第29話「てんやわんや!」
朝霧の墓地。
今日も「アスヒラクフーズ」の屋台前には、信じられないほどの行列ができていた。
「次のお客さま〜! お待たせしたのじゃ! 本日も元気に、“魔王の朝活ポーション”じゃぞーっ!」
魔王アマリエが天地粉砕ステップとともに、カップを掲げる。
「うわっ、かわいい!」
「ホンモノだ!ホンモノの魔王ちゃん!」
「しかも、今日は“グレープ味”じゃん!」
人々たちの歓声が飛び交い、カメラが次々と回っていく。
ありとあらゆる動画配信サイト、SNSでアマリエの踊りが共有され、バズは止まる気配を見せなかった。
「ふふん、見よ、ガンちゃん! ワシのステップが人々を魅了しとるぞ!」
『魅了というより“中毒”に近いニャ……。あまり踊り過ぎると、魔王らしさが消えるニャ』
「うぬ? ワシ、魔王じゃったか?」
『そこ忘れるニャーっ!!』
黒猫ヴォルフガングは、しっぽをピーンと立ててツッコんだ。
「ガンちゃん、この勢い……すごくないか? なんか、世界征服できそうな気がしてきたのじゃ」
『アマリエ社長……それはアウトニャ。今は“平和なビジネス魔王”としてやっていくニャ』
「むぅ、平和とは、難儀なことよのう。たしか、昔はワシの笑顔ひとつで村が燃えたもんじゃが」
『怖い過去を美談にしないでほしいニャ……』
ヴォルフガングはスマホでKPIグラフを確認しながら、テレパシーで呟いた。
『昨日からの新規客流入率、62%。UGC拡散率、173%。これ、もう少しで“地域バズ”から“エリアトレンド”に昇格ニャ』
「バズると、どうなるんじゃ?」
『周辺の人間たちが“わざわざ来たくなる”現象ニャ。そして、その集客力を『雇用』に変換する――ここが次のステップニャ』
「……ようするに?」
『バイト募集ニャ。人手が足りなさすぎニャ!!』
「なるほどのぅ〜〜〜。さすがガンちゃんじゃな! ワシ、トングもてんやわんやじゃ! あとポーションの容器がどこに消えたか分からんのじゃ!」
『語彙力も在庫管理もてんやわんやニャ……』