表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/11

第八話 視力検査

「オラと博士は売られたんすよ。オラは当時の(あるじ)に、博士は……親に」


「子供を売るなんて……」


「博士は8歳までは両親と仲良く暮らしてたらしいっす。でも、9歳の誕生日に紋章が現れて、すべては変わったっす。博士が持っていた紋章は“鑑定の大紋章”。手の内に収めた物体の性質・材質を鑑定できる紋章っす」


「聞く限り、そこまで凄い紋章には思えないけど……あ! そっか、眼球は手に収められる」


「その通りっす。魔眼を作るには繊細な調合が必要っす。素体となる普通の眼球の情報をずっと把握して、必要な分だけ薬品を調合する。たった0.01mgのズレで、眼球は魔眼への道を閉ざしてしまう」


 ただの眼球を魔眼にする技術、知恵、才能。

 その全てを持ち合わせているのはナナシだけだ。


「魔眼作成に“鑑定の大紋章”は必須なんすよ。どこからか“空の玉座”は博士のことを知り、両親に交渉を持ちかけた。博士の両親は1億ゼラで博士を売ったっす。それから博士はずっと、暗い部屋で魔眼を作り続けたっす……」


「……」


 親に売られ、戦争の道具を作らされる日々……それに嫌気を差して逃げてきたのだろうとエイジは推測する。


「エイジ……お願いっす。エイジは、最後まで博士の味方で居てほしいっす。もし、裏切るにしても、見捨てるにしても、どうか……博士の居ないところでしてほしいっす……」


 エイジは笑い、ポンコの頭を撫でた。


「僕は裏切ることも見捨てることもしないよ。ナナシは僕に光をくれたんだ。暗い暗い世界から僕を引き上げてくれた恩人なんだよ。だから、その恩に報いるために……僕は絶対に彼女を〈ガルシア〉まで送り届ける」


 エイジは左眼の眼帯に手を沿える。


(そうだ、まずは彼女を〈ガルシア〉に送り届けるのが先だ。それまでにできるだけ、この眼から勇者の経験を抽出する。そして彼女を〈ガルシア〉に送り届けた後、万全な状態で復讐に臨む……)


 エイジの言葉を聞いていたのはポンコだけではなかった。

 その言葉を盗み聞きしていた少女はゆっくりと瞼を下ろし、1週間振りに睡眠をとったのだった。



 ---



 夜が明けて、太陽も出てきたところでエイジは火を消し、座ったまま1時間程度の仮眠を取った。


 そして目を覚ますと、


「おはようございます。エイジさん」


 ポンコの小さな口から首だけ出しているナナシが居た。


「うわあああっ!?」


 エイジは驚き、後ずさる。

 よいしょ。とナナシはポンコから体を出した。


「なにを驚いているのですか。前に言ったでしょう、ポンコの口の中は異空間に繋がっていると」


 ナナシはニヤニヤと笑っている。エイジを驚かす意図があったのは間違いない。


「ポンコの中に入れるなら、移動中はずっとポンコの中に居ればいいんじゃないの?」


「わたしの手を握ってください」


 ナナシは右手を出してくる。


「……?」


 エイジは言われた通り、ナナシの右手を握った。


「つめたっ!」


 エイジは手をひっこめる。ナナシの手は氷のように冷たかった。


「ポンコの中にはわたしのラボがあり、魔眼が置いてあります。魔眼はマイナス30度以下の環境で保存しないと腐ってしまうので、ポンコの中はマイナス30度で保たれているのです」


「……なるほど。ポンコの中にずっといたら凍死しちゃうね」


「そういうことです」 


 話が1つ終わったところで、ナナシは視力検査でおなじみ黒いスプーンのようなもの(遮眼子)と、視力検査でおなじみ、様々な大きさのCマーク(ランドルト環)が書かれた紙を出した。


「それでは視力検査を行います」


「視力検査?」


「はい。これから毎朝、魔眼のメンテナンスとして視力検査と眼球検査をやりますよ」


 ということで、エイジは左目を隠して視力検査を(おこな)う。


「これは?」

「右」


「これは?」

「左」


「これは?」

「左」


 ナナシが次々と指すランドルト環の欠けている方向を言っていく。


「ふむ。右眼、予知眼の視力は2.5ですね。次、左」


 今度は右眼を隠し、左眼を出す。


「これは?」

「上」


「これは?」

「下」


 結果。


「視力3.0。やはり魔眼のランクで視力は変動しますね」


「視力はなるべく揃えたいところだね。両眼を開くと見づらい」


「記録眼の視力を下げるのは簡単ですが、低い方に合わせるのは嫌ですね。予知眼の視力をなんとか上げたいですけど……この環境下じゃ難しいです。ひとまず、視力の不揃いは我慢してください」


「わかった」


 エイジは眼帯で左眼を隠す。


「さて、それじゃ〈ウミネコ〉に向かって出発しようか」


「いえ、その前に寄る場所があります。先ほどポンコに空から周囲を見てもらったのですが、面白いモノを見つけました」


「面白いモノ……悪い予感しかしないな」


「いえいえ、とってもわたしたちの利になるものです。ポンコ、案内お願いします」


「了解っす」


 ポンコの誘導に従い、〈ウミネコ〉のある北東ではなく北西へ進んでいく。

 坂を上り、草木をかき分け、着いた場所は殺風景な岩石地帯。

 その中心には……巣があった。巣には白色の卵が4個、銀色の卵が1個、金色の卵が1個ある。どれも30cmはある。


 エイジたちは茂みの中からそれを見る。


「あれは魔物コケドリの巣です」


「凄いね。銀の卵とか金の卵がある」


「銀の卵からは次の世代のクイーンが、金の卵からは次の世代のキングが生まれ、白の卵から産まれたただのコケドリたちはキングとクイーンに食われます」


「エグい……」


「あの卵を奪ってください。銀の卵は数万ゼラ、金の卵は数十万ゼラで売れます」


「無理だよ」


「おやおや、臆病ですね。怖いんですか?」


「そりゃ怖いさ。だって」


 巣の前後には――体長4メートルはある巨大なニワトリが2匹立っている。片方は黄色、片方はピンク色だ。


 2匹のコケドリは警備員の如く、周囲を警戒している。


「黄色のコケドリがキング、ピンクがクイーンですね」


「あんなの相手にしたら死んじゃうよ……」


 さすがに勇者の記憶を使っても無事では済まないだろう。


「別に戦う必要はありません」


「じゃあどうするの?」


「盗むんです。気配を消し、巣に侵入して奪取するのです。第三勇者(サード)は暗殺者でした。彼の記憶を使って卵を盗んでください。後のことは……」


「眼に聞けって言うんでしょ……わかったよ」


 エイジは左眼を隠す眼帯を外した。

お願いです。面白い! 続きが読みたい! と少しでも思ってもらえたなら、ブックマークと広告の下にある『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』から評価を入れてください。 【例:☆☆☆☆☆→★★★★★】

評価は作者のモチベーションに直結します。執筆のエネルギーになるので、どうかよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ