25.セレナの思惑
学生寮に戻ったセレナは、持っていた鞄を床に投げ捨てると、ベッドに倒れこんだ。
授業が終わってすぐに植物研究室に向かったセレナは、今日こそはイースランから話しかけられるだろうと期待していた。
しかしイースランはすでに研究室にいなく、代わりにダリアに温室の草抜きを頼まれてしまう。
以前、フィオラやダリアが草抜きをしろと虐めてくるとイースランに訴えたところ、「そういう約束でしたよね」と諭され、さらには「嫌ならもう来なくていいんですよ」とまで言われた。
それがあって、以降は渋々と水やりや草刈りをしている。
それなのに、イースランから感謝の言葉をかけられることも、デートに誘われることもなかった。
「研究室に入ったあとは、残業でふたりっきりになったり、仕事を手伝ったお礼にデートに誘われるはずなのに!」
夕方になると、イースランは仕事を終えさっさと研究室を出て行く。ふたりっきりになろうと室長室を訪ねてもすぐに追い出される始末だ。
セレナの記憶では、イースランは白衣を纏って薬学研究室にいたはずなのに、植物研究室なんて土臭いところにどうしているのか。そのせいで土いじりをしなくてはいけないじゃないっ、と怒りは収まらない。
「でも、もうすぐ学園祭よね」
それは、欠かせないイベントのひとつだ。
研究室で虐められていたセレナに、イースランはいつも仕事を手伝ってくれているお礼だと、ドレスをプレゼントしてくれる。
イースランの母国であるステンラー帝国の商会が出資しているその店は、バーデリア国の令嬢の話題と憧れの的になっていて、そこでオーダーメイドのドレスを仕立てるのだ。
そして帰りにパンケーキを食べるという、プチイベントまでついてくる。
ふたりの仲はさらに深まり、学園祭でセレナはイースランに花を渡すが、嫉妬した同僚により後夜祭のパーティで階段から落とされそうになってしまう。
そこをイースランが助け、お互いの想いを交わし合うのだ。
ここまでくれば、ほぼイースランルートは成功したも同然で、あとは最後のイベントをこなしたのち卒業式でバッジをもらえばいい。
「学園際に至るまでの過程は攻略対象によって変わるけれど、以降の流れはほぼ同じなのよね」
学園祭さえうまくいけば、ハッピーエンドは目前である。
卒業式までラブラブ期間を堪能するのもこのゲームの醍醐味のひとつで、セレナはそれをとても楽しみにしていた。
それまでは丁寧語だったイースランの口調が砕け、甘い言葉を囁くのが堪らない。
ちょっと嫉妬深いところも好みど真ん中だった。
「ところで、薬学研究室の場合は赤髪の令嬢が私を虐めるはずだけれど、植物研究室だと誰になるのかしら」
セレナを一番こき使ってくるのはダリアだが、イースランに興味は微塵もなさそうだ。というか、毒のある植物にしか目がいっていない。
となると、残るはフィオラ一択。
「氷の才女だから悪役としてもぴったりよね」
セレナは身体を起こすと、うんと大きく頷く。
そうと決まれば、これからの展開パターンを幾つか想像し、対策を練らなくては。
よし、と拳を握るセレナの顔は、イースランとの未来を期待して輝いていた。
「それまでは丁寧語だったイースランの口調が砕け、甘い言葉を囁くのが堪らない」→作者の性癖です。
次回はイースラン視点。
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