第24話「初・来・客・☆」
カツ、カツ……と足音が近づいてきた。杖をついた小柄なおばあさんが、霧の中から現れた。
「……まあ、こんな場所にお店?」
アマリエは笑顔で飛び出す。
「おはようございますじゃ! ワシ、アスヒラクフーズ株式会社の社長、アマリエ・ヴァル=グリムじゃ! 元魔王で今は経営者!」
「え? 元……魔王……?」
「いえいえ、今は清く正しく! この屋台『アスヒラクフーズ本店』でポーションジュースを提供しておるのじゃ!」
「ポーション……?」
アマリエは湯気の立つカップを差し出した。
「これはのう、ただの飲み物ではないのじゃ! 身体がぽかぽかする、すごいやつ! 成分は……えーと、なんかすごいやつが入っておる!」
すかさずヴォルフガングがアマリエにテレパシーで解説を送る。
『ハーブ由来の”自然成分”と温度調整された”糖分”、血流促進効果があるニャ』
「そうそう、それじゃ! ワシは詳しく知らんけど、”事前セーブ”とか”豆腐”とか、とにかくガンちゃんがすごいこと言ってた!」
「ガンちゃん?」
おばあさんが振り返ると、カウンターでちょこんと座る黒猫が「にゃあ」と鳴いた。
「まあ、かわいい猫ちゃん」
「この子がワシの右腕であり、秘書であり、役員であり……とにかくガンちゃんじゃ!」
おばあさんはヴォルフガングを優しく撫でたあと、一口飲んで目を見開いた。
「……あら、ほんとに、ぽかぽかしてきたわ……」
「そうじゃろう!? さすがアスヒラクフーズじゃろう!? 魔法は封印されても、経済の魔法は健在なんじゃ!」
「経済の……魔法……?」
「わからんけど、なんかカッコいいじゃろ!?」
おばあさんはくすくす笑いながら、お金を渡したあと紙カップを返して去っていった。
アマリエは満面の笑みでヴォルフガングに抱きつく。
「すごいのう、ガンちゃん! これが、社長の戦いじゃな!」
『そうニャ。経済戦争の第一歩ニャ』
「よーし、ワシは社長じゃ! アスヒラクフーズ、世界を獲るのじゃあああああああああ!!」
墓石の列に、アマリエの声が高らかに響いた。