第11話「経済征服への道」
ヴォルフガングは真剣な眼差しでアマリエを見つめる。
『次に、“誰に向けて売るか”ですニャ。いわゆるターゲット層の設定ですニャ』
「うむ。“癒やし”が必要な者……それはつまり、“疲れた者”じゃな!」
『どストレートなのですニャ……』
「人類社会も忙しいらしいからのう。働き詰めの労働者、夢を諦めた学生、膝を痛めた老婦人、失恋した青年――!」
『客層がバラバラすぎるのですニャ』
「“癒やし”に種族も年齢も関係ないんじゃ!」
『……それ、案外正しいのですニャ』
アマリエはスケッチブックの空白に、グリグリと円を描いた。
「この真ん中が、ワシじゃ!」
『……いきなり自己中心モデル……?』
「そこから癒やしが広がって、皆が笑顔になって、どこまでもどこまでも……世界がやさしくなる……!」
『ビジネス構想というより、ほぼポエムですニャ』
「ええじゃろう!? ワシ、魔王である前に“癒やしの女帝”じゃからのう!」
『そんな肩書き、初耳ですニャ』
しばし沈黙が流れる。アマリエは天井を見上げ、ぽつりとつぶやいた。
「ワシ、今の世を呪ってばかりおった。魔力がない世界、仲間のいない世界、昔を笑われる世界……」
『……』
「じゃが、スターシスは……その中で、魔力なしでも立っておった。ワシの昔を、捨てずに生かしておった」
拳を握る。
「ワシもやるぞ。ワシはもう、昔に戻れぬ。ただし、“魔族の未来”はこれから作れる。ワシは……“経営で勝つ”!!」
『……いいのですニャ?』
「うむ?」
『そんなに熱く語ると、次きっとコケますよ?勇者に負けた時みたいに』
「そ、それは困る……」
ヴォルフガングが苦笑しながらも、にやりと笑った。
『ですが、その覚悟――受け取りましたニャ』
「おお、ガンちゃん……おぬしは、ワシの副魔王じゃ!」
『それ、役職なのですニャ?』
「違う、気分でつけただけじゃ!」
そうして、二人はスケッチブックを挟み、ペンを握り、
世界征服ならぬ――“経済征服”の第一歩を、ゆっくりと踏み出した。