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第16話「いざゆかん、登記所へ!」

「よし、準備万端じゃ!」

ボロのスーツを着込み、袖に継ぎを当て、襟を自ら縫い直したアマリエは、小さな鏡の前で気合いを入れていた。

服のあちこちに粗はあるが、その目だけは真っすぐだった。


「ガンちゃん! ワシは今から“法人”になる!」


『法人というのは、魔王にとって言うなれば“軍の再編成”ですニャ』


「つまり……新生魔王軍! ワシの経済大戦争が始まるわけじゃな!」


『戦争じゃないですニャ。ビジネスですニャ。平和的な経済活動ですニャ』


「……むぅ、ちょっとテンション下がったのう……」


アマリエは小さく唇を尖らせながらも、背筋をしゃんと伸ばした。

布の匂いの残るスーツに腕を通し、ゴミ置き場から拾ったポーチに書類を詰める。


「それでは、いざ――登記へ!」


アマリエとヴォルフガングは、街の中心地にある法務局支所へ向かった。

駅前の雑居ビルの4階、どこか空気が重く、静謐(せいひつ)なその場所に、ふたりは足を踏み入れた。

受付には無表情な職員が座っていた。


「いらっしゃいませ。ご用件を……」


その言葉が終わるよりも前に、アマリエは堂々と名乗った。


「法人登記じゃ! “アスヒラクフーズ株式会社”、これよりこの世に爆誕する!!」


「……は?」


職員の目が明らかに驚きと戸惑いで揺れる。

見た目18歳の少女が、ボロスーツに貝殻のボタン、履き潰されたボロ靴で社長を名乗ったのだ。


「……失礼ですが、保護者の方は?」


「ワシが保護者じゃ!」


「……あの、本気……ですか?」


「これを見よ!」


アマリエはポーチから、ヴォルフガングが手(口?)書きした法人登記申請書を取り出し、バンと机に置いた。

字はちょっとガタガタだったが、内容は完璧だった。


受付の職員は戸惑いながらも、書類を手に取る。


「……えーと、法人名。“アスヒラクフーズ株式会社”。資本金1000円?」


「うむ! ワシとガンちゃんの全財産じゃ!」


「えぇ……では、事業内容は……飲料の製造・販売、並びにフランチャイズ事業……?」


「その通りじゃ。癒やしのポーションで、世界を救うのじゃ!」


職員は視線をアマリエから書類へ、そしてまたアマリエへと戻した。


「……これ、冗談じゃないんですか?」


「本気も本気、本気しか無い人生じゃ!」


「……」


対応した職員は、奥の同僚と目を合わせた。

その視線は「どうする?」と語っていた。

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