帰路
「かえりたくないな」
「なぜ?」
「家に帰っても、私の居場所はないから」
「じゃあ、ずっとここにいればいい」
「いいの?」
「ああ、いいとも」
「でも、帰らないとお母さんに叱られる」
「かわいそうに」
「また、ここにきてもいい?」
「ああ、かまわないよ」
「じゃあ、またね」
「またおいで」
草むらの中で、独り言をいう少女。
私はこの子が雨に濡れぬよう、
熱中症にならないよう、
誰にも見えぬよう、
影をつくってあげることしかできない。
いつか、この子に大切な人ができるといいな。
私は願っている。