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海、女子高生

作者: 沢山多部太

 暑い夏の日差しは、思った以上に肌をじりじりと焼く。さっき塗った日焼け止めなんか、全く通用していないようだ。

 おばちゃんの商店で、アイス・バーを買わなかったことを後悔した。


 「あっつい!」

 「そりゃあこんな堤防に来たらそうでしょ。チャーシューにしてくださいって言ってるようなもんだよ」

 美香は手を仰ぎながらそう言った。

 ウェーブのかかった髪の毛に、そばかすがたくさんあって丸眼鏡をしてるもんだから、美香は気弱なアメリカ人みたいだ。

 「私ブタじゃないけど」

 彼女はいたずらっぽく笑う。

 

 「堤防の先っぽまで歩こうよ」

 「えー、暑いし嫌だよ」

 「とにかく、行くよ」

 私は美香の手を引っ張ってずんずんと進んだ。


 海が太陽の光を反射して光っていた。その一個一個がまぶしくて、目を閉じそうになった。

 二足のサンダルがじゃりじゃりと堤防を削り、制服が肌にくっついてブラが透けている。私が美香を、美香が私を馬鹿にして、笑いあった(それは普段からしていたし、全然嫌じゃなかった)。

 私たちは今、最高に女子高生をしていた。

 

 

 一生続くかと思った長い堤防も、もう少しで終点に差し掛かる。

 美香と私の手汗が混じり、べたべたになっていた。一つになるような感覚がして、不思議と嫌じゃなかった。

 「ねえ、なんでこんなとこまで来たの」

 美香は私に問う。

 「だって、ここってなんにもないじゃん?」

 「この島自体なんにもないけど」

 心底嫌そうに彼女は言った。

 

 「最後に味わっとこうと思って。なんにもない世界を」

 

 私は明日、東京に引っ越す。親の仕事の関係で。

 だから、なんでもある世界に行く前に、心置きなくなんにもない世界を堪能しておきたいのだ。


 「ねえ美香」

 「なに?」

 「明日、一緒に行こうよ」

 「東京ねえ。私あんまり興味ないかも」

 「取り残されてもいいの?」

 「悪くないでしょ。なんにもないのも」

 

 「そうだね」


 私と美香しかないこの世界は、明日から美香だけの世界になる。なんにもない世界は、私も彼女も大好きで、決してなんでもない世界ではないのだ。

 私は美香の手を離し、海に突き落とした。

 

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