第六話 5人の勇者
人類滅亡の危機、大厄災は人類の歴史上5回起こっている。
5回の大厄災の王はそれぞれ災王と呼ばれる。災王を討ち滅ぼした存在、それは勇者と呼ばれた。
当然、起きた大厄災と同じ数だけの勇者が存在する。ゆえに、勇者の数は5人。
5人の勇者は同じ“勇者”という括りであってもその実態はまったく違ったと言われている。
5人の勇者はそれぞれタイプの違う戦法を扱い災王を倒した。男もいれば女もいた。性格も1人として近い者はいない。災王を倒した理由も『平和のためである』と言う者もいれば、『うるさいから』、『大金が貰えるから』、『好敵手を求めて』、『自分以外の王はありえない』などとまったく違う。
彼らに共通点があるとすれば、
強いこと。そして、左眼が淡い金色だったことのみである。
--歴史評論家アラン=カーシュネル著作 “勇ましき者と災いの王 第一章 5人の勇者”より抜粋--
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「これを読んでおいてください」
樹海を目指して街を歩いていると、ナナシがポンコの口から取り出した分厚い本を渡してきた。
タイトルは“勇ましき者と災いの王”。
「これは?」
「勇者について詳しく書かれたものです。少しずつ読み進めて勇者への理解を深めてください。あなたにとって、勇者の知識は戦力に直結します」
エイジの左眼には5人の勇者の記憶が焼き付いてある。
状況に応じた勇者の記憶の抽出ができなくてはならない。記録眼の力を最大限引き出すためにはそれぞれの勇者の特性を理解することは必須である。
エイジは本を背負ったバッグに入れる。
「ナナシ、体力は大丈夫? これから結構歩くけど……ほら、ポンコが君は運動音痴だって言ってたし」
「舐めないでください。まだ宿を出発して1キロぐらいじゃないですか、余裕です」
と言葉通り余裕の面持ちで言っていたナナシだったが、しばらく歩くと、
「ぜぇ……はぁ……!」
「ナナシ……」
「な、なんでしょうか?」
「大丈夫?」
「全然、余裕です……」
嘘である。汗だくで、余裕のない表情だ。それから数歩でナナシの足は止まった。
(こんな体力でよくこれまで逃げてこられたな……)
エイジはバッグを前に掛け、ナナシの前で屈む。
「なんの、つもりですか?」
「おんぶするよ。このままじゃ街を出るまでに夜が明けちゃうからね」
ナナシに気を遣ったのではなく、合理的な判断……という体でいく。
「……そうですね。お言葉に甘えます」
胸は背中に当てないよう気を使い、ナナシはエイジの背に身を預ける。
エイジは立ち上がり、歩き始める。
「すみません……」
「いいよ別に。ナナシは軽いから、大した負担にならない」
ナナシの体重を背に受けて、エイジは“空の玉座”に対して怒りを感じていた。
(こんなにも軽い……本当に食事出来てなかったんだな。こんな華奢な女の子を集団で追い回すなんて、酷いことをする)
「あの……そうではなくて」
「ん?」
ナナシは震えた声で、
「その、今のわたし、汗をかいているので汗臭いかと……」
想像していない言葉に、エイジはつい頬を緩ませてしまう。
「ははっ」
「あの、今の笑うところですか?」
「いや、ちょっと意外でね。そういうこと気にするタイプだと思わなかったから」
「む。わたしをなんだと思ってるのですか? 思春期&発情期真っ盛りの女の子ですよ」
「発情期は余計だよ……」
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〈リーヴァウス〉の北門から出て、すぐ目の前は樹海だ。
息を整えたナナシはエイジの背中から降りる。
樹海から港街〈ウミネコ〉に繋がる道は3つある。
1つ目は馬道と呼ばれ、馬車が通るルート。遠回りだが、かなりの頻度で道を整えており、坂道もない。馬車がよく通るため、下手すれば轢かれる。ゆえに徒歩でこの道を使う馬鹿はいないだろう。
2つ目は鬼道と呼ばれ、魔物が多く出る道。魔物を倒し素材を集めながら港街に行きたい者におすすめだ。
3つ目は歩道と呼ばれ、魔物避けの薬品がばら撒かれた道。決して魔物が出ないってことはないが、昼ならば99%出ない。一番人通りが多く、見晴らしも良い。
「もちろん歩道から行くよね?」
「いいえ、鬼道から行きます」
「なんでわざわざ魔物が出る道を?」
「歩道は“紅の騎士団”がよく見回りしています。彼らに見つかると面倒です」
“紅の騎士団”はこの国の治安を守る正規団だ。
“空の玉座”と違って警戒する必要はないはず……。
「気になるようですね、どうしてわたしが“紅の騎士団”にも追われているか」
エイジの考えを察したのか、ナナシは説明する。
「“紅の騎士団”はテロ組織である“空の玉座”と違い、善の団体です。彼らはこの国の秩序を守るためならなんだってやります」
「秩序……」
そこで、なぜナナシが追われているのかの解を得る。
「魔眼の力で魔術師を作れるわたしの存在は秩序を脅かします。彼らはわたしが敵対組織に渡ることを恐れている。“空の玉座”はわたしを戦力として欲しているため、わたしを殺すことはないでしょう。ですが、“紅の騎士団”はわたしの無力化が目的なので容赦なく殺しに来ます」
「そっか。じゃあ、“空の玉座”より“紅の騎士団”の方が君としては恐れるべき相手なんだね」
「そうですね。決して……彼らが悪いわけではないのですが」
悪のために狙われるより、正義のために狙われる方が気持ち的にはキツいモノがある。ナナシの悲しそうな表情はそんな複雑な思いを表していた。
「さっ! 行きますよ。魔物ツアー、レッツゴーです」
慰めの言葉はかけない。彼女が欲しているように見えなかったから。
「うん、行こうか」
鬼道に入る。
鬼道は距離的には一番の近道。だが道はゴツゴツしているし、木も倒れていたりする。坂道もある。整備は甘い。
「おっと、早速来ましたね」
青い肌の、身長100cmほどの人型魔物が2匹。
鼻が高く、耳が尖っている。俗に言うゴブリンというやつだ。
「ソーサラーゴブリンですね」
ナナシはゴブリンの手にある杖を指さして言う。
「ゴブリンは他種族のメスを容赦なく犯します。わたしの貞操のためにも必ず勝ってください」
「了解」
「フレー、フレーっす!」
エイジが前に出た時だった。
(ん!?)
ソーサラーゴブリンは杖を振り、雷を放った。
エイジは素早く反応し、雷を躱した。
(これが予知眼の力か。たしかに、動体視力が凄いことになってるな……あんな速い雷撃を問題なく躱せた)
「相手は魔術師タイプです。エイジさんも魔術で応戦しましょう」
「魔術なんて、使い方がわからないよ……」
ナナシは口元を笑わせる。
「眼に、聞きなさい」
「そう言うと思ったよ」
エイジは眼帯を外し、左瞼を開く。
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