第31話「法務戦争、商標を守れ!」
墓地の朝は早い。小鳥がさえずり、花が揺れ、魔王が朝から叫ぶ。
「お、おおおお! ワシの屋台の名前がっ、勝手に使われとるううう!」
魔王アマリエは、スマホ画面を片手に顔面蒼白、屋台のカウンターに突っ伏していた。
「“アスヒラク・ポーションズ”……だと? なんじゃ、この偽物めっ……!」
『見たところ、最近立ち上げられた通販サイトニャ。店舗はなく、ラベルもデザインを真似てるニャ』
魔王の肩に乗る黒猫――ヴォルフガングが、いつものようにテレパシーで語りかける。
『商標権の侵害に該当する可能性が高いニャ。対応しないとブランド毀損につながるニャ』
「表彰権??なーんだ、ワシ、褒められるのかのぅ!」
『全然違うニャ!!』
「ブランドってのは……!? それって、高級スーツみたいなやつか!?」
『……それも違うニャ。わたしたちの“名前の価値”のことニャ』
「ふぬぬ……ワシの名前に価値がある……? ワシ、ついにブランド魔王に……!」
『まだそうとは限らないニャ』
「ぬわぁぁあんでぇぇぇえええっ!? ワシの夢が……!」
ヴォルフガングは長いため息をつくと、スマホで特許庁のサイトを開いた。
『ともかく、専門家の助けが必要ニャ。今日は“法務の盾”を探すニャ』
「ということで、ワシらはトッキョ鳥という鳥を喰いに行くのじゃな! ガンちゃん!」
『特許庁ですニャ!弁理士に会いに行くだけニャ。特許庁へはまだニャ』
「べ、べんりし……? 便利な料理人か? それとも弁当屋の主かの?」
『法律に詳しい資格持ちの専門家ニャ。商標や特許を扱うプロフェッショナルニャ』
「ふぬう……横文字と漢字が多すぎて、ワシの脳がトロトロ湯豆腐になりそうじゃ……」
「おバカちゃんでも分かるように言うと、“屋台の名前を守ってくれる人”ニャ」
「おおおっ! わかりやすい! その人、きっといい人じゃな!魔王筆頭補佐官見習いと任命しようかの?」
『……』
アマリエは「ならば法律守護神じゃ!」と勝手に脳内で名前をつけ、すっかりヒーロー気分で小躍りしていた。
一方で、屋台の片隅では、マサヒロが正式にアルバイトとして参加し、黙々とポーションの仕分けをしていた。
「……商標権か。やっぱりビジネスって奥深いなぁ」
彼は気づいていない――この一連の騒動が、ヴォルフガングの中にわずかな“異変”をもたらすことに。