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1.五度目の婚約破棄

沢山の物語から見つけてくださりありがとうございます。

久々の長編!最後までお付き合いいただけると嬉しいです。

本日は数話投稿予定です。まずは1話目


 激しい胸の痛みと眩暈に襲われたフィオラは、もう何度目かになる浮遊感に吐き気を感じた。

 そうして、それらが治ると同時に耳に入ってきたのは、高らかと婚約破棄を宣言するダリオン・ディミトリ伯爵令息の声だ。


「フィオラ、お前が妹のミレッラを虐げ、ジネヴィラ伯爵家が経営する商会の金で豪遊しているのは分かっている。そんなお前との婚約は今日限りで破棄とする」


 いまだ覚束ない足を踏ん張ると、フィオラは亜麻色の髪を耳にかけ、菫色の瞳をあたりに巡らせる。


 天井高くに輝くシャンデリアの光を受け、磨き上げられた大理石の床は白く光る。

窓にかかるカーテンとソファは緋色で統一され、外には濃紺の夜空が見えた。

 開け放たれたテラスから入る晩秋の風はヒヤリと冷たく、窓辺に飾られたバラの香りを運んでくる。


 見間違うはずもない。ここはフィオラの実家であるジネヴィラ伯爵邸の四階にある大広間だ。

 あえて四階に作ったのは、自慢の庭を一望できるテラスをゲストに楽しんでもらうためらしい。


 今は、フィオラの二十歳を祝う誕生日パーティの真っ最中で、ジネヴィラ商会の取引先や国内の貴族が大勢集まっている。

 そんな彼等から向けられる冷たい視線に、フィオラはキュッと眉根を寄せた。

 

 バーデリア国では二十歳を成人とし、華やかに祝う習慣がある。

 にもかかわらず、フィオラが着ているドレスは流行遅れのもので、今夜の主役らしからぬ装いどころか、あきらかにこの場で浮いていた。


 フィオラに婚約破棄を告げたダリオンの隣に立つのは、半分血が繋がった妹のミレッラだ。

 ダリオンの瞳の色と同じエメラルドグリーンのドレスを身に纏ったミレッラこそ、今宵のパーティの主役であるように見える。


 ミレッラは、胸に輝く大きなエメラルドのネックレスに軽く触れると、ブロンドの髪を耳にかけ、潤んだオレンジ色の瞳でダリオンを見上げた。

 それに答えるようにダリオンは目を細めると、赤い髪をかきあげフィオラの悪事を浪々と語り始める。

 身に覚えのないそれらをすっかり暗記してしまったフィオラは、ただ茫然と広間の真ん中に立ち尽くした。

 誰にも分からないように小さく嘆息すると、ぎゅっとドレスを握る。


(どうやってもここに戻ってきてしまうのね)


 嬉々として述べられている断罪の言葉が、フィオラを素通りしていく。

 悲しみは過ぎ去り、今やフィオラの頭はひとつのことで一杯だった。


――いったい、私の身に何が起きているのだろう。


 四回目(・・・)の回帰に、フィオラは目の前が真っ暗になるような絶望を感じた。

 永遠と同じ時間を過ごすのは、もはや拷問に近かい。


(いい加減、この回帰から抜け出したい)


 それがたとえ死であったとしても。


 ぎゅっと奥歯を噛みフィオラはもう一度、広間に集まる人たちに目を配った。

 父親と義母は事前に話を聞かされていたのか、広間の隅で事の成り行きを見守り、目が合ってもフィオラを助けようとはしない。


 フィオラも、彼等にもう未練は感じなかった。


 だから、大きく深呼吸をするとしっかりとした足取りでまっすぐにテラスへと向う。

 背後でダリオンの呼び止める声がしたが、足は止まらない。

 そうしてテラスまで来ると、迷うことなく手摺に手をかけ身体を持ち上げた。そのまま足を乗せ、手摺の上に立つ。

 月の光を背にして、フィオラは会場に向き合った。

「おい! フィオラ!! 何を考えている」

「危ない! そこからおりなさい」


 ダリオンの焦った声に、父親の声が重なる。

 さすがに娘の暴挙に驚いたようで、壁際からテラスまで駆け寄ってきた。


「フィオラ、俺との婚約破棄がショックだからと言って早まるな!!」

(別にいまさらショックじゃないわ)


 風がフィオラの亜麻色の髪を散らした。

 もしこれが最後となるのなら、フィオラには言いたかったことがある。


「私はダリオン様を愛していました。それなのに、妹との不貞を美談にすり替えられ、濡れ衣を着せられ、誰も私を信じてくれない」


 頭上を見れば、星が輝いている。学園の鐘塔で見たのと同じ夜空に、あと何回回帰するのかと聞きたくなった。

 フィオラはそのまま後ろに重心を移していく。

 星がゆっくりと動き、視界に映るのが夜空だけになる。


「もう疲れました」


 ふわりと身体が宙に投げ出された。

 フィオラの手が縋るように月へと延びる。


 悲鳴と、自分の名を呼ぶ声を聞きながら、フィオラは目を閉じる。

 次に目を覚ましたとき、自分はどこにいるのだろう。

 こんな状況にもかかわらずちょっと胸がわくわくしたのは、研究者の性かも知れない。


いきなり飛び降りましたが、もちろん無事です。

複数回の回帰ものは初めてで、書きながら何度頭が混乱したことか。

作品は最後まで書き上げて投稿する主義なので、完結お約束です。

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