俺の姉の話②
ここはファミリーハウス【イザコザ】
ここで共同生活を行う五人の兄弟には秘密があった…
それは、兄弟全てが別々の母親から誕生した腹違いの兄弟なのであった…しかもこの事実は、正式な一夫多妻制として国からとある人物に向けて特例で許可が下りた特別な事例なのであった。
そんな一夫多妻制を実現できたのは、彼らの共通の父親であるジーク・フリードと呼ばれる人物の権力の大きさがそれを可能にしていたのであった。
そんなジーク・フリードとは、彼らが暮らす日本に古くから存在する悪の秘密結社の三代目のボスなのであった。
国に認められた非常識なボスによって育てられた非常識な兄弟の中でも唯一、一般常識を心得ているのがこのお話の主人公である【黒木王二 くろきおうじ】その人である。
このお話は、常識をもった王二と非常識が常識な兄弟達との絆の物語である!!
黒木家の長女であるアサガオの衝撃的なカミングアウトから1日と5時間後…
兄弟5人でのいつもと変わらない晩御飯を終えると、兄弟達はそれぞれ自身の部屋へ足早に帰っていった…
今までバラバラだった兄弟5人は、同居生活を開始した初日から兄弟5人だけのグループLINE【ダークマター】を開設せさていた。
【ダークマター】というグループ名は次女のジュノンが率先して名付けてくれたのであった。そんなグループLINEには、主に晩御飯が必要なのか?お風呂に誰が先に入るのか?など、兄弟で共有するべき出来事や施設の情報利用の情報の共有がメインで使われているのだ。
特にお風呂に関する報告は重要で、兄弟同士で自身が入浴したい時間がバッテングしないように、毎日ように連絡の交換を行っているのである。そんな黒木家のお風呂に関するルールの中に一番重要な事項が存在する…それは、【お風呂に最後に入浴した者がお風呂場を掃除する】という決まり事が設けらていたからである。
特に、次女の女子高生ジュノンと四男の中学生イネイは、お風呂掃除が嫌いで、他の兄弟達よりも早くお風呂を済ます事を重要視して生活しているのであった。
お風呂掃除といっても、黒木家とかかわりの深い秘密結社UCで制作した最新のお掃除ロボットのボタンを押すだけで、お風呂掃除の大半をこなしてくれる優れモノのおかげで、面倒なお風呂掃除の時間が極端に短縮されていたのだ。そんなお風呂掃除をもっぱっら行っているのは社会人である長女のアサガオである。アサガオは残業により労働時間が長引く事や、自身のストレス発散を半身浴によって補う事が出来ている事により、誰より遅い時間帯にお風呂に入浴し、誰にも邪魔されることなく長時間半身浴を満喫していたのであった。その為、だれよりも多くお風呂掃除をこなす事になっていたのであった。
そんな今日という日も長女のアサガオが最終の風呂を締めくくるものだと誰もが感じ取っていた…しかし、今日だけは色々な意味でアサガオが最終風呂を経験する事となった…
ー 時は過ぎ…次男の王二はというと、晩御飯の後から深夜0時までお風呂の事は気にせず、自身の部屋で大学のレポートを作成していた。
レポートの制作がひと段落下した王二は、就寝する前の入浴を行う為に家族LINEの【ダークマター】にアクセスし、他の兄弟達の入浴状況を確認してみた…
(イネイ…ジュノン…グレンは入浴済みか…入浴が済んでないのは俺と姉さんのみか?…まぁ姉さんはいつも通りか…)
入浴の順番が下から二番目である事を認識した王二は、兄弟のグループLINEに自身が入浴する事を報告した…すると、すぐさま姉から【了解です】という素気のない文章が流れてきたのを確認すると、王二は自身の部屋から入浴後に必要な下着類やバスタオルをタンスから取り出すと、足早に一階にあるお風呂場に足を向けることにした。
『ガッチャン!』
脱衣所で全裸になった無防備な王二は浴室に入り、すぐさまお風呂専用の半透明の椅子に腰かけ、シャンプーやボディーソープを駆使し、一日で纏った様々な汚れを洗い流す為の行為を行うことにした…
耳のくぼみや足の指と指の間に至る全ての地肌を念入りに洗浄する王二は、様々な状況下の中で特に体を洗っている時の集中力は凄まじいものがあった。
王二が自身の体磨きに意識を集中させていたその時…とある人影が脱衣所に出現していた事を王二は知る由もなかった…
『…ごちゃごちゃ…ごちゃごちゃ…』
納得いく洗浄が終わった王二は、全身に覆いかぶさるほどの大量の泡をシャワーのお湯で一気に頭上から洗い流した。
『シャーー』
全ての泡と汚れが浴室の排水溝に流れ切った事を確認した王二は、改めて入浴の醍醐味である浴槽への浸水を試みようとしたその時…脱衣所の出現していた人影に気づく事となった…
「ん?…誰かいるのか?」
『ガラガラガラ……』
『!?!?』
脱衣所と浴室を隔てているスモーク状のアクリル板が埋め込まれた扉から薄っすら姿を確認できた人影が、満を持して王二が待つ浴室へと姿を現した…その人影の正体に、王二は目が回るほどの錯乱状態に陥る事となってしまった…
「ちょちょちょちょ……なになになに!?………え?え?え?」
「そんなに驚く事かしら?」
(いったい何が起きているんだ…俺は幻覚を見ているのか?いや…そんなことは無い…これは現実だ…)
王二はすぐさま自力で錯乱状態を強制的に解除し、今現在発生している緊急事態を収拾させる為に、王二の精神に混乱を引き起こしている原因を作っている人物への対話を試みる事にした。
「いったい何を考えているだい…姉さん!!」
何と王二の目の前には、薄手のバスタオルで体を隠した姉のアサガオが確かにそこに実在していた。そんなアサガオは、透明感のある色白の肌に、細身でありながら飛び出しているところは適度に飛び出しているモデルの様な体型であった。
男女問わず憧れを抱く様な素晴らしい美貌を兼ね備えた姉が、ほぼ裸の状態で羞恥心を感じさせない堂々とした立ち振る舞いを垣間見せていた。そんなアサガオの姿に、逆に王子の方が恥ずかしさのあまり目を閉じてしまうほどであった。
「王二君…体を洗いたいのだけれど…隣いいかしら?」
「と…とと…となり?…いや…俺はもう体を洗い終わったから、大丈夫!」
王二たち五人兄弟が暮らすファミリーハウス【イザコザ】の浴室は一般家庭の二倍ほどの広さを要しており、シャワー台は二台・浴槽は大人なら同時に二人一緒にに入浴が出来るほどの広さを誇っていた。
王二は、流石に兄弟とはいえ、無防備な姉と隣同になる事により自身の平常心を保つことが困難になると考え、このまま湯舟に浸からずこの浴室から出ていく事も考えた…しかし、脱衣所へ向かう扉の前にほぼ裸の姉が立ちふさがっている事を加味し、この場は浴槽に逃げ込む事が賢明だと判断したのであった。
実際は、全て王二との混浴を望んでいた姉のアサガオの作戦であり、したたかな姉の思い通りに事が進んでいた事に当時の王二は知る由もなかった…
『ジャボン!!』
無防備な桃尻を姉に凝視されながら、王二は普通の一軒家庭ではありえない程の大きな浴槽に全身をうずめ、アサガオが体を洗い終えるまでこの場から動けずにいた…
(ヤバい…どうしよう…本当に入ってきた…流石に兄弟とはいえ、性別も違えば価値観も違う…一体どういった態度を示すのが正解なんだ…)
王二は、葛藤の末…この場は現実逃避するのが一番無難だと腹をくくり、その場で心と体の瞳を閉じ、無心になる事がこの状況を打破する最善策だと考えた…
『…ピッタ』
数分後、全身を洗い終えたアサガオは、ごく自然な流れで王二が浸かる浴槽へと足を踏み入れてきた…
「この家のお風呂は大きくて好きなの…前まで母親と住んでいたマンションの浴槽は、大人が一人で入るのが限界だったから…二人…三人くらい同時に入れるお風呂ってホント、憧れてたんだ…」
ごく自然にこの場にあった会話をチョイスする姉のセンスと開放的なこの場の雰囲気に後押しさせるように、自然と緊張感がほぐれ、さきほどまで瞑っていた瞼を開眼し、斜め上を見れるほど王二の心に余裕が生まれる様になっていた。
「いや…ホント。いつもこんな広い浴室を掃除させちゃって悪いね…」
「そんな事ないよ!掃除してくれるのは、殆どお掃除ロボットだし、王二君がやってる家事全般に比べれば大変なんかじゃないよ!そもそも王二君には食材の買い物のほとんど任せちゃってるしね…あと、掃除ってそんなに嫌いじゃないんだよね!掃除中は無心になれるし、これはこれでストレス発散になってる気がするんだよね」
姉のアサガオをはじめ、この家で暮らす兄弟達は普段から気が使える心優しい人間なのである。しかし…時たま見せる二面性を出さなければの話である…
お互いに忙しい王二とアサガオの二人は、裸の付き合いを通して普段は言いずらいお互いへのリスペクトの気持ちを言葉に出す事により、より一層兄弟の絆が深くなっていると実感していた。
たわいもない会話のキャッチボールを数回こなした後…アサガオは急に神妙な面持ちへと表情を変化させていた…
「この前は、ゴメンね…」
「あぁ…あの事ね…あれからあの件についての会話が一切無かったから、すっかり忘れてるかと思ったよ」
「忘れてなんかないよ…でも、かなり気まずかったのは事実だよ…」
「あの後、彼氏さんとはどうなったの?」
「その件なんだけど…普通に分かれる事にした。まぁ色々とゴタゴタはあったけど、いろんな意味で別れても大丈夫そうだったから…この際、綺麗さっぱり別れることにしたんだ…ホント、心配かけてごめんなさい…」
「そっか…何はともあれ、彼氏さんと蹴りが付いたならそれそれで良かったのかもしれないね!」
王二は改めて、アサガオが彼氏との大喧嘩の件について王二と会話をしたがっていた事にこの時気づく事となった。そして、アサガオ自身の中で何かが変化した結果、今回の様な大胆な行動に出たのだと王二は解釈する事が出来た。
「今までプライベートの事は家族以外に話しちゃダメだってずっと母親に言われてきての…だから、共同生活をしている兄弟達に対してもそれが当てはまるのかずっと考えてたの…」
「そうだったのか…だから、急に”あの事”が無かったことみたいに振舞っていたんだね…」
「ずっと悩んでたの…みんなが本当の家族なのかを…」
「姉さん…」
「急に兄弟が出来た事…ずっと受け入れられずにいた…だって、ずっと一人っ子として育てられてきたのに、一晩で長女になるなんて誰も想像できないと思うの」
異常だと思っていた姉から、真っ当な意見が飛び出した事よりも、アサガオという一人の女性の心の葛藤について王二は、痛いほど共感する事が出来た。
「姉さんも俺と同じだったんだね…俺以外の兄弟は、自分たちに血の繋がりがある兄弟がいた事に対して直ぐに受け入れていると勝手に勘違いしていたよ…ごめんよ…」
王二は改めて、心を開放するという事がどれだけ難しいことなのか、アサガオとの対話によって考えさせられていた…そして、今後もこのような腹を割った兄弟との対話がこの非常識な兄弟に足りない何かを埋める事が出来るのだと王二は確信する事が出来た…
ー 姉との混浴の時間が数分間続く中、王二たちは自然と無言の時間が殆ど気にならない位にまで間柄に昇格する事が出来ていた。そう…王二とアサガオは兄弟としての心の繋がりをこの短時間で一気に深め合う事に成功していたのであった…
その後、アサガオよりも長く湯舟に浸かっていた王二は、のぼせそうになる一歩手前でこの場から離脱する事を決断した。
『!?!?』
そして、ゆっくりその場から立ち上がろうとしたその時…アサガオから放たれた一言により、もう一度湯舟に浸かる事を余儀なくされてしまった…
「王二君…その腕の傷は?」
アサガオは、湯舟から立ち上がった王二の左腕に見知らぬ傷が形成されている事に何故か目を丸くして驚きを見せていた。
「覚えてないの?…そりょそうだよね……まぁいいや…別に大した傷じゃないし、そのうち治ると思うよ」
アサガオから指摘されたその傷の発生原因が何を隠そう、意識を失っていたアサガオ本人なのだという事を王二は今となってはそれを伝える必要はないのだと、そう考えるようにした…
しかし、そんな心優しい配慮は、この後の二人の会話には一切関係の無い気配りであった…
「いや…そうじゃなくて…なんで傷が治ってないの?」
『!?!?』
王二は、明らかに忘れていたのだ…アサガオがパートナーから受けた無数の傷跡が一瞬で元に戻っている事を…
「どういう事?傷ってそんな簡単に治るもんじゃないと思うけど…」
「そっか…そうなんだ…」
特に的外れではない王二の的確な返しに、何故か物悲しそうな表情を浮かべるアサガオは、何かを感じ取り、それを一瞬飲み込む事にした。
数秒後、脳内で気持ちの整理を行ったアサガオは、改めて王二に王二以外の兄弟と王二との関連性を問う事にした。
「ゴメンね変なこと言って…でもね…きっとこれから、その事が王二君と私達兄弟にとても大事な分岐点になると思うの…」
アサガオから言い放たれた含みのある言葉に、王二は何の心当たりも無かったが、それが自分が今まで他の兄弟達に抱いていた感情とは別次元のモノだとは王二は知る由もなかった…
「もしかして…俺と他の兄弟達には、何か決定的な違いが存在するのかい?」
『……』
アサガオはもう一度考え込むと…”それ”を自分なりに咀嚼し、順を追って王二に理解できるように説明する事にした。
「確か、王二君って今まで組織と無縁で生活してきたんだよね?」
「そうだね!今年の三月に初めて父親に組織の実態を説明されたんだ。だから、組織の実態はほとんど知らないに等しいんだ」
「なるほど…それなら、私達の秘密も知らなくて当然だったわね!ちなみに、王二君はこれから私達のチームのリーダーになる為にこの家に集められたんだよね?」
「リーダーっていうのはなんかこっぱずかしいけど、一応それであってると思うよ。ちなみに、父親からは他の兄弟の教育係になってほしいとしか聞いてないけどね」
「なるほど…それなら私達組織の人間が他の人間達とは何が違うのか、王二君には知る権利があるのね…」
『ゴックリ……』
一度この場からの退却を試みた王二であったが、姉のアサガオから語られるであろう”真の非現実”にうろたえつつも、もう一度この場に留まり、空想の様な実在の話を混沌という名の入浴剤が投入された浴槽の中で視聴する事を決断したのであった…
そして、その時はすぐに訪れた…
「私達、UCの構成員の殆どはULKAと呼ばれる薬品を日々、接種する事により自身の細胞が活性化され、人間が持っている潜在能力を強制的に底上げをする事が可能になっているの」
「ULKA?…細胞の底上げ?…」
聴きなじみのないULKAと呼ばれる、明らかに怪しい薬品を投与されているという構成品の情報を聞いた王二は、自身がイメージしていた非現実とは少し異なっていた事により、ドキドキやワクワクよりも何か途轍もない闇をそのULKAに感じ取っていた…
「じゃあ…姉さんの傷が一晩で完治したのは、そのULKAって言うヤバそうな薬品の影響なの?」
不安そうに姉の姿を見つめる王二の姿に、アサガオは表情筋を少し緩ませ、武器を持っていない兵士が自身の素性が怪しくないと表現するかのように、弟が抱いた不安の感情を払拭する為の補足説明を王二へ行う事にした。
「そっか…王二君は、この薬が何かの劇薬みたいに想像しちゃったんだね!でも大丈夫!一般的なULKAをはじめ、私達兄弟が摂取しているの新型のULKAも王二君が想像しているようなヤバい薬なんかじゃないの!もちろん副作用も多少は存在すけどね」
「ヤバくない…か…でも副作用はあるんだよね?」
弟を心配させない様に笑顔を振りまきながら語られた姉の言葉も、王二が抱く不安要素は全くと言っていいほど解消されることは無かった…
それをすぐさま察知したアサガオは、組織の機密情報を組織の内情をほとんど知らされていない王二に暴露する事で弟が抱く組織の懸念点を払拭しようと試みた。
「そもそもなんだけど、ULKAっていう薬品はそれを扱う人間を選ぶと言われているの!」
「薬品が人間を選ぶ?」
「そう…ULKAとは一部の人間に存在するとされる天狗細胞を活性化させる品物なの!」
「天狗細胞…?」
またしても聞きなじみの無い単語の出現に非現実好きの王二ですら、脳内のフィルターに天狗細胞という言葉が引っかかり、通過する事が出来ずにその場でとどまってしまっていた…
「天狗細胞っていうのは、私達の遠い先祖である”クラマ”と呼ばれた大天狗のモデルになったとされる実在の人物がもっていた特殊な細胞の事なの」
『ゴックリ…』
「うそ…天狗って実在してたんだ…」
ここにきて王二の胸をときめかす様な非現実的なワードに、王二は生唾を飲み、話の続きを催促するような眼差しをアサガオに照射していた。
「私達の組織、UCは身内で編成された同族組織なの。そして、この組織に入隊できる最低条件として設けられているのが、天狗細胞の所持なの」
「なるほど…父親の組織が、三代続く同族経営なのはこの前、父親から聞かされたけど、一般の隊員も含めての同族組織だなんて知らなかったな…でも、本当にそんな事可能なの?全国に相当な数の構成員が存在するとは聞いていたけど、それが全員親戚だなんて、ちょっと現実的じゃない気がするな…」
非現実と現実を行き来する王二の思考は、全国に散らばる血の繋がりがある同族の存在により一旦現実で停止していた。しかし、アサガオから語られる天狗伝説の詳細の説明により、王二は一気にUCという組織の規模の大きさを知る事となった。
「まぁそうよね…そう考えつくのも分かるわ…でも、天狗って1300年以上前の奈良時代から存在しているのよ!だから、所在が把握出来ていない天狗細胞を持った親戚が全国に散らばっていても、何らおかしいことじゃないのよ」
「マジ!?天狗ってそんな歴史があるモノだったんだ…でも、姉さん…よく天狗の事を理解しているんだね」
「もちろんよ!子供の頃から自分達の組織の事は、血反吐が出るくらい勉強させられたもの!」
あっけらかんした態度で恐怖体験を語る所がまさに非常識な自分の家族なのだと、王二は改めて思い知らされるのであった。
「もちろん、入隊した構成員の素性を細かくチェックした上で、入隊の審査はするんだろうけど、親戚だろうという保証が出ない人物も時々応募してくるらしの。そういう時は、そもそも天狗細胞の始まりとされる人物が私達の祖先である事は間違いないという前提条件の元、天狗細胞を所持している者が私達と血の繋がりがある人物だと仮定した上で、天狗細胞の所持者を入隊させているみたいよ」
スケールの規模が異様に多きい組織の歴史を学んだ王二は、改めてCUという組織が自身が暮らす日本に古くから根付いた存在なのだと考えさせられていた。
「話を戻すと、ULKAっていう薬品は隊員が所持している天狗細胞を活性させ、遠い祖先である大天狗”クラマ”の力を意図的に引き出す事が出来る薬品なの…もちろん、強制的にクラマの力を引き出す事により多少の副作用が出現するってわけ」
「なるほど…元々持っている天狗細胞を活性化させるだけだから、体にかかる負荷が最小限で済むって話なんだね。じゃあ姉さんの傷があっという間に回復した事は、体を崩壊させる様な副作用のあるドーピングを使ったんじゃなくて、自分に合った副作用の少ない栄養剤を摂取したって事でいいんだよね?」
「そうよ!やっとわかってくれたみたいね。私の事…私達の組織の事」
王二が生きてきた18年という歳月の中で得た知識の中で、自分に無い細胞を入れるという行為には拒絶反応という拒否反応が出現する事。一方で、自分の細胞に合ったモノを摂取したときには、拒絶反応は出現しない事…UCという組織は無理やりそのULKAと呼ばれる細胞活性剤を投与してはいない事…今の所は、元々存在していたモノを利用しているという事で、王二は一旦納得する事にした。
「ところで王二君?」
「なんだい姉さん?」
「今、話と事はこの組織の重要機密なの…一応、組織の人間になった王二君でもその事を知らされていなかったのには何か意味があるのかもしれない…だから、ここで話した内容は組織のボスであるお父様に報告させてもらうけど、大丈夫かしら?」
「そんなことか…俺は全然構わないよ…俺の知る父さんは、おっちょこちょいな一面もなるから、もしかしたらただ言い忘れていただけかもしれないしね」
アサガオは、組織に係る人間として、組織の機密情報への最低限のリスク管理をするために、王二へ伝えた重要機密の内容を父親でもあり組織のトップであるジークに報告する事を組織の新米である王二に伝えた…
王二は思いもよらなかった…まさかつい最近できた兄弟…しかも美人な姉と二人っきりで混浴する事…姉の恋人が不倫相手である事…姉を含めた他の兄弟達もとい、組織の人間が特殊な能力の使い手である事…お風呂に浸かりながら話す内容では無いディープでアブノーマルな会話の全てに王二は色々な意味でのぼせてしまいそうで心配になっていた…
そう…王二は、長時間の入浴によりのぼせてしまったであった…
『バッタん!!』
『!?!?』
「王二君!?王二君!!しっかり!…………」
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深夜1時…
王二はリビングのソファーの上で横になって、意識を失っていた。
王二が目覚めた時、見知らぬ美少女が携帯型の扇風機を使い、自身の体に冷たい風を送り続けてくれていた
「うぅ…俺…風呂場で倒れちゃったか??」
「おっ!!やっと目が覚めたみたいだね」
「君は一体?姉さんはどこに行ったんだ?」
「何言ってんの!?私だよ!私!ジュノンだよ」
「いやいや…俺の知るジュノンは、ガングロで巻き髪ロングヘアーなんだよ…それに比べて君は、美白の肌にショートカット…髪の毛の色は一緒だけど、全然俺の知るジュノンじゃないんだよ」
『……』
謎の女性は一瞬黙り込むと、徐にニヤッと不敵な笑顔を見せた。
「あれ?ニイニイは初めてだって私のスッピンを見るの!」
「え!?…その甘ったれた呼び方…本当にジュノンなのか…」
王二がジュノンを名乗る見知らぬ女性に翻弄していると、浴室の清掃を終えたアサガオがお風呂が戻ってきていた。
『!?』
「よかった~目が覚めたんだね!ん!?王二君どうしたの!?怯えた顔なんかしちゃって!?」
「姉さん!いいところに来た!見知らぬ女の子が自分の事をジュノンだって言うだよ…もしかして俺達の新しい妹なのかな?」
『……』
「ははっは…何言ってんの王二君?この子はれっきとしたジュノンだよ」
「ま…マジ!?でも肌の色も違うし、髪の長さ間違うんだよ」
「え~ニイニイってエクステやファンデーションの事全く知らないんだね…ウケるんですけど~!!」
「いやいや…エクステやファンデーションの事はある程度理解しているけど、ここまで普段と違いがあると、メイクの域を超えているぞ…これはまるで変装だよ!!しかも、学校がない土日もその格好じゃないか?」
「え~別にいいじゃん!だって土日は毎週、学校の友達と遊びに行ってるし。遊びの予定がなくても急に予定が入ることもあるし。とりあえずこのメイクを先にしとけば時間短縮になるんだもん!!」
『……』
(もしかして、本当にジュノンのか…だとすると、ホントにうちの兄弟達に秘密が多すぎる…1か月近く一緒に暮らしてきたジュノンの素顔が、実は全くの別人だったなんて…想像もつかないし、よく今までスッピンを俺に見せずに生活してきたよな~。これも父親の教育の一環なのか?)
ー その後、ジュノンから偶然リビングのソファーで看病される俺を発見し、俺を看病する姉の代わりに俺を看病してくれていた事を聞かされた。そして、ジュノンが殆どの時間をガングロメイクで過ごしている事…全身のメイクを落としている時間は、お風呂に入ってから睡眠後の目覚めの時だけなのだと聞かされた。
全てのごたごたを消化した王二は、自律神経の乱れが一部治らないまま、一睡もできずにその日の朝を迎える事となった…
そして、その日の夜…久しぶりに父親から1通のメールが俺のスマートフォンに送信された…
【王二、調子はどうだ!少しは兄弟達との共同生活は慣れてきたか?…早速だが本題に入ろう…アサガオから連絡がきたよ…お前にULKAの事や一族の歴史・一族の始祖であるクラマの事を話したと…そういえばお前に話していなかったか?ちゃんと話していたつもりだったが…俺も、もう年かな…ははははぁ…まぁ冗談はさておき。
…実は、お前が幼い時にULKAの摂取に必要な天狗細胞の数値を検査させた事があったのだ…その結果は、不合格だった…お前は天狗細胞を持った俺の子供だ…しかし、何故かお前には天狗細胞は存在しなかった…つまり、お前はUCの構成員としての適性が無かったんだ…それも相まって俺はお前を非常識…いや常識人へと育成する事を決断したのだ…だが、天狗細胞の無いお前にしか出来ない事が多く存在するのも確かだ。今後も俺達の為にお前の力かしてくれ…
最後にどうしても約束してほし事がある。それは、今度どんなこと起きようともULKAを口にしてはならない…もしもお前を含めた天狗細胞を持たない人間がULKAを口にしたその時…お前は自身の寿命を縮めるであろう…どうか約束してほしい…そして、大事な事を説明し忘れた事は心から詫びよう…父より】
俺は父から送られてきたメールの内容を熟読した後、自分の存在理由が少し理解する事が出来た気がした。今後、これから起こりうるであろう非現実的な未来を俺は乗り越えられるか心配である…しかし、その不安な一時的なモノで、俺…いや、俺達兄弟ならそんな不安を乗り越えられると、漠然ではあるが俺は直感していた…