第五話 恐るべき能力
「どうです? 見えますか?」
「うん。よく見える」
エイジの右眼は予知眼になった。
景色が鮮明に見える。記録眼と違って馴染んでいる感覚がある。
「左眼はこの眼帯で隠してください」
ナナシはポンコの口から出した黒い眼帯をエイジに渡す。
エイジは眼帯を付け、左眼を隠し、青色の予知眼だけを外に晒す。
「追手が集まってくるのは時間の問題ですね。こいつらは末端の雑魚、非魔術師だったからよかったですが、追手の中には魔術師もいる。魔眼に慣れる前に魔術師と交戦するのはまずいです。すぐにでも街を離れましょう」
「いや、街を離れる前に1つ寄りたい場所がある」
エイジは縄に縛り付けられた“空の玉座”の下っ端からダガーなどの武具を奪った。
「賞金首狩りをしているギルドがあるんだ。そこでこの武具を売って資金にしよう」
「いいですね、お金は大切です」
「ここから〈ガルシア〉に行くには海を越えないとならない。船に乗る金も必要だ。これだけじゃ足りないけど、足しにはなる」
「賛成ですが生ぬるいですね」
「え?」
ナナシは下っ端の服に手を掛ける。
「服も全部剥いて売り払ってしまいましょう。か弱い乙女を追い回した罰です」
ふっふっふ、とナナシは悪い顔をする。
「……それは勘弁してあげようよ。武具ならともかく、今から行くギルドの連中は衣服には興味ないだろうし」
「そうですか? もったいない」
ナナシは下っ端の服をゴソゴソと漁る。
「あ、財布をお忘れですよエイジさん」
ナナシは下っ端から財布を抜き取り、中身を見てため息を漏らした。
「うっわぁ、しけてますねぇ、この人たち」
「……」
まるで追剝だな、とエイジは思った。
「博士、まるで追剥っすね」
エイジが心の内で留めた言葉をポンコは言った。
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エイジはナナシを連れ、夕方に訪れたギルドの前にまた足を運んだ。
「君はここで待ってて」
「わかりました」
扉を開けて中に入る。酒を浴びるように飲んでいる男たちが居た。
(内装、こんな感じだったんだなぁ……〉
来るのは二度目だが見るのは初めてだ。
喧噪の間を縫って歩き、奥のソファーに座っているギルドマスター、ゴーシュの元へ向かう。
ゴーシュはエイジを見つけると、ため息を漏らした。
「おめぇはさっきの……ん? なんで見えもしない眼を出してんだ?」
「えっとぉ……い、イメチェンです」
説明するのが面倒だと感じ、適当に質問を流す。
「あぁん? まぁいいや。そんで、なんの用だ?」
「今日の内に街を離れるのですが、どうしてもお金が必要で……これらの装備品を買い取ってくれませんか?」
エイジは追手から奪い取ったダガーやグローブなどの装備品が詰まった袋をゴーシュに渡す。
「ほう、結構いいダガーだな……」
「もう他の店は閉まっていて、ここしかあてがなかったんです」
「そうだな……全部合わせて3万ゼラでどうだ?」
価値に反して少ない額だが、ギリギリ妥協できる範囲の値段だ。
「わかりました。それでいいです」
エイジは金を受け取り、扉へ向かう。
すると――
「へへっ」
夕方、エイジに足を掛けた男がまた左足を伸ばした。
「……」
避けることは容易い、だが、エイジは足をよけず男の足を自分の右足で踏んづけた。
「いって!!」
男は足を踏まれ、椅子から転げ落ちる。
「て、テメェなにしやがる!!」
エイジは笑顔で男の顔を見る。
「すみません、見えなかったもので。それに……」
笑顔を消し、
エイジは睨みつけるように男を見る。
「避けられないあなたも悪いのでは?」
「くっ……!」
男はエイジの顔に以前まではなかった威圧を感じて、それ以上なにも言えなかった。
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外に出たエイジはナナシと合流する。
「売れました?」
「3万で売れたよ。これで僕らの手持ち金は8万5千ゼラだ」
「それでも船代には及びませんね。1人8~10万ゼラは必要です」
「お金の問題は移動しながら考えよう」
「では、早速街を出ましょうか」
「えっと、思ったんだけどさ、いま出るのは危険じゃないかな? ここから港街〈ウミネコ〉に行くには東の森を通らないといけない。夜の森は魔物が多い……魔眼を手に入れたとはいえ、魔力も紋章も持ってない僕たちが魔物を相手にするのは難しいよ。せめて夜明けを待って……」
「いや、あなたは魔力を持ってますよ? 魔眼は紋章と同じで魔力を生み出す。今、あなたの体内には魔眼が生んだ魔力が通っているはずです」
「魔力が、僕の体に!?」
エイジは両手を広げる。
血液以外の『なにか』が滾っている感覚は――たしかにある。
「魔力を持つ眼、だから魔眼と呼ぶのです」
「そんな……じゃあ僕も、魔術が使えるのか」
「ちなみにわたしは紋章を持ってます。まぁ、戦闘には役立ちませんけどね」
「ちなみにオラも紋章を持ってるっす! まぁ、戦闘には役に立たないっすけど」
エイジは改めて、魔眼の異常さを思い知った。
(非魔術師をこんな簡単に魔術師に改造できるんだ。そりゃ、追われるわけだ……)
もしも魔眼が100個あれば、100人の魔術師を作れる。驚異的な能力だ。
「理解したなら街をでましょう。“空の玉座”は1部隊に必ず1人魔術師がいます。つまり、この街にも最低1人魔術師がいるのです。もたもたしてると見つかります」
「うん、わかった」
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