第23話「ポーション屋台、完成じゃ(くっそボロい)!」
──夜明け前の空。まだ薄暗い東の空に、かすかなオレンジがにじんでいた。
「ワシの……ワシのポーション屋台が、ついに完成したんじゃあああああっ!!」
アマリエは屋台のカウンターを撫でながらうっとりした。
「ガンちゃん、この屋台の設計も最高じゃな。木がギシギシいうけど、味がある!」
『全部廃材で作ったからニャ……』
ガタガタと不安定な屋台を、アマリエ・ヴァル=グリムは誇らしげに眺める。
見た目は18歳の少女、実年齢800歳の老年魔族。
かつては魔王として恐れられた存在だが、今は破れたボロジャケットを身に纏い、朝の霧の中で何やら叫んでいた。
ヴォルフガング曰く、こんな見た目だけど食品衛生許可と営業許可いうものは何とか降りたらしい。
「社長として、これは記念すべき第一歩じゃな……ふふ、はっはっは!」
傍らで黒猫のヴォルフガングが尻尾をゆっくり振りながら、ひとりツッコミを入れる。
『浮かれすぎですニャ……まだ売上ゼロ、資金もギリギリですニャ……』
「ワシは社長じゃぞ! これは戦略的出店というやつじゃ。ガンちゃんが言うとったじゃろ、“ニッチ層”にアプローチするとええって!」
『ええ、ですがその“ニッチ層”という発想に至ったのは、アマリエ様が言った“墓地って懐かしいよね”という天然発言がきっかけですニャ……』
「ここ、ホント懐かしい風景なんじゃもん……昔、ワシがリビングデッド軍団で攻めた”亡霊の丘”によう似とる!」
『そこをヒントに、私は“早朝の墓参り層”という独自市場の存在に気づいたわけですニャ。都市部では朝5時〜8時に墓参りに訪れる人が一定数存在していて、需要はゼロではない。しかも静かで競合もいない。つまり──』
「ブルーオーシャンって言うのじゃろ!!! ブルーなオーシャンで勝負するんじゃ!!」
『言葉の意味は半分ぐらいしか理解してないみたいですニャ……』
アマリエが屋台に並べたのは、スターシスの教えの元に作った「癒やしのしずく亭」ポーションジュースの簡易再現品。瓶には手書きのラベル。「キュア・ライト味」「眠りの果実味」など、魔法の雰囲気を残しつつ、味は完全に果汁系ドリンクだった。
「この味……どこか懐かしいのう……」
ひとくち飲んで、アマリエは満足そうにうなずく。
『アマリエ様、ちゃんと値札も貼ってくださいニャ。あと“社長”というなら、売上管理表も用意する必要が──』
「ええと、それは……ダンボールの裏に書いたこの“売れたら丸をつける表”のことか?」
『それは……まあ……はい、それでいいですニャ……』
アマリエは両手を腰に当て、目の前のボロ屋台を見上げた。背後には墓石がずらりと並んでいる。
「よし、この地から、アスヒラクフーズが世界へ羽ばたくのじゃ!」
このようにして、魔王アマリエによる“墓地前ポーション屋台”が、ついに幕を開けた。