりと跳ねた。

撫でられるたび、体温が少しずつ上がっていくような――そんな感覚。


(な、なんニャ……? こんなの……)


彼女の頬が、ほんのり赤くなった。






山名弁理士はヴォルフガングの筆談メモを読み取りながら、商標調査の概要を説明してくれた。


「“アスヒラク”は現時点では未登録ですが、商標出願をすれば防御できます。相手が模倣を明らかに狙っていると証明できれば、差止請求の余地もありますね」


「さ、さしとめ……? それって、剣でズバッと心臓刺して止めるやつかの?」


『野蛮過ぎニャ。“使うな”って命令できるって意味ニャ』


「おおお、それなら安心じゃな!」


「ただし、申請には一定の時間がかかります。その間に、相手がさらに勢力を拡大してしまえば、ブランドが混乱する恐れがあります」


「むむむ……それは一大事じゃのう……」


ヴォルフガングは再びメモ帳に【早期審査制度】と書いたが、口にくわえたペンの先が震え始めた。


(ニャ……長文は、やっぱり顎にくるニャ……)


それを見たマサヒロは、ふたたび微笑んだ。


「無理しないでね、ガンちゃん。すげぇよ、十分伝わってる」


その声が、ヴォルフガングの胸にやさしく響いた。






帰り道。


「……商標って、名前の盾ですね。屋台ひとつでも、守るべきものがあるんだ」


マサヒロがつぶやくと、アマリエは空を見上げた。


「ワシ、はじめて知ったぞ。“ワシの名前”を、誰かが守ろうとしてくれておる……」


「……はい。これからも、大切にしていきますね」


「ふぬぬ! なんじゃい、マサヒロ! おぬし、急にしおらしくなるとは……さては惚れたか?当然じゃ!ワシ、ちょーぜつカワイイからのぅ!フヒヒッ!!」


「へっ!? ち、違いますよっ! そういう意味じゃ――!」


横で、ヴォルフガングの耳がピクリと揺れた。

その反応を、アマリエは見逃さなかった。


「んん? ガンちゃん、どうしたかの?」


『…… 何でもないニャ』


顔をそむけて尻尾を膨らませるヴォルフガング。

魔王は首をかしげた。

そんな3人の関係に、ほんの少しだけ新しい風が吹いた――。

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