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3.初めまして、ではないですよね?2

本日三話目です

 

 そう言われ、フィオラははっとした。

 フィオラとしてはその後の流れを知っているので気にしていなかったが、普通ならどうなったかと問うところだ。


(たしか、ダリオン様の婚約破棄宣言後、お父様が現れ、ダリオン様とミレッラの婚約を正式に認めるのよね。そして私に謝罪するよう命じ、パーティ会場から追い出す)


 ミレッラと婚約したダリオンが騎士団を辞め商会の手伝いを始めるのが、それから二ヶ月後だ。ダリオンは商会の仕事に携わるとすぐに、お金を使い込んだとされるフィオラを追い出した。


 そんな未来を知っているフィオラに、イースランは淡々と事実を語っていく。 


「俺は広間にいなかったので聞いた話になりますが、当然ながら大騒ぎだったようです。フィオラが無実を訴え飛び降りたことで、ダリオンやミレッラ、ジネヴィラ伯爵夫妻に非難が集まり、パーティは早々に解散となりました」

「父は、ミレッラたちの婚約を報告しなかったのですか?」


「そんなことができる状況ではありません。ダリオンとミレッラは、不貞を働いたと糾弾されたそうです。それから、その場には騎士団長のザーク殿もいて、騎士にあるまじき不誠実さだとダリオンに自宅謹慎を命じたと聞きました」


 イースランの説明に、フィオラは言葉を失う。

 過去の人生においてダリオンとミレッラを祝福していた出席者が、今回は彼等を非難するだなんて。


 それだけフィオラが飛び降りたことは、出席者にとって衝撃的な出来事だった。失意のあまり自殺を図ったフィオラに同情し、死をもって無実を訴えたのだと皆が考えたのだ。


「両親はどうしているのですか?」

「まず、ジネヴィラ伯爵夫妻には、あなたへの虐待の容疑がかけられました」

「虐待?」


「フィオラを診察した医師が、貴族令嬢なのにやせ細り衰弱していることに疑問を感じたのです。……その、身体に打たれたあとのようなものがあったそうで、とてもではないが豪遊や男遊びをしているようには見えない。虐待の疑いがある場合、医師には憲兵に届け出る義務があるので、それに則り報告書を提出すると言っていました」


 フィオラはそっと自分の右腕に触れる。

 仕事が遅いと義母に扇子で殴られたのを思い出す。


「義母に仕事が遅いと叩かれたことはありますが、日常的に虐待されていたわけではありません」

「そのようですね。ただ、商会の関係者からフィオラが相当な業務を担っていたと証言がでました。衰弱していたのは過労のせいだと結論づけられ、ジネヴィラ伯爵夫妻には厳重注意がなされました」


 子供の頃に別邸で放置されていたのは虐待にあたるだろうが、いまさらそれを証明するのは不可能だし、現在フィオラは自立して寮で暮らしている。

 ほぼ罰則なしの処分は妥当なところである。


「そんなことになっていたのですね」


 眠っていた間に、とんでもないことが起きていたようだ。

 どの時間に回帰するのだろうと思って飛び降りたことが、まさかこんな事態を招くとは。

 汗がどっと噴き出し、言葉が出てこない。


 ただ口をパクパクとさせるフィオラを動転していると受け取ったイースランが、宥めるように背中を撫でた。

 しかし、そんな仕草がさらにフィオラを混乱させる。


(そんな優しい人でしたか?)


 フィオラも他人のことを言えないが、イースランも人づきあいが悪かったように思う。


 唯一親しかった副室長から聞いた話では、イースランは高貴な血筋ゆえ、幼い頃から取り入る大人や擦り寄る令嬢に囲まれ育ったらしい。

 そのため、猜疑心と警戒心が人一倍強いと言っていた。


(たしか、イースラン様のお母様はステンラー国王陛下の妹。さらに曾祖母は、この国の王族なのよね)


 そりゃ、利用しようとする人は後を絶たないだろう。とんでもない血統だ。

 そんなイースランがなぜか親し気にしてくる。

 フィオラの心にある疑念のせいか、イースランの穏やかな笑みがどこか胡散臭く、腹に一物を隠しているように感じてしまう。


 深く関わるな、と本能が警報音を鳴らす。早くこの場を立ち去らなくては。触らぬ神に祟りなしだ。


「教えてくださりありがとうございます。両親にもダリオン様にも、もう関わらないようにいたします」

「それがいいでしょう。ところでもう一晩泊まっても構わないのですが、どうしますか?」

「これ以上ご迷惑はおかけできません。もう回復したので、寮へ帰ります」

「そうですか。でしたら馬車で送りましょう」


 立ち上がったので、てっきり部屋を出ていくと思っていたのに、イースランはクローゼットへ向かう。


 そうして、そこから一枚のデイドレスを取り出した。

 深い海の底のような青色のデイワンピースは、ビロード地で仕立てられ胸元と袖に白いレースが施されている。

 ウエストには同じ色のサテンのリボンが巻かれ、裾はふわりと広がる可愛らしいデザインだ。


 ひと目見て上質だと分かる品に、フィオラの顔が強張る。


「それを、私にですか?」

「ええ。フィオラの着ていたドレスは俺の風魔法で破れてしまったので、お詫びに用意しました」


 キラキラとした笑顔に絶句しながら、改めて自分が今着ている服を見る。おそらく侍女が着せてくれたであろう寝間着も、高級な絹製だ。


 風魔法で破ったお詫びだとしても、あからさまにイースランの瞳と同じ色のデイドレスに、戸惑いしかでてこない。

 少なくともフィオラが知っているイースランはそんなタイプではない。

 無愛想で人と距離を置く孤高の美男子、だったはずだ。


「ありがとうございます?」


 素直に礼を言えないフィオラは、頬を引き攣らせながらもそれを受け取った。

 手になじむようなしっとりとした質感に、いくらしたのだろうと軽い眩暈を覚える。


「こちらのお代金は、後日お渡しします」

「いえいえ、お詫びと言ったでしょう。受け取れません」

「でも、そこまでしていただく理由がないですから」

「理由、が必要ですか」


 僅かに宙を睨み思案したイースランだったが、すぐに晴れやかな笑顔をフィオラに向けた。


「理由は、あなたに一目惚れしたから……」

「絶対噓ですよね!!」


 食い気味で否定したフィオラにイースランは目を瞬かせ、次いで大声で笑いだす。


「ははは、氷の才女と言われているからどんな女性かと思ったが、赤くなったり焦ったり、怒ったりと感情豊かではないですか」

(……これは、揶揄われている?)


 ここまでくると、フィオラも取り繕う気が失せてしまう。眇めた目で遠慮なくイースランを見た。


「私のような可愛げも面白げもない女に、イースラン様が一目惚れするわけがありません」

「そうでしょうか? 俺の目には充分魅力的に映るし、フィオラに興味があるのは本当です」


 絶対噓だろうと、フィオラが鼻を鳴らす。

 イースランは終始笑っているが、「興味がある」と言う瞬間だけは真剣な顔をしていたように感じた。しかしそれも一瞬のことで、今は面白そうにクツクツと笑っている。


(そっちこそ、そんなに笑うキャラじゃなかったわよね!?)


 寡黙で人と距離を置き、無愛想だったはずだ。

 それなのに、目の前の男はまだ笑い止まない。笑い上戸なのだろか。

 いい加減腹が立ってきたフィオラは、冷ややかに告げた。


「着替えますから外に出てください」

「手伝いましょうか?」

「ご冗談を」


 フィオラの剣幕にさすがにこれ以上はまずいと思ったのか、イースランは素直に部屋を出ていった。

 それを見届けたフィオラは、バタンと扉が閉まると同時に頭を抱える。


「いったいどうなっているのよ!」


 死ななかった。回帰しなかった。それはこの際、良しとしよう。

 だけれど、この事態はどういうことだ。


 三度目の人生で同僚だったイースランに助けられ、さらにはワンピースまで用意された。

 一目惚れは明らかに嘘だろうが、興味があると言うのは本当のように聞こえた。


 そもそも、なぜイースランはフィオラの誕生日パーティにいたのだろう。

 ステンラー帝国と縁を繋ぎたがっていた父親が呼んだのかもしれないが、過去数回分の記憶を辿ってもパーティ会場でイースランを見た覚えはなかった。


(でも、庭にいたのなら会っていなくても不思議ではないわよね)


 招待客については相談どころか誰が来るのかも教えられていなかった。でも、庭にいたのであれば見覚えがないのも納得できる。


 諸々の疑問をため息と一緒に吐き出すと、フィオラは立ち上がった。

 着ていた寝間着を脱ぎ、青いデイワンピースに着替える。


 こうして五回目の人生は、思いもよらない形で幕を開けたのであった。


ちょっと冷めたヒロインと、何を考えているのか読めないヒーロー。

このふたりがどう近づいていくのか、ぜひお楽しみください。

作者の好みが詰まった物語にお付き合い頂ける方、ブックマークお願いします!

☆、いいねが増える度に励まされています。ありがとうございます。


次からは朝、夕の二回更新をめざしますが、諸事情により変更する場合もありますのでご了承ください!


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