表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第三話 新たな光

「“(から)玉座(ぎょくざ)”という魔術師の組織がありまして、ザクロはそこの幹部です」


「“空の玉座”……」


 聞いたことのない組織名だ。


(信じていいのか? この()が言ってることは突飛なことばかりだ……でも、奴の手の甲にあった花模様の紋章を言い当てた。この情報の信憑性は高い)


 エイジは口元を笑わせる。


「その組織を追っていけば、アイツにたどり着ける……! 仇を討てる!」


 ようやく。 

 ようやく、仇へ一歩近づいた。


「どうやらあなたの目的は奴への復讐のようですね。やめた方が賢明ですよ」


 ナナシは冷たく言い切る。


「奴の紋章の力は凶悪です。非魔術師じゃ、例え寝込みを襲っても返り討ちに遭うでしょう。直接奴と相対したならよくわかってるはずですが」


「……うん。それでも」


 例え、返り討ちにあったとしても。


「やるしかないんだ。奴を殺さないと、僕は前に進めない。過去に囚われたままだ」


「殺されても構わないとでも言う気ですか?」


「刺し違えても殺す覚悟はある」


「……中々に重い覚悟ですね。1ミリだけ気に入りました」


 ナナシの足音が近づいてくる。


「月並みな言葉で悪いですが、復讐なんてしたところでなにも得るものはないと思いますよ」


「前提を間違えてるよ。僕はなにかが欲しいわけじゃない……ただ消したいだけだ。胸の内にある、どす黒いモノを。何度目を逸らしても視界に入る、この黒く禍々しくおぞましく、ヘドロのような感情を……目なんてもう見えないはずなのに、その感情だけは視界にちらつくんだ」


 ナナシは笑みをこぼす。


「益々気に入りました。1センチ……いや、1メートルぐらい気に入りましたよ。しかし残念ですね、このままではあなたはザクロにたどり着く前に、彼の部下に殺されるでしょう。だけど」


 ナナシはエイジの体をベッドに押し倒し、右手の人差し指でエイジの額を押す。


「わたしが力を貸せば勝率1%にはなるかもしれませんね。あなた……わたしの騎士(ナイト)になりませんか?」


「ナイト……?」


「はい。わたしを護衛してくれるなら魔眼をくれてやってもいいですよ。わたしは孤独の身で、味方と言えば使い魔が1匹だけなんです。絶賛仲間募集中ってわけです」


 胸に、柔い感触が当たる。

 ナナシの服越しの乳房だ。はじめて触れる同年代の女子の胸にエイジは息を呑む。眼が見えていないからこそ、感触が鮮明に伝わる。


 ナナシはエイジの眼の包帯を掴む。


「また、光が欲しいでしょう?」


 ナナシの吐息が、首筋を撫でる。


「光……」


 エイジが返事をする前に、部屋の窓がガンガンと叩かれた。


「まったく、タイミングの悪い……一体誰ですか」


 足音が窓の方へ向かっていく。

 ガラ。と窓を開く音が聞こえた。


「博士! 大変っす!」


 ガラガラ声の少年の声が聞こえた。


「おっと、わたしの唯一のお仲間の登場です」


 エイジにはその姿がわからないが、入ってきたのは竜だ。肩に乗れるぐらい小さい。

 竜は背中から生えた翼を振り、空を飛んでいる。普通の竜と違う点は毛が針のように尖っていることだ。


「どうしましたポンコツ」


「ポンコツじゃなくてポンコっす! 自分でつけた名前間違えないでくださいっす!」


 この竜はナナシの使い魔ポンコ。名前の由来はポンコツである。


「どっちでもいいでしょう。用件を言いなさい」


「どっちでもよくないっす! ――博士、“空の玉座”の連中がこの街に来ました。早く街を離れた方がいいっすよ!」


「ほんと、しつこい連中ですね……」


 窓から差し込む月光と寒風。そして、


「魔眼売りの使い魔が逃げ込んだのはこの辺だ」


「魔眼売りのところへ行った可能性が高いな。となると、この宿が怪しい」


 数人の足音と、男の声。

 男たちの会話から察するに、ここに彼らを誘導してきたのはポンコのようだ。


「……ふぅむ、どうやらあなたのせいでわたしはピンチのようです」


「痛い! 痛いっす! 頬っぺたつねるのはやめてほしいっす!」


(本人だけでなく、第三者がハッキリ“魔眼売り”という単語を口にした。まさか本当に……)


「どうするっすか! 博士!」

 

「迎撃するしかないでしょう。わたしにはもう逃げる(すべ)がありません」


 ナナシはエイジの包帯を剥がす。


「あなた、星座と血液型は?」


「えっと、星座はヒトデ座、血液型はX型だよ」


「――ッ!? 驚いた……なんという幸運。あなたならこの魔眼が使える」


「いたっ!」


 眼の周りに棘が刺さったような痛みが走る。


「ポンコの針です。麻酔の役割があります。それでも痛いですが我慢してください。えいっ」


 グリ。と左眼の裏側に、人の指の感触が滑り込んだ。

 次に、灼熱の痛みがくる。


「があああああああうっっ!!!!?」


 ナナシがエイジの眼に指を突っ込んだのだ。


 通常なら失神するほどの激痛。しかし、ポンコの麻酔針で痛みは軽減されていてギリギリ意識は保てる。


 生まれて初めての感触、左眼の部分から感覚が消えた。


「目玉を抉られたぐらいで大声出さないでください。男の子でしょう?」


「無茶苦茶言うな! っていうか、なんで僕の目玉を……」


 もう使えない眼だが、それでも執着はある。

 エイジは口に出しかけた文句をひっこめた。階段を上がってくる音が聞こえたからだ。


「今からあなたに魔眼をぶち込みます。魔眼の力で、奴らを迎撃してください」


「――魔眼なんて」


 エイジは瞼を下ろす。


「ザクロを殺したいのでしょう? それなら、わたしのことを信じてください」


 エイジは唾を飲みこむ。

 ナナシの冷たい手が、頬に触れる。


「……本当に、魔眼があるの?」

「ありますよ」

「それを受け入れれば、奴に近づける?」

「もちろん。大いなる一歩を踏み出せるでしょう」


 まだ、魔眼のことは信じられない。

 例え信じたとして、魔眼を埋め込むなんて怖い。

 心配や不安、疑心や恐怖、それらの感情が頭に渦巻く。


(僕は……)



――頭にザクロの顔が浮かんだ瞬間、すべての負の感情が吹っ飛んだ。



(奴を殺すためなら、なんだって受け入れてやる!!)


 エイジは口を開く。


「君のことを信じる。僕に、光をくれ!!」


「いいでしょう。とびっきりの極光をくれてやります」


 ゴリ、となにかを目にぶっこまれた。

 エイジは左眼を左手で塞ぎつつ、立ち上がる。同時に、部屋の扉が乱雑に開けられた。


「――いた! 見つけたぞ、魔眼売り!!」


 エイジは声の方を向き、ゆっくりと瞼を開いた。


「ああ……あぁ!!」


 危機的な状況なのに、エイジは喜びから声を上げてしまった。


()える、()える、()える!! 男が3人、()()()ぞ!)


 久々に見た光。

 だが喜んでられるのも束の間、男たちは短剣(ダガー)を抜き、エイジに向ける。


「なんだお前は? 魔眼売りの仲間か!」


(ど、どうしよう……眼が見えても、1対3で勝てるはずがない!)


 エイジは日々筋トレは欠かさなかったが、戦闘訓練を受けたことはない。

 しかも久々の光のある世界、まだ慣れない。


 頼れるのは――魔眼のみ。


「ナナシ! この魔眼どうやって使うの!?」


 エイジは敵から視線を外さずに聞く。


「わたしに聞かないでください」


「えぇ!?」


()に、聞きなさい!」


(眼に聞く?? いったい、なにを言って――)


 焦りから(まばた)きをした時、

 知らない景色が目の前に広がった。

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


面白い! 続きが読みたい! と少しでも思ってもらえたなら、

ブックマークと広告の下にある『ポイントを入れて作者を応援しましょう!』から評価を入れてくださると助かります! 【例:☆☆☆☆☆→★★★★★】


評価は作者のモチベーションに直結します。

どうかよろしくお願いいたしますm(__)m

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ