第26話「魔王式 天地粉砕ステップ」
数日後――
「うわぁ、本当にある……!」
「写真通りだー!」
「この女の子が勇者と戦った“元魔王”って、マジ? 朝から最高すぎる!」
「魔王ってもっとバケモノみたいな見た目かと思ってた〜意外とカワイイッ」
「魔王のコスプレか??角の完成度高っ!」
「猫ちゃんマジ萌え……」
アマリエの屋台の前に、若者たちが並び始めた。学生、出勤途中のサラリーマン、近所の子供たちまで。
SNSで爆発的に拡散された「#魔王の朝活ポーション」は、瞬く間にトレンド入りしていた。
「ぬぅおおおっ! ほ……本当に客が来たあああっ!!」
アマリエは喜びで跳ね回った。
「ワシ、今、商売してる! 人間どもと仲良くしてる! すごいじゃろ!? ガンちゃん、見ておるか!?」
『はいニャ。売上表も用意してるニャ』
「……さすがじゃのぅ」
人々の間では
“勇者に敗れた魔王が復活してポーション売ってる。しかも墓地”
というワードが都市伝説のように囁かれ、写真付きの投稿が次々と上がっていた。
そしてあの青年――
数日前にポーションを無料で貰った彼は、少し離れた場所でスマホを見つめながら呟いた。
「……うわ、何これ、めっちゃバズってる。すげっ」
彼の名は、マサヒロ。
この時はただの、好奇心旺盛な“通学途中の高校生”として、彼は物語に足を踏み入れたにすぎない。
しかし、この出会いが――
未来の“奇跡”を呼び起こす第一歩になる。
それは、まだ誰にも知られていない物語の種だった。
「わ、ワシのポーションが……すごい生成回数になっとるのじゃああああっ!」
元魔王アマリエの叫び声が、朝もやの墓地に響きわたった。
彼女が片手にスマートフォン(ようやく3世代前の中古が買えた)を握りしめて跳ねている横で、黒猫のヴォルフガングが尻尾をピクリと動かした。
『生成回数じゃなくて、再生回数ニャ。正しく覚えるニャ、アマリエ社長』
ヴォルフガングはいつものようにアマリエの肩にちょこんと乗りながら、テレパシーでツッコミを入れていた。
墓地前に出店した屋台「アスヒラクフーズ本店」は、まさかの“早朝のお墓参り・散歩層”というニッチなターゲットにマッチし、徐々に地元のSNSで話題になっていた。
だが、この日のバズり方は桁が違った。
「『踊る魔王、墓地で朝活!』っていうタイトル……ワシ、踊ってたのかの? 無意識で?」
『正確には、ポーションを振る時に変なステップを踏んでいただけニャ。それにお尻も猛烈に振って……』
「変なって言うな! あれは、“魔王式・天地粉砕ステップ”じゃ!」
『海で溺れるハーピーに見えたニャ』
ヴォルフガングは尻尾で自分の顔を軽く覆いながらため息をついた。
アマリエは自分の映った動画を何度も再生しては、ひとりで笑ったり赤面したり、忙しい。
動画は、ある女子高生インフルエンサーが
「朝の墓参り帰りに、めちゃくちゃ怪しいポーション屋があったww」
と投稿したことで火がついたのだった。