第19話「元魔王、段ボールの上で泣く」
次に向かったのは、クラウドファンディング。
だが――
「ワシ、ついに“クラファン”という魔法を手に入れた!」
『社長、それは呪文ではありませんニャ。資金調達手段ですニャ』
アマリエはスターシスからスマホを借りて、クラウドファンディングを開始した。
事業内容の入力……
「魔王の決起」
「フランチャイズで世界征服」
「1億円あれば人類を見返せる」
「たのむからカネくれ」
数時間後――
凍結された。
「なんでじゃ!? お願いツイートと似たようなもんじゃろ!?」
『“お願い”の内容に問題があるんですニャ……』
──夕暮れの公園。
「……信用とは、そんなに大事なものかのう」
アマリエ・ヴァル=グリムは、公園に段ボールを敷いて座っていた。
膝の上に載せた“アスヒラクフーズ創業計画書(手書き・しわくちゃ)”を見つめながら、うなだれる。
財布には、あんパン1個ぶんの小銭すら残っていなかった。
「魔力は封じられ、金もなく……これが“現代”という名の戦場か……」
彼女の足元に、ヴォルフガングがすり寄ってくる。
だが猫という姿では、慰めることもできず、ただ寄り添うだけ。
『社長……諦めるのはまだ早いですニャ。道はまだ、ありますニャ』
「……ガンちゃん、ワシは……このままじゃ“社長”どころか、ただのホームレスじゃよ……」
かつての大魔王が、今は段ボールの上で泣いていた。
「魔王軍の兵士たちに、“見ないでくれ”って言いたくなるのう……」
『見ていると思いますニャ。むしろ、今の社長を……“カッコいい”と感じている者もいるはずニャ』
アマリエが涙を堪えるようにうつむくと、ヴォルフガングがぴょんと膝に飛び乗り、
アマリエの目を見据えた。
そして、彼女の声が、アマリエの頭の中にテレパシーで直接響いた。
『まだ一つ、手段が残ってるニャ。地域の信用金庫だニャ』
「しんよーきんこ? な、なんじゃそれ。お金を信用してくれる店か?」
『……だいたい合ってるニャ。“信用”を“お金”に変えてくれる場所。社長に今一番足りないのは、それニャ』
「ほぇぇ……そんな場所があるのか! ワシ、信じて行ってみるぞ!」
ポン、と膝から飛び降りたヴォルフガングに続き、アマリエは元気よく立ち上がった。
その姿に、ほんの少しだけ元・魔王の風格が戻っていた。




