表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/11

第七話 泥被りの勇者

 第一勇者・ファルコ=ホワイト。


 性別は男。


 所有する紋章は“泥王(でいおう)の大紋章”。

 水魔術と土魔術の威力を大幅に上昇させる効果のある紋章だ。


 彼は生粋(きっすい)の魔術師であり、水と土を組み合わせた泥魔術を使い敵を殲滅してきた。一国を沈められる規模の泥を生成できたと言われている。


 5回の大厄災で最初の大厄災がもっとも苛烈だったと言われており、人口は10%以下まで減少した。絶望的な状況下で、彼は3人の仲間と手を組み、災王を打倒した。しかし、彼の最期は非情なものだった。


 災王を倒した後、彼は英雄として民衆に迎えられはしなかった。災王を倒した彼の力を人々は恐れたのだ。事実その気になれば国を沈められる力だ、彼はなにもしていないのに後ろ指をさされた。


 結局、人々は彼にありもしない罪を被せ、火刑に処した。


 それでも彼は笑って許したと言われている。自分が死んで、平和が訪れるならそれでいいと、最期に仲間に言ったそうだ。


 第一勇者・ファルコ=ホワイト。


 彼がそう呼ばれるようになったのは、彼が死んでから500年後のことだった。



 

 --歴史評論家アラン=カーシュネル著作 “勇ましき者と災いの王 第二章 泥被りの勇者ファースト”より抜粋--



 ---



 それは――とある魔術師の記憶。


 必死に魔術に関する文献を読み漁り、血のにじむような魔術訓練を繰り返している。

 必死に……必死に、涙を流しながらも彼は魔術を撃ちつづける。何日も、何十日も。

 家族のため、友人のため、国のため。見知らぬ誰かのために……ずっと。


「うっ!?」


 左眼から脳に痛みが走る。

 エイジは左瞼を下ろし、右手を地面につけた。


「グゲェ!」


 2匹のゴブリンソーサラーは同時に雷弾を撃ち出した。


「“土印(ソル)防破壁(ミュール)”」


 エイジの前に土の壁が出現し、雷弾を防いだ。土壁は雷弾によってヒビを作る。

 エイジはヒビの入った土壁を蹴破り、以前見た第二勇者(セカンド)の記憶を掘り起こしながら、ソーサラーゴブリンの1匹の頭を殴り潰した。


「げっ!?」


 仲間がやられ逃げ腰になったもう1匹のソーサラーゴブリンは背を向ける。

 エイジは背後からゴブリンの首を掴み上げ、握りつぶした。真紫の血が周囲に散らばる。


「凄いですね」


 ナナシは拍手する。


「あれだけの土壁を出すには1年は修行が必要ですよ。それをあんな簡単に出しちゃうなんて」


「……勇者の記憶のおかげだよ。僕が凄いわけじゃない」


 それは違う。とナナシは思う。


(バク転を見ただけでバク転をできるようになる人間なんて少数。魔術も同じ、見ただけでできるものじゃない。ましてや今の魔術の難易度はバク転よりさらに上のコークスクリュー並みです)


 ナナシは目を細める。


(体術だけでなく、魔術までも模倣できた。惜しいですね……もしも紋章を持っていれば、勇者候補だったのに)


 エイジはナナシの方を振り返る。


「え?」


 ナナシはエイジを見て、エイジの左眼から流れる透明の液体を見て、困惑した。


「どうして泣いてるんですか?」


「いや……なんでだろうね」


 エイジは頭に、さっき見た記憶を浮かべる。


「記憶で見た勇者がさ、とても……可哀そうに思えたんだ」


 エイジは涙を拭い、眼帯を付けた。



 ---



 鬼道を暫く進んだところに、巨大な岩壁があった。

 岩壁には多くの穴が掘ってある。人が5~6人入れるぐらいの穴だ。


「なんだろう、この穴ぼこ」


「これまでにここを訪れた人たちが掘った穴でしょう。テント穴ってやつです」


 冒険者は岩壁に穴を開け、そこを宿として使うことが多くある。こういう穴をテント穴と呼ぶのだ。


「好都合ですね、使っちゃいましょう」


「ふぃ~、やっと休めるっす~」


 エイジたちは穴の1つに入り、火を焚いて囲む。


(火を見るのも久しぶりだなぁ)


 焚火を懐かしそうに見るエイジ。

 火の中に……エイジは自分の故郷を思い出す。燃え盛る町並み、両親の姿を思い出す――


『エイジ! エリーゼを連れて逃げなさい!』


 母親はそう言って、ザクロの前に立ち塞がった。


『エイジ……エリーゼを、守り抜け……!』


 ザクロの攻撃からエイジを庇った父親はそう言った。


『お兄ちゃん……暗いよ、痛いよ……』


 両眼と腹を爆撃された妹はエイジに抱き着きながらそう言った。


「……」


 一方ナナシはウトウトと首を上下させていた。


「ナナシ。火は僕が見てるから、君は寝なよ」


「……そう……ですか、わかりました……お任せします……」


 ナナシはエイジに背を向け横になり、すやすやと眠った。


「眠かったんだね」


「そりゃそうっすよ」


 エイジの肩に乗ったポンコが返事する。


「博士が眠るの、多分……1週間振りぐらいっすからね」


「1週間……!?」


「“空の玉座”から脱走してずっと、博士が安心して眠れる場所はなかったっすから」


「脱走……ってことは、元々君たちは“空の玉座”に居たの?」


 ポンコはエイジの肩から飛び降り、エイジの前に着地する。


「そうっす。でも勘違いしないでほしいっす。オラたちは望んであそこにいたわけじゃないっすから……」

ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

面白い! 続きが読みたい! と少しでも思ってもらえたなら、

ブックマークと広告の下にある『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』から評価を入れてくださると助かります。 【例:☆☆☆☆☆→★★★★★】

評価は作者のモチベーションに直結しますので、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ