第13話「ワシ、会社をつくるぞ!」
「ガンちゃん! ワシ、会社をつくるぞ!」
アマリエはベランダから朝日に向かって拳を振り上げた。
目の下にクマを作りつつも、彼女の表情は高揚していた。
『まずは登記が必要ですニャ』
ヴォルフガングは、部屋の隅から拾ってきた段ボールの切れ端を引っ張り出し、
路地裏で見つけたキャップ付きペンを口にくわえると、器用に丸文字を書き始めた。
「と、登記……? あれか、戦う前に、なんかこう、ぶわぁっと出るやつか?」
『それは“闘気”ですニャ』
「なんと!? 似ておるようで違うのか……!」
『まずは“法人登記”。つまり、“この世に会社という存在を正式に生み出す儀式”ですニャ』
「おお……なんだか魔術的でカッコよいのう!」
『魔術というより、事務手続きですニャ……く、くぅ……口が……つ、疲れ……』
ヴォルフガングはペンを置き、ぶるぶると顎を震わせて休憩した。
『ペンって……こんなに顎にくるんですニャ……』
「無理はするな、ガンちゃん! ワシが口で書いてやろう!」
『おやめくださいニャ。歯型が残るだけですニャ』
ヴォルフガングが描いた段ボールには、こう書かれていた。
【会社を作るための手順】
1. 名前を決める
2. 何をするかを書く
3. どこでやるか決める
4. お金の額を決める
5. 偉い人の名前を書く(=社長)
6. 書類をまとめて提出する
「……むむ、なんと難儀な!」
『ですが、魔王軍の作戦会議に似てませんかニャ?』
「たしかに! “目的・戦力・陣地・勝利条件”! これは……ワシの得意分野じゃ!」
『ただし、今回は“力”ではなく“制度”で戦いますニャ』
「よし、まずは名前じゃな!」
『社名ですニャ。親しみやすく、理念がこもっているものが良いですニャ』
「むふふ……ワシの名付けセンス、炸裂の刻!」
アマリエは空のポーション瓶を振りかざす。
「“癒やし帝国株式会社”!」
『支配的すぎますニャ』
「“株式会社・ワシは世界の大魔王堂”!」
『自己主張がすぎますニャ』
「“不死鳥ジュース団”!」
『団じゃないですニャ』
「“株式会社無限魔力パラダイス”!」
『魔力は封印されてるって言ってるでしょうが!』
段ボールには次々と却下された社名が並んでいく。
『終わりが見えないニャ……』
ヴォルフガングは目を閉じ丸くなった。