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第二話 手がかり

 宿屋以外のほとんどの店が閉店している商店街で、誰か女性が声を張っている。

 声から感じる印象は同い年か年下に思える。


「好きな女の子の裸を見たい! そんなあなたにはこの透視眼(とうしがん)を売りましょう。なんと目を凝らすほどに景色が透けていきます! 値段はたったの2000万」


 エイジにはその女の子の周囲を確認できない。できないが……通行人が彼女のことを避けているのはわかる。


 魔眼? 魔眼だって? そんなの聞いたことがない。

 しかも値段は馬鹿げている。冗談半分、興味本位で手を出せる値段じゃない。


「あ、そこのあなた!」


 声はエイジの方に向いていた。

 しまった。絡まれる――!


「もしかして眼が見えないのですか?」


 声と足音が近づいてくる。


「可哀そうに。あなたには特別、半額サービスで魔眼をあげましょう!」


「魔眼……? ははっ、本当にそんなものがあるなら欲しいけどね」


 エイジは愛想笑いする。

 エイジからすれば魔眼とまで言わず、普通の眼ですら喉から手が出るほど欲しいだろう。


「む。信じてませんね? と、わたしは頬っぺたを膨らませて怒りを表します」


「いちいち動作を口にしなくていいよ。生憎だけど、僕に魔眼を買うほどの大金は無い。じゃあ」


 エイジはそそくさと通り過ぎようとするがその背広を掴み止められた。

 気にせず前進しようとするが、少女は引きずられながらも掴み続ける。


「ところで、寒空(さむぞら)の下、1人で魔眼を売っている健気(けなげ)な女の子を見捨てるような人間にはなりたくないと思いませんか?」


「えーっと、君はなにを要求しているのかな?」


「簡潔に端的に言うと一晩泊まる場所を提供してほしいです。最後にお金を見たのは3日前なのです。ちなみに、眼の見えないあなたにスペシャルな情報をあげましょう。わたしは14歳の女の子で、見た目もそこそこ良い方だと自覚してます」


 眼の見えない僕にとって外見の情報なんて大して意味ないんだけどな、とエイジは思う。


「それならもっとお金のある人に頼みなよ。僕みたいな貧乏人じゃなくて」


「こういう言い方は失礼かもしれませんが、眼の見えないあなただからこそ信用できるのです」


 彼女が口にした年齢が本当なら、年頃の女性だ。

 男と同じ宿に入ると襲われる心配がある。この街の治安はお世辞にも良いとは言えない。

 しかし、エイジならその心配はない。眼が見えないのだから、襲われかけても撃退できる。そう踏んだのだろう。


 ぐきゅう~、と腹の鳴る音が聞こえる。それも連続して。


「……そうですか、わたしを見捨てるのですね。もう諦めます。ただ忘れないでください……あなたのせいで儚い命が1つ散ったということを……」


「僕を悪役にしないでくれる?」


 エイジはため息をつき、「わかったよ」と渋々頷いた。


「この先の宿屋に泊まるつもりだから、君も一緒に来なよ。僕のバッグにパンが入ってるから、それも分けてあげる」


「ありがとうございます! と、敬礼のポーズで感謝を示します」


 少女の冷たい手がエイジの手に触れる。

 少女はエイジの手を掴み、肩へ誘導した。


「わたしの肩を掴んでください。宿までエスコートしましょう」 


 盲目であるエイジをリードするその丁寧な動作には、少女の本質的な優しさが垣間見えた。


「助かるよ」


 エイジは少女の肩を掴む。


(身長は僕の肩ぐらいか。小さいな……)


 少女の肩の位置から大まかな身長を把握する。


 宿に着き、ツインベッドの部屋を借りる。

 1人用の部屋を借りるのに比べ、1.5倍の出費だ。エイジは金を出しながら涙を流した。


 二階へ行き、部屋に入り、ベッドに腰を落ち着ける。

 バッグからパンを出すと、少女は光の速さでパンを取っていった。


 むしゃむしゃとパンをかじる音が1メートル程先から聞こえる。少女はベッドに座ってパンをかじっているのだろう。


「空腹は最高のスパイスとはよく言ったものです。こんな犬の餌のような質素で腐りかけのパンがステーキより美味しく感じます」


「まともな食べ物なくてごめんね」


 エイジもパンを口に運ぶ。相変わらず味がない。スポンジを食べてるようだ。


「ところで君は何者? あんなところで、あんな胡散臭い商売をして……」


「わたしは魔眼売りのナナシです。魔眼を作り、売っています」


「魔眼……まだそんな嘘を」


「嘘じゃないです」


 声には感情がダイレクトに現れる。少女の声色的には嘘を言ってるようには聞こえない。嘘つきにしては声色が堂々としている。


 だけどあまりに言ってることが突飛すぎる。


「魔眼って、見た相手を石化させたり、千里先の景色を見たりできる馬鹿げた眼のことでしょ」


蛇眼(じゃがん)と千里眼ですね。蛇眼はまだ構想段階ですが、千里眼なら1個ありますよ。まぁわたしが持ってるモノは数キロ先を見るのが限界ですので、千里眼ってより一里眼って言う方が正しいかもしれません」


 まるで魔眼を本当に在る物だとして話すナナシに、エイジは呆れた。


「……仮に君の話を認めるとして、そんな凄い人間がこんなところでなにをしてるの? 魔眼を売るなら、もっとふさわしい場所があるでしょ。こんな貧乏人が集まる街じゃなくてさ」


「そういった場所には追手がいますから」


「追手?」


「はい、わたしは追われる身なのです。わたしの持つ貴重な魔眼を狙う人間は少なくない。低レベルの魔眼ならともかく、決して譲れない魔眼もあります。それを守るために、わたしは逃げています」


 14歳の少女が1人、追われている。事実なら許せないことだ。

 だが、魔眼なんて神話でしか聞かないモノを前提に話されても信じることはできない。


(被害妄想もここまでくると褒めたくなるな)


 パンを食べ終えたエイジは布団にくるまり、ベッドに横たわった。


「ちょっと、わたしにだけ事情を話させるのはせこくないですか? あなたのことも聞かせてください」


「……なにか聞きたいことがあるなら聞くよ」


「眼が見えないのは生まれつきですか?」


「いいや、1年前に焼かれた。それからだよ」


「焼かれた?」


「うん。背中に天馬のマークを付けた男に爆破されたんだ。眼だけじゃない……家族も、友人も、故郷も……すべて」


「背中に天馬のマーク? 奇遇ですね、わたしを追っている連中も背中に天馬のマークを付けています。それに爆破ですか、だとすると……相手はザクロですかねぇ。その男、()()()()()()()()()()()がありませんでしたか?」


 エイジはがばっと体を起こした。

 ナナシの方を向き、エイジは尋ねる。


「知って、いるのか……? 奴を!!」

ここまで読んでいただき、ありがとうございました!


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